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第一章:ギルド加入編

#8.朝の出来事

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 ……よくあるチュンチュンという鳥の鳴き声、そして見知らぬ天井……?
 あれ、どうしたんだっけ……たしか、昨日は夏休み最終日で宿題して……ああ、思い出した。銀行強盗に巻き込まれて死んで転生したんだ。
 寝起きだからかな……まだ頭が回らないや……

 「お、起きたか……って、寝癖がすごいぞ?」

 ヴァンにそう言われ、頭を触ってみると確かに毛が跳ねていた。ただし、頭だけじゃなく、腕や脚などあちこちだ。

 「シャワー浴びてこいよ、スッキリするから。タオルは脱衣所の棚の中な」
 「あ、うん。そうする……」

 布団から出て脱衣所に入って服を脱ぐ。
 その時に目に入った鏡に自分の姿が映っているのに気づき、なんとなくジッと見た。
 全身に生えた毛皮、頭にある三角耳、スカイブルーに輝く瞳、前に少しだけ伸びたマズルと先にある黒い鼻、人間と異なる指の形(数も)と爪と肉球……もう人間じゃなく動物……もとい、獣人なんだと思い知らされる。
 まぁ、ヴァンがいた時点で別世界なのだろうが。
 これが僕の身体……この身体で生きていく。昨日それを理解して誓ったはずなのに、なんだか寂しくも感じた。
 たぶんそれは、もう人間の頃の親や友達に会えないから……
 あ、あれ……な、涙が……
 僕は泣いた。今まで我慢していたみたいに思いっきり。
 たぶんヴァンに聞こえているだろうけど、来ないのは恐らく察してくれているからだろう。
 しばらくして泣き止み、二つあるうちの一つのバルブを回し、お湯を出した……はずが、水だった。
 シャワーは天井にくっついてるタイプなため、僕は思いっきり水を浴びた。

 「ふにゃあああああああああ!!?」
 「ど、どうした!?」

 慌てて駆けつけたヴァンが思いっきり扉を開けた。
 今の僕は全裸で座り込み、涙目で水によって毛がへばりついてる状態なわけで。
 なぜか顔を赤くしたヴァンはサッと後ろを向いた。

 「き、急に叫んでどうしたよ?」
 「あ、ごめん……お湯だと思って捻ったら水だったから……」
 「ったく……泣いたり叫んだり朝から忙しいな……お前」

 うん、やっぱり泣いてたの聞かれてたか。
 でも、聞かないとこをやっぱり察して……

 「で、なんで泣いてたんだ?」

 くれてなかった。
 ええ……なんで今聞いたの?さっき来なかったくせに……
 まぁ……いいか。隠してるわけじゃないし。

 「鏡で自分の姿見たら、もう親や友達に会えないんだと思って……寂しくなっちゃって……そしたら涙が……ね」

 できる限りの笑顔を見せたらなぜか頭を撫でられた。あれ、なんかこんなシーンアニメで見たことあるよ?
 うん、見たことある。

 「まだ……つらいか?」
 「……ううん、もう大丈夫」

 心配させちゃったかな……?
 でも、僕としてはなんとなく嬉しくて照れくさかった。
 考えてみれば、僕は親にまともに撫でられたことがないや……共働きだしなぁ……
 でも、休みの日には美味しいご飯とか作ってくれてたし、勉強も教えてくれてたから全く相手にされてなかったわけじゃなかった。
 さすがに仕事の日はしかたなかったな。
 家や僕のためだってのは理解していたし、おかげで僕の家事能力も上がっていった。
 ……家事能力はこの世界で通用するかわからないけど、料理はいけるよね。
 あ、米はないんだっけ……それは仕方ない。
 とにかく、今は頑張って強くなって役に立てるようにしないと。

 「悪いな、慰め方が下手で……やったことないから、よくわからないんだ」
 「ううん、ありがとう。なんだか嬉しかった」
 「そっか。とりあえず、早く浴びて出てこいよ?初出勤で遅刻なんてしたくないだろ?」

 あ、そうだった! ヴァンが戻った後に急いでシャワーを浴びる。
 ボトルに書かれた文字を思い出しながら読み、二つあるうちの一つがシャンプーだとわかった。
 しかし、あと一つ……テイルシャンプーと書かれてるけど……これは尻尾専用ってこと?ってことは、シャンプーで尻尾を洗わない方がいいのだろうか?
 ……よし、物は試しってことで普通のシャンプーで洗ってみよう。洗ったらどうなるか……ちょっと楽しみ。

