辺境伯に嫁いだので、可愛い義息子と楽しい辺境生活を送ります ~ついでに傷心辺境伯とのぐずぐずの恋物語を添えて~

空野 碧舟

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気が付けなかった異変

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 それからの日々は慌ただしいものになった。

 朝食時は毎日、ヒューバートとルイが少しずつ会話を重ねていくのを見守った。ルイとは変わらず、遊んだり、いろいろなことをして過ごした。

 辺境伯領のことや夫人の仕事については、講師が来るのに少し時間が掛かるということで、執事長や侍女頭のレイニーから学べることを学んで過ごした。

 あっという間に5日が経ち、昼食後に商会の到着を待っていたエメリーンの元に、「少しお話をさせていただきたい」と訪ねてきたのは意外な人物だった。

「それは今でないといけないのですか、セイディ」

 商会の者と会うのが徐々に楽しみになっているエメリーンを知っているため、咎めるようなマーサの声は少し強めだ。そんなマーサを横目に、「奥様、なるべく早めの方が良いと、俺、いえ自分も思いますよ」と進言してきたのは兵士のバアルだ。

「あら、バアル。何だか久しぶりね。三連休は楽しめたのかしら?」

「そりゃあもう。でも残っていた奴らから、『面白いものを見逃したぞ』と口々に聞かされましたよ。奥様、あれから一体何があったんでしょうかね」

「あら、知りたい?」

 エメリーンが微笑むと、バアルは両手を軽く上げながら、ススッと2歩後退った。

「あー、いえ、大丈夫です。たぶん、自分は知っております」

「そうね。……ええ、たぶん、その通りよ」

 バアルはエメリーンの本性を見た、第一目撃者だ。あの日のことをヒューバートが酔って覚えていないため、唯一の目撃者とも言える。

「アレよりは、アレでしょうかね」

「どうかしら? まあ直接話しているわけだから、たぶん、まあ、アレよりは?」

 セイディとマーサがいるため、言葉を濁したバアルに合わせて答えながらも、エメリーンはあまり自信がなかった。

 ――たぶん、いえ、どうかしら……? 少なくとも、モノ扱いはしていないから、良いと思うのだけど。

 無言になった二人に、ずっと待たされていたセイディが口を挟んできた。

「あの、奥様、お話してもよろしいでしょうか?」

「ああ、そうだったな。奥様、申し訳ないです。今は自分との話より、セイディの話を聞いてください」

 バアルが慌てたように、エメリーンの方にセイディの背中を押す。

「分かったわ。何かあったのかしら?」

「はい、ルイ様のことで、急ぎご相談があります」

「ルイ様のこと? そんなの何より優先して聞くわ。何があったの?」

 前のめりにセイディに近付いたエメリーンに、セイディは目を丸くしたが、すぐに安堵の表情を浮かべた。

「はい。その……」

 話し出してすぐに言葉に詰まったセイディを急かさず、エメリーンは次の言葉を待った。

「……朝食に、ヒューバート様がご一緒されることについて、なのですが」

 言いにくそうなその様子に、エメリーンはハッとした。

「もしかして、ルイ様は嫌がっているのかしら? 気が付けなくてごめんなさい。だったらすぐにでも中止させるわ」

 エメリーンには直接不満を伝えることができなかっただけで、セイディにはルイが本音を言えたのかもしれない。エメリーンはそう思ったのだが、セイディがすぐに否定した。

「いえ、嫌、というのは、違うようなのですが……」

 歯切れの悪いセイディに、エメリーンは首を傾げた。

「そう? セイディから見て、で良いから、ルイ様がどういう状態なのか教えてもらえるかしら?」

「はい。……そう、ですね。何というのが正しいのか……。最初は、ただ戸惑っていらっしゃったようでした」

「ええ、私にもそう見えたわ」

「今はとても複雑で……、あの……、楽しそうだったり、嬉しそうであったりもするのですが、その……、悲しそうだったり、何かに怯えているような時があるのです」

「え?」

 エメリーンの全く知らないルイの話を聞いて、エメリーンは驚くことしかできなかった。ここ数日の間に、ルイがそんなことになっていたとは思いもよらなかったのだ。

「あの、私と会っているときには、そんな様子は微塵も感じられなかったのだけど……。昼食時もとても元気だったのよ?」

「ええ、奥様とお会いしている日中などは、ただただ楽しそうで嬉しそうなのですが……、夜になると……その、お一人で泣いていらっしゃるようなのです。お、奥様?」

 セイディが言い終わる前に、エメリーンは扉に向かって歩き出していた。

「ルイ様のところに行くわ」

「「「奥様っ?」」」

 三者三様に上がった驚きの声を聞きながらも、エメリーンは立ち止まらずに進み、扉のノブに手を掛けたところで、その手をバアルが押さえた。

「何?」

「失礼します、奥様。でも聞いてくださいよ。ルイ様は今、勉強の時間です。そんなところに奥様が押しかけて行って、何を言うつもりですか?」

「奥様がルイ様のことを想ってくださるなら、良いタイミングで、さりげなくお話を聞いていただけると大変ありがたいです」

 バアルとセイディの言葉に、強張っていたエメリーンの身体から力が抜けた。

「そう……、そうね。じゃあ、今日の夕食後、ルイ様と話ができるようにしてもらえるかしら?」

 夕食の時間に話をすることも可能だが、ルイが感情を揺らして、食事が喉を通らなくなるようなことがあっては困る。そう考えて、エメリーンが夕食後のスケジュールを聞くと、セイディが力強く頷いた。

「はい、問題ありません。……奥様、どうぞルイ様のこと、よろしくお願いいたします」

「ええ、セイディも、引き続きお願いね。……教えてくれてありがとう」

 エメリーンがセイディに頭を下げると、セイディもエメリーンに頭を下げた。セイディの瞳には複雑そうな感情が滲んでいたが、それに気が付いたバアルが微かに目を細めただけで、ルイのことで頭がいっぱいのエメリーンが、それらに気が付くことはなかった。
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