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精霊王の愛し子
しおりを挟む僕は孤独だった。いつも一人で両親の愛情はすべて双子の兄に注がれてきた。周りの人間も兄と僕を比較し兄ばかりを誉めていた。
僕は、世界に諦め絶望した。図書館へ入り浸り、魔法も剣術もほぼ独学で学んできた。そして、史上最年少で魔法騎士団の副団長になり一級魔法騎士にもなった。
別に周りを見返したかったわけではない。ただ、やりたいことをやっていたらいつの間にかなっていた。でも、そんな称号をもらっても僕は孤独だった。
団員たちとはまあまあいい関係を築けているだろう。多分。優しくできているかもわからない。だって、優しさなんて僕は与えられたことがないから。
そんなある日、いつも通りに過ごしていると、団員の妖精使いでもあるドランが一級魔法騎士へ昇格したという話が耳に入った。それからだった。僕の平和だった日常が崩れたのは。
団員の間で「ドランが次期副団長になるのではないか」という噂が流れ始めた。周り曰く、僕とドランは同じような実力だし、ドランは珍しい妖精を使役する魔法騎士だからだそうだ。
噂だからと無視して過ごしていたある日、僕は聞いてしまった。
「やっぱ、次の副団長はドランだな」
その言葉は僕の心に深く突き刺さった。副団長と言う地位は僕に生きる意味を与えてくれたから。やっと、僕に存在価値ができたから。
“僕はやっぱり生きてちゃいけないのかな…“
僕は悲しみに暮れた。とりあえず書物を読んで心を落ち着かせようとしたが無理だった。もともと短かった睡眠時間がさらに減り、もともと少食だった僕の体は食事を受け付けなくなった。
そこで僕は思い立った…
“もう副団長の地位をドランにわたし、自分は死んでしまおう“と。
僕は早速動いた。
次の日、中庭でゆっくりしているドランの元へ行った。周りは鋭く僕を睨み、ドランを心配した。
「ドラン、話があるんだ」
「何ですか、副団長。」
「僕と手合わせをしてくらないか?」
「手合わせ…ですか?」
「ちょっと!ドランが気に入らないからってそんな怖い顔でみないでくれる!?」
ドランの精霊は僕に敵意丸出しだった…。団員たちも。
「ナナリー、静かにして。
いいですよ副団長。手合わせ…しましょ。」
周りはドランの言葉に驚いていた。みんな止めようとするがドランの意見は変わらなかった。
訓練場に着くと僕は行った。
「ドラン、だだ手合わせをするだけではつまらないだろう。
だから、負けた方はこの騎士団を去ることにしないか?もし僕が負けたら副団長の地位も君に譲ろう」
周りはこの言葉にとても驚いた。ドランも驚いた表情をしたが、その後面白そうな顔をしていた。
「君は前に言っただろう。“エンペリオンになる第一歩として魔法騎士団の団長を目指す“と。
ならば、いい機会ではないか。どうする?受け入れるか?」
「ええ、もちろんです。」
ドランは僕の提案に案の定乗ってくれた。
僕たちは戦い始める。
先手は僕から行った。どうせやるなら全力でやろうと思った。
でも、さすがは一級魔法騎士の称号をもらったほどの実力だ。僕とは互角の勝負だ。
ドランが言った。
「副団長、本気出していただけますか?」
僕はイラついた。ドランは余裕をかまして僕にそう言い放ったのだ。
確かに僕は真の実力を出してはいない。なぜなら、ほかのものの力を借りたくないからだ。
僕は闇雲に戦った。最後、トドメだと思って出した一撃。避けられないという自信があったけれどドランは回避し僕の首元に剣を当てた。ドランはやっぱり僕の予想通りに動いてくれた。
「負けだよ。ドラン」
僕負けを宣言すると団員たちは喜びと安心に包まれていた。口々に「ドラン勝った」
「ドランが無事でよかった」などと言う。その中の一人が「ドランが勝ったってことは副団長が辞めるのか」と。その通りだ。僕は嬉しく思いつつも胸が痛かった。
「ドラン、君が今から副団長だ。夢に近づけてよかったな」
「副団長、わざと負けようとしましたよね?」
「…何のことかな?」
「あなたはこの程度の実力ではないはずだ。」
「…そうだよ。やっぱり、気がついていたんだね。」
周りは僕がわざと負けようとしたことを知ると疑問に包まれていた。
「どうして、わざと負けようとしたんですか?…騎士団から去るためですか。」
