辺境伯に嫁いだので、可愛い義息子と楽しい辺境生活を送ります ~ついでに傷心辺境伯とのぐずぐずの恋物語を添えて~

空野 碧舟

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真夜中の逢瀬?

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 少々強引になってしまったが、どうにかザイン――サイラスを辺境伯邸で休ませることに成功したエメリーンは、サイラスの体調を思えば、そんな場合ではないと分かってはいても、少し、いや、かなり浮かれていた。

 ――まさかサイラスに会えるなんて思っていなかったわ。スネイクのおかげね。

 もう会えない可能性の方が高いと思っていたサイラスとの再会に、エメリーンの胸は躍っている。腰が曲がっていても、髪の毛がさらなる薄みを極めていても、エメリーンにとってサイラスはサイラスだった。

 「失礼ですが、貴女様は、私のことをご存じなのでしょうか?」と、サイラスに詰められた瞬間、エメリーンは「ひえっ、バレたっ?」と慌てて冷静になったのだが、目を逸らさずにしらをきったことで、何とか誤魔化せた気がする。

 ――本当に誤魔化せたのかしら? サイラスには何か疑われている気がするわ。……サイラスってば、昔より鋭くなってるんじゃないかしら? さすがだわ。さすが、私たちのリーダー。

 そんな浮かれたエメリーンは、夕食をサイラスたちと一緒に出来ないか画策したのだが、「それではあの方たちがゆっくり休めませんよ」とマーサに嗜められて、確かにそうだと諦めたのだった。

 ――もうちょっとだけでも、直接話が出来ないかしら。

 夜になって、ふらふらとサイラスが泊まっている客室の方へ向かったエメリーンだったが、思った以上に警備が固い。相手は兼ねてより親交のある、取引先の商会の人間だというのに、急遽転がり込んで来た客人だからか、それとも魔物の大襲来からそんなに日が経っていないからなのか、警備に立っていたり、巡回している兵士の数がいつもの三倍は多かった。

 ――ダメだわ。近付くことも出来ない。……きっと、数日は滞在してくれるわよね。また別のタイミングを探ってみようっと。

 今夜はサイラスに会うことを諦めたエメリーンだったが、高揚した気持ちがまだ鎮まらない。散歩でもしようと、兵士のいない方、いない方へと歩いていると、結局いつもの池に着いていた。

 ここに着くまで、近くに兵士がいなかったことから、忍び持っていたランタンを付けて、池の側に置く。すると、明かりにつられたのか、パシャンと魚が跳ねた。

 ――元気な子がいるわね。……サイラスも元気になってくれますように。

 エメリーンの願いが叶ったのか、サイラスが音もなく現れたのは、そのすぐ後のことだった。

 ――一体、あの厳しい警備をどうやって抜けてきたのかしら? サイラスってば、全然衰えてなんかいないんじゃない?

 エメリーンが感動していると、サイラスが「その、警戒、しないのですか?」と、静かに聞いてきた。

 ――警戒?

 エメリーンがサイラスを警戒することなど、あるはずがない。きっと警戒しているのはサイラスの方だろうとエメリーンは思ったが、せっかく会えたサイラスから組織の話を聞きたいという欲求を抑えることができなかった。

 ――何と言って切り出せば、少しでも組織のことが聞けるかしら?

 そんなエメリーンの前で、「では、これではどうでしょうね」と言って、サイラスの腰がスッと伸びた。声も記憶の中にある、若々しいものに変わっている。

 ――ああ、やっぱり演技だったんだわ!

 サイラスが元気な姿を見せてくれたことがあまりに嬉しくて、つい笑み溢れたエメリーンに対し、サイラスが苦言を呈した。

「は? 何でこれでも警戒しないんだろうか。貴女、だいぶおかしいですよ?」

 おかしいと言われても、サイラスに怒られることすら、エメリーンには嬉しくて懐かしい。

 ――アリサだよ。だから、サイラスに警戒なんて絶対にしないんだよ。

 だがエメリーンは、それを口に出すことは出来なかった。信じてもらえるはずがない。エメリーン本人にだって、今だにどうしてこんなことが起きているのか信じられないのだ。「何をバカな」と、サイラスに拒絶されるのは、エメリーンにとってとても怖いことだった。

 アリサのことは言わずに、サイラスから情報を引き出すにはどうすれば良いのか、エメリーンは懸命に考えている。

 ――ダメね。本当に難しいわ。

 ランタンの薄明かりの中、見つめ合う二人の心は、完全にすれ違っている。チャポンと池の魚が跳ねる音が、二人の耳にはとても大きく響いていた。
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