 「シャワー終わって軽く拭いたら右のドライヤー室で乾かせよ。入って正面のとこにスイッチがあるから」
 「あ、うん」
 ドア越しからヴァンの声。
 ど、ドライヤー室?普通のドライヤーじゃないの?
 シャワーが終わり、タオルで全身を拭くけど、水気が取れないから毛がボッサボサになってしまう。
 シャワールームから出て右を見ると扉があった。
 そういえば、ドライヤー室使えって言ってたっけ……
 中に入ると正方形の室内で、上下左右に穴があった。
 ポツンとあったボタンを押すと、穴から温風が吹いてきた。
 おお……水気が飛ばされてどんどん乾いていく……って、あれ?身体の毛は乾いてフワッとしてきたのに、尻尾の毛だけガサガサっていうかゴワゴワっていうか……なんか爆発した後みたいでフワッとならないんですけど!?
 え、え、どうして?どうしてこうなった?
 とりあえず、これはヴァンに聞いてみよう……
 ドライヤー室から出た僕は、支度し終えてるヴァンのとこに向かった。

 「ねぇ……なんか尻尾の毛だけ変なんだけど……」
 「は?……プッ、アッハッハッハッハッハ!」

 なぜか急にお腹を抱えて笑い出したヴァン。
 え、何急に?失礼じゃない?

 「お前……テイルシャンプーじゃなくて普通のシャンプーで洗ったろ」
 「え、うん……」
 「俺ら毛皮がある獣人の尻尾の毛って結構繊細なんだ。だから専用のテイルシャンプーがあんだが……プッ、アッハハハハハハハハハ!!」
 「それ、早く言ってくれない?」

 またお腹を抱えて笑い出した。
 うわ、自分が悪いんだけどイラっとするな。

 「さ、さて、時間もアレだし……とりあえず行こうぜ。ソレはシーナに直してもら……プクク……」
 「あ、うん」

 ねぇ、笑いすぎでないかい?いや、まぁ……こんなにしたのは僕だけど……さすがに失礼だと思うよ?
 そして、家を出て移動するも、ヴァンは一度も見ようとしなかった。
 代わりに、街ですれ違う獣人達に見られては笑いが聞こえてくる。
 堪えるのもいたけど、その獣人は僕を見るなり高速で首を曲げ、必死で笑いを堪えていた。中には飲み物や食べ物を吹き出す獣人も。
 羞恥心がハンパなかった。これ、なんの罰ゲーム?
 僕、何かしたかな……シャンプー以外で。
 銀行強盗に股間蹴り?いや、あれは時効でしょ。第一、僕は被害者だし!
 学校帰りにゲームを買おうとしたこと?買おうとしただけで、まだ買ってないから論外!
 ……もう考えるのやめよう。今度から気を付ければいいんだ。
 わからないことは聞く!これ、一番!
 やがてギルドへ着き、目の前にシーナがいた。
 僕を見るなり目を見開き、驚いた表情をしている。
 おおう……笑わなかったのがこんなに嬉しいとは……

 「おはよう、シーナ……」
 「おはようござ……どうしたんですか?その尻尾……」
 「コイツ、尻尾をテイルシャンプーじゃなくて普通のシャンプーで洗ったんだよ。おかげで……プクク……グホォ!?」

 シーナの回し蹴りがヴァンの横っ腹に炸裂した。
 おお……容赦のない回し蹴り……
 ヴァンは蹴られた腹を押さえてうずくまっている。

 「あなた、こんな状態のまま街中を歩かせたんですか?この世界に来たばかりなのにひどすぎませんか?死にますか?」
 「こっちもひどくねぇか!?」
 「コウジの羞恥心と比べたら軽いものですよ。コウジ、直してあげますからこっちへ来てください」

 歩いていくシーナにチラッと痛そうにしているヴァンを見ながら付いていった。
 うん、あれは絶対に痛い。すごい音もしたし、耳もペタンとなっていた。
 蹴られた瞬間だけど、尻尾がブワッとなっていたしね。
 考えてみれば、昨日からシーナはヴァンに対して態度がすごかった気がする。
 ……なんて、僕が考えても仕方ないか。ヴァン、ご愁傷さまです。
 連れてこられたのはシャワー室。
 尻尾だけ出してくださいと言われ、ズボンを履いたままシャワー室内に入れると、まずはお湯で濡らし、テイルシャンプーをかけて泡立たせて洗っていく。
 お湯で泡を洗い流してドライヤー室で乾かしていく。
 すると、尻尾がフワッとしたモフると気持ちよさそうな尻尾になった。
 心なしか、尻尾が軽く感じる!

 「わぁ、すっごい!」
 「フフ、フワッフワになりましたね。尻尾は必ずテイルシャンプーを使ってくださいね?でないと、さっきみたいになりますから」
 「うん、ありがとう」
 「仕返しに、シャンプーとテイルシャンプーの中身を入れ替えて、ヴァンに恥ずかしい思いをさせてもいいですからね」

 ……笑顔でそんなこと言われると、怖いです。
 なんとなく、シーナの頭に耳だけでなく小さな角や、背中に小さな悪魔の翼が見えましたよ?
 ……そんな事言えるわけないけどね。
 そう思いながら、僕達はみんなのとこに戻っていった。
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