「その通りだよ。…ドランに勝たせて副団長の地位を渡して騎士団から去ろうと考えていた。どうやら、みんなドランに副団長になって欲しかったみたいだし、僕のことをあまりよく思っていないみたいだったからね。」
「そんなことありま「そんなことあるんだよ!」せ、ん」
「どうだっていいだろう。僕はもうここから去るんだ。放っておいてくれ。」
僕はそう言ってその場を去ろうとした。
その時だった。
うっ
胸にひどい痛みが走り目の前が見えなくなった。息も苦しくて呼吸もままならない。最近、頻繁に起こっていた発作が悪化していた。僕は耐えきれずその場で倒れ込んでしまった。遠くの方で見守っていた団長やドランの声が聞こえるが苦しさで何もわからなかった。
『リト、もう大丈夫だ』
その瞬間、温かいものに包まれなんだか安心して僕は意識を手放した。
『愚かな人間どもよ。我が愛し子をよくこれほどまでに傷つけてくれたな』
「ま、まさか!精霊王!」
「どうして精霊王がここに!」
「副団長が愛し子!?」
「精霊王さまなぜここに?」
『リトを迎えにきたのだ。リトの心は限界を迎えた。心も体も悲鳴をあげ、最近は食事も睡眠もままならなかった。人間はどうして…どうしてこの子をここまで傷つけるのだ!』
「副団長を…追い詰める?」
「どう言うことですか、副団長を傷つけるとは?」
『貴様ら、もしかして気付いていないのか?貴様らはこの子から居場所を奪ったではないか。この子にとって副団長とは自分の存在意義を初めて与えてくれたものだったのに』
「存在意義って…大袈裟すぎませんか?」
『貴様らにとってはそれくらいでもこの子にとってはそれほど大事だったのだ。
生まれてきてからずっといないものとして扱われてきたこの子からしたら。』
「いないものとして扱われてきた?」
『…この子に双子の兄がいるのは知っているだろう。この子の両親も周りの人間も皆なぜかその兄のことばかりでリトには食事も愛情も何も与えなかった。この子の育った環境を知っているか!?屋根裏部屋だ。ほこりとボロボロの布しかないな。兄は温かい部屋で両親にも愛情がたくさん与えられているのに、自分には何1つ与えられていないと知ったリトの絶望が!!』
「そんな環境で育ってきたなんて…」
『我はほかの、リトの両親や近しい者以外の人間なら助けてくれるのではないかと思い、リトを助け出し、魔法や勉学を教えた。だが…貴様ら人間は我のそんな期待を裏切り、再びリトを死に追いやったのだ!!』
「死においやったって…副団長は生きているじゃないですか!」
『リトは、今我の力で何とか生き延びているのだ。リトは3歳の時風邪を拗らせ一度死んだ。我はどうしてもリトに幸せになって欲しくて助けたのだ!掃除もされず風呂にも入れさせてもらえず食事も週に一回。そんな環境で幼い子供が死なないわけがないだろう!それでも、ほかの人間ならと期待した我が馬鹿だった。今契約済みのものを除いてこれから妖精たちが人間に力を貸すことはない!!』
「そんな!それでは、今の妖精使いが死んだらもう妖精の力を使うことができなくなってしまうってことですか!!」
『違う!たった今から妖精たちは人間界から離れると言うことだ!!』
「「嘘だ!!」」
『嘘ではない!そして、ナナリー!お前はもうこっちに戻ってこなくていい。愛し子の近くにいたと言うのに、それに気がつかずに愚かな人間どもと一緒に愛し子を傷つけた。精霊界ではお前はもうすでに裏切り者呼ばわりされている!帰ってこれるものなら帰ってくればいい!!お前の居場所はないがな。さらばだ…愚か者どもよ。』
「精霊王さま!ナナリー、謝るから!愛し子さまに謝るから!」
精霊王がさった後、妖精の力が借りれなくなったことがエンペリオンや国王などに伝えられ、国中にそのことが広まったが信じるものは少なかった。しかし、実際に妖精を呼び出そうとしても何も起こらなかったことから証明された。
リトは精霊界で今まで虐げられていた分妖精たちや精霊王からたくさんの愛情を注がれた。初めは戸惑っていたリトも時間が経つにつれて受け入れられるようになった。
リトや妖精たちのいなくなった人間たちの国は、周辺国からの襲撃をきっかけに衰退していき、国民からの反乱により滅びていった。
*エンペリオン:魔法が最も優れたものに与えられる地位
魔法使いや魔法騎士を統率する役割がある。
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