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負けるわけにはいかない
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「エメリーンさま、きあいがすごい」
先ほどまでスクワットやもも上げなどで、ひたすら足を鍛えていたエメリーンは、今は片手腕立て伏せを行っている。そんなハードな筋力トレーニングに勤しむエメリーンの隣で、同じように、とまではいかなくても、類似のトレーニングをしたいとルイは願った。
だが子供の内にエメリーンのようなトレーニングをすると、背が伸びなくなると言われたことで、ルイは素直に諦めた。兵士長ルドガーや執事長やバアルなど、ルイの周りにいる格好良い大人の男たちは、みんな背が高い。ヒューバートも背が高いので、ルイも背が高くなるだろうと言われているのに、トレーニングによって背が低くなるのは嫌だった。
だからルイは、エメリーンが見える場所で、エメリーンとは別メニューのトレーニングを行っている。今日のルイのトレーニングは、セイディや兵士たちとの追いかけっこだ。以前は侍女や侍従たちと行っていた追いかけっこだが、ルイの身軽さと足の速さに誰もついて来れなくなったため、今回から相手が変わっている。
「ルイ様、よそ見だなんて余裕ですね」
「あっ!」
いつの間にか近くに迫っていたセイディに、ルイは肩をポンと叩かれた。これが完全な遊びなら悔しがるところだが、ルイはふうっと息を吐いて、すぐに「いくよー」と声を上げる。今度はルイが追いかける番だ。
エメリーンと一緒でないことは少しつまらないが、ルイは追いかけっこ自体は楽しいと思っている。それにもっと早くなったら、きっとバアルやエメリーンとも本気で追いかけっこができるだろう。
「エメリーンさま、なにかあったのかな……」
昨日、魔物の襲撃があった。エメリーンとは避難場所が別だったが、たくさんの兵士や侍従、侍女たちと一緒だったルイは、恐怖を感じることはなかった。
魔物の総数は、大小あわせて228匹だったと聞いて、ルイにもそれがいつもより多い数だということが分かった。「今日は12匹の魔物が出たんですよ」など、兵士たちから時々聞かされることがあったからだ。
――きのうのまものは、ごぶりん、こぼると、そして、おーが。
ゴブリンやコボルトに比べ、オーガはこの辺境伯領であっても、滅多に姿を見ることがない魔物らしい。その身体は大きく、力も強い。そう聞いても、ルイにはオーガがどれほどの大きさなのか、どれほどの力の強さなのか、想像がつかなかった。
ただ、この地の兵士や兵士長たちに倒せたのだから、いつかルイも倒せるようにならなければならない。それは次期辺境伯である、ルイの仕事だとルイは思う。
「ルイが次期辺境伯だ。それは今後、ルイに兄弟が増えることがあったとしても変わらない」
父ヒューバートが、ルイに深い謝罪の後に話してくれたことの一つだ。
ルイが次の辺境伯になる。今までも執事長や兵士長ルドガーたちに言われていたことだが、それがヒューバートに言われた言葉で、ようやくルイの胸にストンと落ちた。
「つよい、へんきょうはくになるの」
そう呟いたルイは、ぐんっとスピードを上げた。
「おわっ?」
「つかまえた」
油断していたのか、ルイが捕まえたのはダンと言う名の若い兵士だ。
「うあー、ルイ様、速過ぎます。ふー、じゃあ、今度はこちらから行きます」
ダンに追いかけられてルイが逃げる。どうやら今のルイは、ダンと同じくらいの速さだ。
――まけない。
ちょこまかと走り回るルイを、ダンが追いかける。勝負がつくのに、そう時間は掛からなかった。ルイのスタミナが、ダンに勝ったのだ。
「ま、参りました」
途中から、全く追いつけずに走り続けたダンが、仰向けに倒れ込んで降参した。そんなダンを、他の兵士たちが上から覗き込んでいる。
「ダンには特別メニューの訓練が必要なようね」
セイディにそう言われたダンは、一瞬情けない顔をしたが、「その通りです」と現実を受け入れた。
追いかけっこが終わって、手持ち無沙汰になったルイは、以前エメリーンと練習した横回転を繰り返している。3回転半まで回れるようになったルイが、繰り返しくるくると回っているのを見て、ダンが「ハハハ」と乾いた笑いを浮かべた。
「ルイ様の成長速度に、何とか食らいついていかないといけませんね」
兵士たちがダンに同意して頷いた。明日は我が身であることが、良く分かっているようだ。
その後、幼い次期辺境伯に遅れを取るわけにはいかないと決意した兵士たちが、進んでハードなトレーニングに打ち込むようになるのだが、ルイは自身がそのきっかけとなったことに気が付くことはなかった。
