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そして二人は
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見つめ合ったまま、時が止まったかのように動けなかった二人の時が動いたのは、まだ遠くではあるが、人の気配を感じたからだ。
即座にランタンの明かりを落としたエメリーンに、サイラスが息を呑んだ。兵士が通り過ぎるまで、暗闇の中、サイラスの隣でエメリーンは身を潜める。サイラスは少し身動いだが、そのまま静かにしていることを選んだようだ。その距離感は、辺境伯夫人と取引先商会の一商会員とのものではあり得ない。
「……行ったわね」
エメリーンがランタンに火を灯すと、エメリーンが思っていた以上に二人は密接していた。
「……はあ」
エメリーンのすぐ隣で、サイラスが疲れたようなため息を吐いた。
「やっぱり体調は万全ではないのかしら?」
サイラスの隣にしゃがみ込んだまま、サイラスを心配しているエメリーンに、サイラスがまたもため息を吐いた。
「はぁ。どうしてそんなに心配しているのかな。私は見ての通り、貴女が思っていたような、弱った老人ではありませんよ? ピンピンしています」
「そうね。それは、お元気そうで何よりだわ」
「そうじゃないでしょう? 何故、弱っているフリをしていたのか、何を企んでいるのか、怪しむべきだと思いますよ?」
「うーん。悪い人は、自分のことを怪しむべきとか、言わないでしょう?」
ついついサイラスとの会話が楽しくて、軽く答えていたエメリーンの隣から、サイラスが立ち上がって3歩離れた。どうやらサイラスは、正しい二人の距離感を保とうとしているようだ。
「はぁ、もう良いです。色々と面倒くさくなったので、分からないことは一旦保留にしておきます。少なくとも貴女個人は、私を罠に掛けようとか、捕まえようとかは、思っていない、という前提にしますよ」
――前提にしますよ?
サイラスの遠回しな言葉に、エメリーンは首を傾げた。
「そんなこと思ってないわ」
「はい、そう言うことにしておきましょうか」
「ええ?」
あくまでも、完全には信じないというスタンスのサイラスに、エメリーンは不満げな声を上げたが、確かにそれはサイラスの立場では仕方がないかとも思う。
「まあ、分かったわ。それで?」
「……私は、貴女に聞きたいことを聞きますよ。ダイナリア辺境伯領は、私の敵になりますか?」
「ならないわ」
「即答ですか?」
「ええ、少なくともエメリーン・ダイナリアは、あなたの、いえ、あなたたちの敵になることはあり得ない。たとえ、親を敵に回すことになっても、あなたたちの敵にはならないわ」
フッとサイラスが笑う気配がした。
「なるほど。それはなかなか良い情報です。でも、それでは足りませんね。辺境伯とあの竜殺しの英雄はどうでしょう?」
「……無いんじゃないかしら」
「こちらは微妙な回答だね?」
サイラスの言葉に、エメリーンは肩を竦めた。
「この領地は、魔物の対応と隣国への警戒に、かなりの人手を取られていると思うわ。でも旦那様や英雄について、私はまだ知らなさすぎるのよ」
「それでも『無い』と思う理由は?」
先ほどのエメリーンの言葉の真意を問われて、エメリーンは思わず笑ってしまった。
「あなたたちが、そんなに悪い人たちではないから、かしら」
「だから、何でそんなことを」とサイラスが何やらブツブツ言っているが、エメリーンの耳には良く聞こえなかったので、そのまま話を続けた。
「今のところ、ダイナリア辺境伯領の不利益になるような、そんな悪いことはしていないでしょう?」
「なるほど……」
サイラスがエメリーンの答えを聞いて、何やら頷いている。納得できたのであれば良かったと思いながら、今度は自分の番だと、エメリーンはサイラスを真正面から見据えた。
「私も欲しい情報があるの。あの子爵家にいる獣たちのことで、何か情報はないかしら?」
サイラスがエメリーンの質問に目を見張った。エメリーンが子爵家でどんな待遇だったか、サイラスは知っている。それでも、エメリーンが家族への情を失っていない、いや、いなかったことを報告で聞いているのだろう。
「……獣?」
「子爵領地の人たちのことを思えば、獣呼ばわりでは足りないと思うわ。……私も領地の状況を知りもしなかったという意味では、あの獣たちのお仲間なのだけど」
苦虫を噛み潰したような顔で話すエメリーンの言葉を、サイラスは静かに聞いていた。
「その情報を得て、何をするつもりかな」
エメリーンにそう聞いたサイラスの顔には、面白そうな笑みが浮かんでいる。
「領地から逃げ出したオルクス子爵領地の人たちに、戻って来たいと思われるような領地にしたいわ」
「は? それは辺境伯夫人の仕事では無いと思うよ」
「そんなこと分かってるわ。……それでも、エメリーン・オルクスだった私がやり残したことだから、私の仕事なの」
「なるほど」と頷いたサイラスは、今度は否定の言葉を言わなかった。
「……オルクス子爵領の状況は、かなり良くないよ。長い時間を掛けて悪党たちに蝕まれたあの領地では、弱い者たちがずっと食いものにされている」
「……そうなのね」
エメリーンの記憶では、サイラスたちが抵抗して、悪党たちと闘っていたはずだが、それでは追いつかないほどオルクス領は荒れてしまったらしい。領主が悪党側についていたのだから、それも致し方ないことだろう。
