意地っ張りの片想い

紅と碧湖

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16.鉄とオーク

207.コンプライアンス

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 大鳥さんのトコから佐藤さん寄って、「なんとかなりそうです」的な報告してから飛行機でとんぼ返りして社長と部長に報告した。
「かなりイイ感じでモチベーション上がってます。箱物のデザインで大鳥さんと照井さんがやり合ってる感じで……つっても照井さんはそんな攻撃的にならないんですけど」
「そうだろうね。ススム君やさしいもんね」
「逆にスゲエっすよ。大鳥さんがどんな突っかかっても、照井さんはふわっと流すんで」
「だからあの二人は、うまくやれるんだろうね」
 部長はが微笑みながら頷いた。
 大鳥さんは、なぜかいつも自信満々で、ある意味ビックリなほど折れない。けど逆に言うとひとの言葉を聞かない状態になりがち。
 なんで注意とか助言しても話が平行線になって終わりがちなんだけど、照井さんは聞いてるんだか聞いてないんだか分かんない感じでヘラヘラしてて、でも無視はしてないつうか。
 大鳥さんはいつもそんな照井さんにイライラして怒鳴るんだけど、最終的には根負けして話を聞くって感じで、なんか不思議な関係だなあ、なんて思ってたんだけど、その照井さんの話を聞くに至る間隔が徐々に短くなってきてるぽい。
「あの野郎イメージは面白いんだがな、知識が足りねえんだよ。勉強足りねえって言ってやれ」
「俺がそんなん言ったら、逆に反発しますよ。社長から言ってください」
 今んとこ大鳥さんが素直に話聞くのは、うちの社長と雪浦さんくらいだ。
「……そうか? まあ、言うくらいはいいが」
 なんて感じで報告終わり、日報に取りかかった。
「お疲れ様。それ終わったら帰りなさい。そして明日は休み。きみ二週くらい休んでないだろう」
「はあ、そうさせてもらいます」
 とかってシコシコ日報やってた。コレは社内の端末でしか触れないフォルダに入ってるから、家に帰ってから出来ない仕事なんだ。
 以前、ショップで対応した人が後日ワークショップに来てくれて、なのに前対応したときの情報が無かったために怒らせちゃったことがあった。最終的には受注に結びついたんだけど、お客さんに嫌な思いをさせちまったし、これマズイんじゃね? なんて話をしたとき、共有フォルダに顧客情報まとめた方が良くないかって言い出したのは佐藤譲。社長は「なに言ってんだ?」だったけど、「なるほど」呟いた部長はじめ、営業はそれぞれ頷いた。
 ショップやウェブで対応したお客さんには必ずワークショップを案内するから、これは良くあるパターンだ。ワークショップは専従の諏訪さんとパートさん二人でやってて、なるべく情報渡すようにはしてたけど、完璧じゃなかったんだよね。そうじゃなくてもウェブで問い合わせくれたひとが実店舗に顔出してくれるってコトあるし、もちろんその逆もある。
 てか営業はみんな定休取れない状態になっちまってるんで、各自適当に休み取ってちゃマズいってんで、今はシフト組んで順番に休んでるわけで、二度目以降の来客時、最初に対応した奴が必ずいるとは限らない。
 うちの家具はただでさえ高価。さらに注文しなきゃってのもお手軽の対極を行くわけ。
 営業だけじゃなく、職人からも細部の希望聞いてきたりするし、いまどきそんな手間暇かけて、どうしてもこういう家具が欲しい、なんて拘りあるひとはそんな多くない。
 つまりそういうお客さんは超貴重、てことだ。みんなでちゃんと受け止めなきゃだし、万が一にも競合他社にお客さんを持ってかれないようにしなきゃなんない。
 そのためにお客情報の共有はかなり有効に思えた。
「それイイな」
 なんて感じで、その案は即採用となった。つっても経営に余裕ないんで外注とか無理で、佐藤譲がシステム作った。おじさんや弟の関係で、システムにもちょっと詳しいってことで丸投げした。
 つうか佐藤譲はなにげにうち来て丹生田に質問とかしてたんだよ。丹生田はシステムとかネットワークのプロだからね。
 んで出来たものも、丹生田に確認して欲しいつって持って来た。
「見てみてもらえますか」
「……俺が見て良いのか」
「部長とうちの叔父の許可もらってきました」
 丹生田は頷いて、詳細を確認し始め、佐藤譲が色々説明した。
 三重のプロテクトをかけてみたとか、ココをこうしてみたとか、専門用語が飛び交う会話を横で聞きながら、ときおり頷いて聞いてる丹生田がめっちゃカッコ良くて、なにげに惚れ惚れしつつ、今まで丹生田は質問に答えてたけど、ちょっとしたヒント言う程度で、あんま詳しいことは言ってなかったんだ、とはじめて知った。
 なんで? そんな意地悪じゃねえよな丹生田? とか思ったりしてる俺は置いてきぼりで説明が終わり、
「頑張りましたね。良く出来ています」
 なんて丹生田は答えてる。
「まあ、プロならすぐ抜け道見つけるかもですが。俺程度じゃこれが限界です」
