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――いや、もうちょっと、せめて一匹くらいは残してほしいのだけど。
エメリーンは小刀を握っている両手を、身体の横にだらんと落とした。ずいぶん長く、構えて待っていたのだが、バアルを超えて来るゴブリンは、ただの一匹もいなかった。
――まあ、バアルが強いのは知っていたけどね。ちょっと強すぎない? 辺境伯領の兵士って本当にすごいのね。
ゴブリン特有の緑の血を浴びながら、縦横無尽に駆け回っているバアルに、エメリーンが「ちょっと一匹こちらにも」と言わないのは、また怒られるような気がしたからだ。
エメリーンは、バアルに怒られるのが怖いわけではない。ただ戦闘中にバアルの気が散るようなことをしたくなかっただけだ。
バアルの頭上を超えてエメリーンの元に来ようとしたゴブリンが、真っ二つになって地に落ちた。それももう3回目のことなので、エメリーンは小刀を構え直すこともしなかった。
――うん、血しぶきも私には掛からないようにって、ちょっとお姫様扱いし過ぎじゃない?
バアル自身は血塗れになりながら、2本目の長剣を振り回している。1本目は切れなくなったのだろう。途中でポイと手放したのが見えた。茂みに落としたその場所を、何かの時には拾おうと思って、エメリーンは確認していた。
――やっぱり長剣の方が、魔物と距離を取って戦えるのは良いわよね。
だが非常時、エメリーンが長剣を背負って行動するのはデメリットがある。窓から飛び降りるときに多少手が掛かるのもデメリットの一つだ。長剣では、エメリーンの最大の武器である素早さが活かせない。
「やっぱり、まだまだ鍛えないとダメね」
エメリーンの身体には少しずつ筋力が付いて来ているが、それでもまだアリサの全盛期ほどではない。視線こそ全方位を警戒しているが、エメリーンはルイとの次の筋力トレーニングについて思いを巡らしていた。
「あら、ダメよ?」
バアルが捨てた長剣のところに向かったゴブリンを見つけて、エメリーンは小刀を投げた。ストッと頭に刺さって倒れたゴブリンを横目に、エメリーンはもう一つの小刀を、胸元から手を入れて取り出す。
「はあ、やっぱり3つだと心もと無いわね。……どうかした?」
いつからエメリーンの方を見ていたのか、バアルが目を見張っていたが、エメリーンと目が合うと慌てて目を逸らした。
「本当に3つ持っていたんですね」
「そんなの、嘘を吐いたって仕方がないでしょう? ……とりあえず片付いたかしらね」
緊張が解けているバアルの様子に、エメリーンもホッと息を吐いた。倒したゴブリンの数は、エメリーンの小刀によるものも含めて全部で19匹だ。
「……片付いてはいないわね。散らかったというべきかしら?」
頬に手を当ててそんなことを言うエメリーンを、緑色の顔をしたバアルが笑った。
ゴーンゴーンゴーン、と鐘の音が響く。警戒するエメリーンに、バアルが鐘が鳴る塔を見上げながら、確信を持って「大丈夫です」と言った。
「あれは戦闘終了を告げる鐘ですよ」
エメリーンは小刀を握っている両手を、身体の横にだらんと落とした。ずいぶん長く、構えて待っていたのだが、バアルを超えて来るゴブリンは、ただの一匹もいなかった。
――まあ、バアルが強いのは知っていたけどね。ちょっと強すぎない? 辺境伯領の兵士って本当にすごいのね。
ゴブリン特有の緑の血を浴びながら、縦横無尽に駆け回っているバアルに、エメリーンが「ちょっと一匹こちらにも」と言わないのは、また怒られるような気がしたからだ。
エメリーンは、バアルに怒られるのが怖いわけではない。ただ戦闘中にバアルの気が散るようなことをしたくなかっただけだ。
バアルの頭上を超えてエメリーンの元に来ようとしたゴブリンが、真っ二つになって地に落ちた。それももう3回目のことなので、エメリーンは小刀を構え直すこともしなかった。
――うん、血しぶきも私には掛からないようにって、ちょっとお姫様扱いし過ぎじゃない?
バアル自身は血塗れになりながら、2本目の長剣を振り回している。1本目は切れなくなったのだろう。途中でポイと手放したのが見えた。茂みに落としたその場所を、何かの時には拾おうと思って、エメリーンは確認していた。
――やっぱり長剣の方が、魔物と距離を取って戦えるのは良いわよね。
だが非常時、エメリーンが長剣を背負って行動するのはデメリットがある。窓から飛び降りるときに多少手が掛かるのもデメリットの一つだ。長剣では、エメリーンの最大の武器である素早さが活かせない。
「やっぱり、まだまだ鍛えないとダメね」
エメリーンの身体には少しずつ筋力が付いて来ているが、それでもまだアリサの全盛期ほどではない。視線こそ全方位を警戒しているが、エメリーンはルイとの次の筋力トレーニングについて思いを巡らしていた。
「あら、ダメよ?」
バアルが捨てた長剣のところに向かったゴブリンを見つけて、エメリーンは小刀を投げた。ストッと頭に刺さって倒れたゴブリンを横目に、エメリーンはもう一つの小刀を、胸元から手を入れて取り出す。
「はあ、やっぱり3つだと心もと無いわね。……どうかした?」
いつからエメリーンの方を見ていたのか、バアルが目を見張っていたが、エメリーンと目が合うと慌てて目を逸らした。
「本当に3つ持っていたんですね」
「そんなの、嘘を吐いたって仕方がないでしょう? ……とりあえず片付いたかしらね」
緊張が解けているバアルの様子に、エメリーンもホッと息を吐いた。倒したゴブリンの数は、エメリーンの小刀によるものも含めて全部で19匹だ。
「……片付いてはいないわね。散らかったというべきかしら?」
頬に手を当ててそんなことを言うエメリーンを、緑色の顔をしたバアルが笑った。
ゴーンゴーンゴーン、と鐘の音が響く。警戒するエメリーンに、バアルが鐘が鳴る塔を見上げながら、確信を持って「大丈夫です」と言った。
「あれは戦闘終了を告げる鐘ですよ」
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