辺境伯に嫁いだので、可愛い義息子と楽しい辺境生活を送ります ~ついでに傷心辺境伯とのぐずぐずの恋物語を添えて~

空野 碧舟

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窓の使い方

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 「魔物が出ました。数は50から60」と、走りながらバアルがエメリーンに情報を共有する。

「いつもより数が多いの? それとも強さが違うの?」

「数ですね。30を超えることは滅多にないんですよ」

「数に幅があるのは?」

「小型ばかりなので、正確な数の把握より、スピードを優先したのかと」

 なるほど、とエメリーンが呟く。

「鐘の鳴らし方で情報を伝えているのかしら?」

「そうです」

「後でそれも教えてちょうだいね」

 エメリーンの言葉に、バアルが声を出して笑いながら頷いた。

「ハハッ、奥様やっぱりどこかの組織に居たでしょう?」

「居ないわよ」

「じゃあ、年齢詐称してませんか? 18歳にしては、肝が座りすぎてますって」

「あら、バレたの?」

 不敵に笑うエメリーンに、バアルが目を見開いた。

「え? 当たりですか? 30とか?」

「外れ。19よ。10日前になったばかり」

「ええっ? ちょ、ちょっと待ってくださいよ。それはそれで問題が」

 慌てた声を出していたバアルが、スッと黙った。それと同時に窓の横に隠れたバアルに倣い、エメリーンも窓の横に移動する。

「見えましたか?」

「ええ、小さめの、人型の魔物?」

「はい、あれはゴブリンですね。見るのは初めてですか?」

「そうね……」

 曖昧な返事に、バアルが怪訝そうな顔をした。「はい」とも「いいえ」とも言えないのは、どちらでもあるからだ。エメリーンにとっては「はい」で、アリサにとっては「いいえ」だった。

 だが今は、エメリーンにもバアルにも、そんなことを気にしている時間が無い。

「ニ匹かしら?」

「いえ、まだどんどん来てますね。たぶん、自分が合流することを見越して、敢えて見逃したのかと。……にしては、ちょっと多いですね。とすると、最初の報告より数が多いのかもしれないです」

「そう。それじゃあ、行くわね」

 エメリーンたちが今いるのは、辺境伯邸の2階部分だ。そう告げて窓に足を掛けようとしたエメリーンを、バアルが力づくで引き戻した。

「あら?」

「あら、じゃないですよ。自分と約束しましたよね。今日は後方支援だって」

「ええ、確かにそう言ったわ。でもこんなに数が多いのだから、仕方がないでしょう? 今、手持ちの小刀は3本しかないの。投げずに直接行けば1本、両手持ちでも2本で済むのよ?」

「は? 3本も持ってるんですか?」

「3本しかない、と言っているのだけど?」

 頬に手を置いて、「困ったものよね」と言うエメリーンを前に、バアルはどうすれば良いのか悩んでいるようだ。決断出来ない様子のバアルに、エメリーンが言った。

「分かったわ。じゃあ、私はバアルの後ろを行く。討ち漏らしを私が担当するの。それでどうかしら?」

「いえ……、遠方からではどうしても無理ですか?」

「無理ね。ゴブリンは意外と頑丈だから、小刀が尽きて、肉弾戦になると面倒よ。あ、このガラスを割って使おうかしら……。ダメね、投げることは出来るけど、手が血だらけになるわ。細工する時間はないし」

 「肉弾戦……?」と、エメリーンの言葉をバアルが繰り返す。エメリーンは肉弾戦を、面倒だとは言ったが、出来ないとは言わなかった。そのことに気が付いたのだ。

 「くそっ、どうする?」と、どうするべきか揺れているバアルに、エメリーンが何の気負いもない声で聞いた。

「バアルの後ろを行くのが、一番現実的なんだけど、ダメかしら?」

 徐々に近付いているゴブリンたちとの距離に、バアルが舌打ちした。

「分かりました。でも、絶対に怪我したりしないでくださいね。……自分の責任問題になりますから。罰則で休暇無しになるかもしれないので」

 開き直ったのか、冗談まじりでそう言ったバアルに、エメリーンがさらりと答えた。

「あら、それは大変ね。分かったわ」

「あっ!」

 肩を竦めながらそう言うや否や、エメリーンが窓から飛び降りた。慌ててバアルも窓から飛び出す。

 二人が受け身をとって着地するときには、バアルがエメリーンの前に出ていたが、「話の途中で飛び出さないでください!」と、エメリーンはバアルに真面目な顔で怒られた。

 ――まあ、バアルに怒られたの、初めてだわ。

「ごめんなさい」

 エメリーンが素直に謝った直後、エメリーンたちはゴブリンと対峙した。
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