先ほどまでスクワットやもも上げなどで、ひたすら足を鍛えていたエメリーンは、今は片手腕立て伏せを行っている。そんなハードな筋力トレーニングに勤しむエメリーンの隣で、同じように、とまではいかなくても、類似のトレーニングをしたいとルイは願った。
だが子供の内にエメリーンのようなトレーニングをすると、背が伸びなくなると言われたことで、ルイは素直に諦めた。兵士長ルドガーや執事長やバアルなど、ルイの周りにいる格好良い大人の男たちは、みんな背が高い。ヒューバートも背が高いので、ルイも背が高くなるだろうと言われているのに、トレーニングによって背が低くなるのは嫌だった。
だからルイは、エメリーンが見える場所で、エメリーンとは別メニューのトレーニングを行っている。今日のルイのトレーニングは、セイディや兵士たちとの追いかけっこだ。以前は侍女や侍従たちと行っていた追いかけっこだが、ルイの身軽さと足の速さに誰もついて来れなくなったため、今回から相手が変わっている。
「ルイ様、よそ見だなんて余裕ですね」
「あっ!」
いつの間にか近くに迫っていたセイディに、ルイは肩をポンと叩かれた。これが完全な遊びなら悔しがるところだが、ルイはふうっと息を吐いて、すぐに「いくよー」と声を上げる。今度はルイが追いかける番だ。
エメリーンと一緒でないことは少しつまらないが、ルイは追いかけっこ自体は楽しいと思っている。それにもっと早くなったら、きっとバアルやエメリーンとも本気で追いかけっこができるだろう。
「エメリーンさま、なにかあったのかな……」
昨日、魔物の襲撃があった。エメリーンとは避難場所が別だったが、たくさんの兵士や侍従、侍女たちと一緒だったルイは、恐怖を感じることはなかった。
魔物の総数は、大小あわせて228匹だったと聞いて、ルイにもそれがいつもより多い数だということが分かった。「今日は12匹の魔物が出たんですよ」など、兵士たちから時々聞かされることがあったからだ。
――きのうのまものは、ごぶりん、こぼると、そして、おーが。
ゴブリンやコボルトに比べ、オーガはこの辺境伯領であっても、滅多に姿を見ることがない魔物らしい。その身体は大きく、力も強い。そう聞いても、ルイにはオーガがどれほどの大きさなのか、どれほどの力の強さなのか、想像がつかなかった。
ただ、この地の兵士や兵士長たちに倒せたのだから、いつかルイも倒せるようにならなければならない。それは次期辺境伯である、ルイの仕事だとルイは思う。
「ルイが次期辺境伯だ。それは今後、ルイに兄弟が増えることがあったとしても変わらない」
父ヒューバートが、ルイに深い謝罪の後に話してくれたことの一つだ。
ルイが次の辺境伯になる。今までも執事長や兵士長ルドガーたちに言われていたことだが、それがヒューバートに言われた言葉で、ようやくルイの胸にストンと落ちた。
「つよい、へんきょうはくになるの」
そう呟いたルイは、ぐんっとスピードを上げた。
「おわっ?」
「つかまえた」
油断していたのか、ルイが捕まえたのはダンと言う名の若い兵士だ。
「うあー、ルイ様、速過ぎます。ふー、じゃあ、今度はこちらから行きます」
ダンに追いかけられてルイが逃げる。どうやら今のルイは、ダンと同じくらいの速さだ。
――まけない。
ちょこまかと走り回るルイを、ダンが追いかける。勝負がつくのに、そう時間は掛からなかった。ルイのスタミナが、ダンに勝ったのだ。
「ま、参りました」
途中から、全く追いつけずに走り続けたダンが、仰向けに倒れ込んで降参した。そんなダンを、他の兵士たちが上から覗き込んでいる。
「ダンには特別メニューの訓練が必要なようね」
セイディにそう言われたダンは、一瞬情けない顔をしたが、「その通りです」と現実を受け入れた。
追いかけっこが終わって、手持ち無沙汰になったルイは、以前エメリーンと練習した横回転を繰り返している。3回転半まで回れるようになったルイが、繰り返しくるくると回っているのを見て、ダンが「ハハハ」と乾いた笑いを浮かべた。
「ルイ様の成長速度に、何とか食らいついていかないといけませんね」
兵士たちがダンに同意して頷いた。明日は我が身であることが、良く分かっているようだ。
その後、幼い次期辺境伯に遅れを取るわけにはいかないと決意した兵士たちが、進んでハードなトレーニングに打ち込むようになるのだが、ルイは自身がそのきっかけとなったことに気が付くことはなかった。
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