辺境伯に嫁いだので、可愛い義息子と楽しい辺境生活を送ります ~ついでに傷心辺境伯とのぐずぐずの恋物語を添えて~

空野 碧舟

文字の大きさ
72 / 152

共通点?

しおりを挟む
「はあ? エメリーン? 突然何しにきたのよっ!」

 走ってきてエメリーンを見つけた義姉エリナーの第一声に、エメリーンは頭を抱えた。エメリーンのすぐ後ろに控えているバアルとセイディが、引き攣った笑顔になるが、それも仕方のないことだろう。訪問客に対し、貴族令嬢としての礼儀作法のカケラもない有り様で叫ぶエリナーが、バアルやセイディの目にどう映るのか、想像に難くない。

 ――旦那様が一緒でなくて良かったわ。

 エメリーンのせいではないが、バアルやセイディの手前、エメリーンは何だか恥ずかしくなった。これでは、使用人だけでなく、義姉も礼儀知らずなのかと思われても仕方がない。

 先触れなしでオルクス子爵邸へやってきたエメリーンたちを、最初に迎えたのは使用人たちだった。立派な馬車から下りて、美しく装った辺境伯夫人そのものという出で立ちで現れたエメリーンに、使用人たちはひどく動揺したようだった。

 父や義母、義姉に便乗して、エメリーンを侮っていた使用人たちだ。貴族然としたエメリーンの姿に戸惑うのも無理はない。

「は? え? エメリーン様、ですか? は? なぜこちらに?」

 あわあわしている使用人たちの中、最初に言葉を発したのは執事だったが、そのあまりの不出来さにセイディが声を上げた。

「子爵家の執事程度が、辺境伯夫人に対して何という口の利き方ですか? エメリーン様は用事があり、王都にお越しになられました。ご多忙の中、わざわざ時間をおつくりになって、ご実家の様子を見たいと足を運ばれたのです。早く子爵に取り次ぎなさい」

「は、失礼いたしました。エメリーン様、すぐにお取り次ぎいたします」

 執事の指示で使用人の一人が屋敷の奥へ向かい、エメリーンたちは応接室に案内された。

 ――客としてこの応接室に来る日が来るなんて、思ってもみなかったわ。

 そう思いつつ、応接室に入ったことがほとんどないエメリーンは、特に懐かしさを感じることもなかった。

 そしてエメリーンがソファに腰を下ろしてすぐ、まだお茶も何も来ていないタイミングで、エリナーが応接室に駆け込んできたのだ。

「エメリーン様、こちらの方は?」

 ひそりと耳元で質問してきたのはバアルだ。

「あー、義姉あねのエリナーよ」

 「「義姉……?」」とバアルとセイディの疑問の声が揃ったのが、エメリーンは何だかおかしかった。二人の声が、心底不思議そうだったからだ。エメリーンは二人のおかげで、エリナーに笑顔で話し掛けることが出来た。

「お義姉様、お久しぶりですね。とてもお元気そうで何よりです」

「なっ!?」

 エメリーンの嫌味と、バアルとセイディの冷たい視線に気が付いたのか、エリナーは走ってきた勢いのまま開いていた足を閉じ、こほんと咳払いを一つして体裁を取り繕った。

「ええ、久しぶりね。あなたったら、手紙の一つも寄越さないんですもの。わたし、心配していたのよ?」

 エメリーンは、エリナーの言葉遣いを気にしてセイディが身動いだのを感じたが、それよりも話の内容が気になった。

「え? 心配ですか? お義姉様が、私のことを?」

 意外なことを言われて目を瞬いたエメリーンを、エリナーが鼻で笑った。

「そうよ? 女好きの辺境伯様に嫁いだあなたが、何故だか一人で田舎に送られたって、そりゃあもう大騒ぎだったもの。ああ、悪く思わないでね。お友達がそう言って笑うものだから、わたしも一緒に笑ったのよ。だって、わたしまで同類だと思われたら困るじゃない?」

 エメリーンが口を挟む隙を与えず、エリナーが続けて捲し立てた。

「ねえ、今日ここに来たのは、辺境伯様と別れたいとか、そんな理由なんでしょ。それとも、まさか、辺境伯様の方から、離婚を切り出されたとか? 嫌だわ、笑っちゃう。どっちにしても、ここにはもうあなたの居場所なんてないわよ。あの別邸、っていうか、小屋は、今は使用人たちが使っているもの」

 ――へえ、そうなのか。

 エメリーンは自身が暮らした部屋が残っていないことについて、何の寂しさも感じなかった。エメリーンが、あの別邸で暮らしていた頃に戻りたいと思ったことは、ただの一度もない。

 それにしても、エリナーは良く舌が回るなとエメリーンは感心していた。以前、エメリーンがヒューバートに物申したとき、自身の舌は良く回るなと感じていたのだが、どうやらこれは遺伝なのかもしれない。アリサだった頃もお喋りではあったが、そこまで舌が回ってはいなかったはずだとエメリーンは思う。

 全く似ていないと思っていた義姉エリナーと自身との共通点を見つけたエメリーンだったが、全く嬉しいとは思わなかった。

「まあ、どうしてもって言うなら、数日なら、あの小屋に泊まっていっても構わないわよ。あなたなら、使用人と同じ部屋で眠るのも構わないでしょ? わたしはそういうの、絶対無理。だってそういう風に育っているんだもの。あなたって、そういうところが、やっぱり平民だわ」

 エメリーンは、今はまだヒューバートと離婚するつもりはないし、子爵邸に出戻ることはもちろん、子爵邸に泊まっていくつもりもない。ペラペラと、エメリーンにとってどうでも良いことを話し続けているエリナーに対し、エメリーンは左右の後方に立つバアルとセイディが、どんどん不機嫌になっていくのを感じていた。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

追放されましたが、辺境で土壌改革をしたら領民からの感謝が止まりません。~今更戻ってきてと言われても、王都の地盤はもうボロボロですよ?~

水上
恋愛
【全11話完結】 「君は泥臭くて可愛くない」と婚約破棄されたセレナ。 そんな王太子に見切りをつけ、彼女は辺境へ。 そこで待っていたのは、強面だけど実は過保護な辺境伯だった。 セレナは持ち前の知識と技術で不毛の大地を大改革。 荒野は豊作、領民は大歓喜。 一方、彼女を追放した王都は、特産品のワインが作れなくなったり、土壌が腐って悪臭を放ったり、他国との同盟に亀裂が入り始めたりと大惨事に。 戻ってきてと縋られても、もう手遅れですよ?

皇帝陛下の愛娘は今日も無邪気に笑う

下菊みこと
恋愛
愛娘にしか興味ない冷血の皇帝のお話。 小説家になろう様でも掲載しております。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

毒味役の私がうっかり皇帝陛下の『呪い』を解いてしまった結果、異常な執着(物理)で迫られています

白桃
恋愛
「触れるな」――それが冷酷と噂される皇帝レオルの絶対の掟。 呪いにより誰にも触れられない孤独な彼に仕える毒味役のアリアは、ある日うっかりその呪いを解いてしまう。 初めて人の温もりを知った皇帝は、アリアに異常な執着を見せ始める。 「私のそばから離れるな」――物理的な距離感ゼロの溺愛(?)に戸惑うアリア。しかし、孤独な皇帝の心に触れるうち、二人の関係は思わぬ方向へ…? 呪いが繋いだ、凸凹主従(?)ラブファンタジー!

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

処理中です...