「いやいや、十分スゲエよ? さっきからなに話してんのかまったく分かんねえからね!」
 なんて言った俺を、佐藤譲はさっくりスルーした。いや、わりといつもそうなんだけどね。コイツ冷静つうか慇懃無礼なとこあるから。
「この程度だと、丹生田さんなら入れるんじゃないですか」
「やろうとおもえば、おそらく」
「マジか! ンじゃ丹生田が作ってくれればイイんじゃねえの」
 さっきから、なんでプロのアドバイスとかしねえの? なんて思って単純な疑問をくちにすると、丹生田は苦笑しながらゆっくり首を横に振る。
「俺が個人で仕事を請け負うことは出来ない」
「なんで? だってできるんだろ?」
「俺のスキルは社で培われたものだ。俺がシステムを組むということは社の仕事を開示することになり、コンプライアンスに反する」
 丹生田はよく法令遵守コンプライアンスって言ってるけど、そういうコトなんかぁ。俺ってば、はっきり分かってなかったんだな。
「そっかぁ~、うちはそんなんねえからなぁ~、分からんかった。ゴメンな、無理言って」
「……これは六田家具としてもコンプライアンスに関わってくるだろう」
「えっ、そうなの?」
「個人情報の管理は法令で定められたものだ。外部の人間である俺が詳細を知ることも問題がある。ゆえに今聞いたことは忘れる。……社で正式に受注すれば話は別だが」
 言われりゃ確かにめちゃめちゃ個人情報、ってだけじゃない。うちが出来ることと出来ないこと、どんな材を使うとか、デザイン、構造の工夫、全部バレバレになる。考えたらこのデータベースは企業秘密の塊になるわけだ、と気づいた。
 なんで、丹生田の助言もあって、社内にある端末とワークショップからしかアクセス出来ないようにしたってわけ。朝ウェブで問い合わせたひとが夜ワークショップに来てくれたりすることもあるんで、みんな接客した情報は、なるべく早く日報に入れとくコトになってる。
 そっから業務連絡なんかも日報で見られるようにした。みんな必ず見るもんだから、ちょうど良いねってことで。
 大鳥さん達のことは、これからの六田家具にとって重要。そうじゃなくても六田家具で何ヶ月も修行してた大鳥さんのこと、みんな気にしてるんで、なるべく詳細入れるようにしてる。
 なんだけど、日報やってたらショップから対応依頼が来ちゃった。
 営業出払ってたんで自分で行こうとしたら「きみはいいよ」と部長が言った。
「俺が行ってくる。もう帰りなさい」
 もちろん部長はめちゃ仕事出来るひとだし、だからこそ佐藤さんが六田家具に引き抜いたわけだけど、ほぼ書類や銀行と格闘してる毎日なんで、最近多い問い合わせの傾向なんか、たぶん知らねえだろう。つまり俺の方が現場分かってる。
 それに店の什器探してる新規の客だった。店舗内装は庄山先輩のトコでみっちりやったから色々学んだし、そんとき調べたことも身についてる。つまり得意分野なのだ。
「大丈夫っす、俺行きますよ」
 なんで部長押しとどめて飛んでった。
 十分程度でショップに到着、接客スペース借りて対応したんだけど、新たに支店出すカフェオーナーで、コンセプトがハッキリしてたから話弾んで、けっこう長話になっちまいつつ、三日後に現地見に行く約束して社に戻った。
 うまく行けば大口受注イケる、なんてウキウキしながら日報打ち込み、社を出たときはけっこう遅くなってた。
 帰ると丹生田が「おかえり。お疲れだな」なんつってメシ用意してあったわけで。考えたら旭川で昼メシ食ってからなんもくちに入れてねくて、ぐうぅぅとか腹鳴って。
「うん、めちゃ腹減ってる~っ!」
「スーツ脱いでこい」
 言われて「はあい」寝室に入り、着がえてたら丹生田が畳んだ洗濯物を持って来た。
「また洗濯やらせちまった? わりい」
「かまわない」
 言いながらウォークインクロゼットに入った丹生田は、引き出しに服をしまってる。その広い背中に目を向け、なにげに癒やされながらTシャツ半パンに着がえて、「うぁ~~~」なんて声出しながら両手を上に伸ばし、その勢いのまま背中からベッドに倒れ込んだ。
「つっかれたぁ~~」
 目を閉じて、ふぅぅ、とか深呼吸する。
 ベッド超気持ち良い。動きたくない。でも腹減った。なんてダラっとしてたら、灯りが遮られ、フッと目を開くと、丹生田がワイシャツ差し出してた。
「コレを頼む」
「ああ、アイロン?」
「そうだ。失敗した」
「おっけ、明日やっとくよ。チェストに置いといてくれれば……ふあぁぁ」
「明日は休みか」
「うん、二週間ぶりだな~」
「……寝るのか」
「ンや、腹減ったし」
 腹筋に力込めて「う~っし」ベッドの上に起き上がり、ニッと笑いかける。
「メシ食ってから寝る。今日は……」
「鶏天丼だ」
 目を細めた丹生田の口元が緩んでる。
「おお、うまそ」
 簡単に癒やされリビングへ向かって、鶏天丼と浅漬けを堪能し、風呂入って
「早く寝ろ」
 とか言われて素直にベッドへ行き、マッサージしてもらいながら、やっぱり眠っちまったのだった。
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