「ねえ、私に手を貸してもらえないかしら?」
意を決してエメリーンが伝えた提案に、サイラスが眉を顰めた。
即座にランタンの明かりを落としたエメリーンに、サイラスが息を呑んだ。兵士が通り過ぎるまで、暗闇の中、サイラスの隣でエメリーンは身を潜める。サイラスは少し身動いだが、そのまま静かにしていることを選んだようだ。その距離感は、辺境伯夫人と取引先商会の一商会員とのものではあり得ない。
「……行ったわね」
エメリーンがランタンに火を灯すと、エメリーンが思っていた以上に二人は密接していた。
「……はあ」
エメリーンのすぐ隣で、サイラスが疲れたようなため息を吐いた。
「やっぱり体調は万全ではないのかしら?」
サイラスの隣にしゃがみ込んだまま、サイラスを心配しているエメリーンに、サイラスがまたもため息を吐いた。
「はぁ。どうしてそんなに心配しているのかな。私は見ての通り、貴女が思っていたような、弱った老人ではありませんよ? ピンピンしています」
「そうね。それは、お元気そうで何よりだわ」
「そうじゃないでしょう? 何故、弱っているフリをしていたのか、何を企んでいるのか、怪しむべきだと思いますよ?」
「うーん。悪い人は、自分のことを怪しむべきとか、言わないでしょう?」
ついついサイラスとの会話が楽しくて、軽く答えていたエメリーンの隣から、サイラスが立ち上がって3歩離れた。どうやらサイラスは、正しい二人の距離感を保とうとしているようだ。
「はぁ、もう良いです。色々と面倒くさくなったので、分からないことは一旦保留にしておきます。少なくとも貴女個人は、私を罠に掛けようとか、捕まえようとかは、思っていない、という前提にしますよ」
――前提にしますよ?
サイラスの遠回しな言葉に、エメリーンは首を傾げた。
「そんなこと思ってないわ」
「はい、そう言うことにしておきましょうか」
「ええ?」
あくまでも、完全には信じないというスタンスのサイラスに、エメリーンは不満げな声を上げたが、確かにそれはサイラスの立場では仕方がないかとも思う。
「まあ、分かったわ。それで?」
「……私は、貴女に聞きたいことを聞きますよ。ダイナリア辺境伯領は、私の敵になりますか?」
「ならないわ」
「即答ですか?」
「ええ、少なくともエメリーン・ダイナリアは、あなたの、いえ、あなたたちの敵になることはあり得ない。たとえ、親を敵に回すことになっても、あなたたちの敵にはならないわ」
フッとサイラスが笑う気配がした。
「なるほど。それはなかなか良い情報です。でも、それでは足りませんね。辺境伯とあの竜殺しの英雄はどうでしょう?」
「……無いんじゃないかしら」
「こちらは微妙な回答だね?」
サイラスの言葉に、エメリーンは肩を竦めた。
「この領地は、魔物の対応と隣国への警戒に、かなりの人手を取られていると思うわ。でも旦那様や英雄について、私はまだ知らなさすぎるのよ」
「それでも『無い』と思う理由は?」
先ほどのエメリーンの言葉の真意を問われて、エメリーンは思わず笑ってしまった。
「あなたたちが、そんなに悪い人たちではないから、かしら」
「だから、何でそんなことを」とサイラスが何やらブツブツ言っているが、エメリーンの耳には良く聞こえなかったので、そのまま話を続けた。
「今のところ、ダイナリア辺境伯領の不利益になるような、そんな悪いことはしていないでしょう?」
「なるほど……」
サイラスがエメリーンの答えを聞いて、何やら頷いている。納得できたのであれば良かったと思いながら、今度は自分の番だと、エメリーンはサイラスを真正面から見据えた。
「私も欲しい情報があるの。あの子爵家にいる獣たちのことで、何か情報はないかしら?」
サイラスがエメリーンの質問に目を見張った。エメリーンが子爵家でどんな待遇だったか、サイラスは知っている。それでも、エメリーンが家族への情を失っていない、いや、いなかったことを報告で聞いているのだろう。
「……獣?」
「子爵領地の人たちのことを思えば、獣呼ばわりでは足りないと思うわ。……私も領地の状況を知りもしなかったという意味では、あの獣たちのお仲間なのだけど」
苦虫を噛み潰したような顔で話すエメリーンの言葉を、サイラスは静かに聞いていた。
「その情報を得て、何をするつもりかな」
エメリーンにそう聞いたサイラスの顔には、面白そうな笑みが浮かんでいる。
「領地から逃げ出したオルクス子爵領地の人たちに、戻って来たいと思われるような領地にしたいわ」
「は? それは辺境伯夫人の仕事では無いと思うよ」
「そんなこと分かってるわ。……それでも、エメリーン・オルクスだった私がやり残したことだから、私の仕事なの」
「なるほど」と頷いたサイラスは、今度は否定の言葉を言わなかった。
「……オルクス子爵領の状況は、かなり良くないよ。長い時間を掛けて悪党たちに蝕まれたあの領地では、弱い者たちがずっと食いものにされている」
「……そうなのね」
エメリーンの記憶では、サイラスたちが抵抗して、悪党たちと闘っていたはずだが、それでは追いつかないほどオルクス領は荒れてしまったらしい。領主が悪党側についていたのだから、それも致し方ないことだろう。
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