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第一章:ギルド加入編

#16.豪雨の中の出会い。新たなクエスト発生!

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 「どしたの?ヴァン」
 「俺さ、ギルドを一回離れて修行に出ようと思うんだ」
 「は、ちょ、何言ってるの!?」

 いきなり何とんでもない事言ってんの!?
 ギルドを離れるって……なんでそうなるの?意味が分からない。

 「俺は何もできずに……しかもお前を殺そうとした」
 「それはジャドーで……」
 「だからこそだ。俺自身が助けることもできず、手をかけるところだった。それが許せねぇんだ」

 ワナワナと震えながら拳を握りしめるヴァン。
 言ってることはわかる。でも、それはヴァンの一人よがりなわけで。
 僕は頬……ではなく、マズルを鷲掴みにした。
 しばらく目をパチクリとしたあと、抵抗しだしたからここで手を離した。

 「な……な……なにを……!?」
 「もぅ……なに一人でぶっちゃけてるかな……。言ってることはわかるよ?でもね、そんなことで出てく必要ないんじゃない?」
 「だが……」

 あー……もう!

 「ヴァンが出てくなら僕も行く!」
 「は!?おま、何言って……」
 「僕達は同じギルドで……チームでしょ?仲間を助けて何が悪いの?仲間がピンチなら助ける……それが仲間じゃん」
 「……」

 まだ目を合わせようとしない。
 少し涙目で……言葉が出ない感じ。

 「それとも……ヴァンは僕の事仲間と認めてないの?」
 「いや、そんなこと……」
 「それに、悔しいならリベンジすりゃいいじゃん。あいつは確実にいつか僕を狙ってくる。その時に雪辱戦すれば?ギルドで強くなってさ」
 「コウジ……」
 「一緒に強くなろうよ。ね?」

 僕は手を差し出した。
 ヴァンは僕の顔と手を交互に何度も見た後、フッと笑って僕の手を握……らずに僕の前を歩いていく。
 背中からでもわかる。すごく吹っ切れた感じだ。

 「お前にそんな事言われるとはなぁ。だが、お前が言うことが正しいと思う。だから、頑張ってみるよ」

 ヴァン……!

 「だから……特訓としてギルドまで競争な!」

 その言葉と同時にヴァンがものすごいスピードで走り出した。
 ………?
 あ、風のスキルを使ってるのか!うわ、ずっる!一瞬何をしたのかわからなかったじゃん!!
 僕も慌ててヴァンを追いかけた。
 そして約一時間後。今の僕達は別の意味で全力疾走していた。
 なぜなら、さっきは晴れていたのに急な雨が降ってきたんだ。
 結構な土砂降りで服や毛皮は雨水を吸ってるから身体が重いし、前が見えないからすごく危ない!!
 やば、早く雨宿りできるとこ見つけないと、このままじゃ風邪引くって!
 今聞こえるのは雨音と、かすかに聞こえる足音のみ。
 そして、冷えて寒くなってきた身体。ある意味絶体絶命だ。
 《温度変化耐性》があるのに!

 「コウジ!あの洞窟に入るぞ!」

 ヴァンが指さしてる場所には、かすかに見える洞窟があった。
 とにかく一目散に駆け込み、なんとか雨を遮ることができた。
 上着を脱ぎ、服を絞るとバシャアアアアア!っという音を立てて、水が滝のように流れ出た。
 そして、濡れてペタンと毛皮が張り付いて細身になった僕達は犬や猫のようにとはいかないけど、ブルブルと身体を震わせて、毛皮の水分を弾き飛ばした。
 すると、若干モフモフが戻った気がする。
 さらに、ほぼ同時にくしゃみを一回ずつ。
 あー……マジで風邪引いたかもしれない。早くお風呂で暖まりたい……って、ギルドもヴァンの家もシャワーしかなかったけど、お風呂……もとい、浴槽ってあるのかな?
 それより、この雨……

 「この雨、ただの雨じゃねぇな」

 ヴァンも同じことを思っていたか。
 だって、いくら異世界でも晴れから一瞬で曇って土砂降りに変わるなんて、普通ないもん。
 と、なるとこれはスキルだろうか?
 誰が、何のために?

 「だ、誰だ、お前達……?」

 なにやら、犬獣人の子供のようなのが奥から怯えた感じでゆっくりと現れた。
 なぜここに?

 「なんだ、コボルトじゃないか」
 「コボルト?」
 「ああ、犬型の魔物だ。頭が良く、手先が器用な反面、臆病ですっげぇ戦闘能力がない」
 「すっげぇ?」
 「すっげぇ」

 うわ、本人……いや、本獣の前でバッサリと言うね。
 そういえば、漫画やアニメでもコボルトってキャラがいたなぁ。実際に見るとすっごい可愛い。さらに涙目にもなってるから余計に。

 「にしても、なぜここに?コボルトの生息地って向こうの方の山の中だぞ?」

 へ、そうなの? それだと訳ありのようだ。とりあえず聞いてみよう。

 「ね、なんで一匹でここにいるの?」
 「わぅ……獣人に言うことなんて……」

 わぁ、涙目で強がっちゃって……可愛いの一言だよ。おもいきり抱きしめたい!

 「コウジ?」
 「大丈夫、僕達は危害を加えないから……何があったのか話してみて?」

 優しく言ってみると、言おうか言わないか迷っている様子。
 魔物でも、こんなに可愛いんだもん。力になってあげたいじゃない?
 それに、ケモナー大歓喜ともいえるこの子には、ケモナーじゃない僕でもキュンキュンしちゃいます。

 「わぅ……実は、この雨は僕達の女王様のスキルの暴走なんだワン……」
 「暴走?もしかして、グロースヴァンダ病か?」

 コクンと頷くコボルト。
 なに?グロースヴァンダ病って…… 
 「グロースヴァンダ病ってのは高熱が発症する上に、スキルが暴走しちまう病だ。たとえば、俺がかかっちまうと、俺の周囲が風の刃の渦が渦巻くんだ。しかも、広範囲にな。さらに厄介なのが消費魔力が少ないから長時間発生し続ける」

 こわ!
 え、なにそのはた迷惑な病?自分だけじゃなく、周囲のみんなにも被害を及ぼすとか……超はた迷惑じゃん!!
 それ、どうすれば治るの?

 「治すにはたしかメリクリ草がいるはず。それを取りに行こうとしたのか?」
 「わぅ……」
 再びコクンと頷くコボルト。
 なにそのメリークリスマスの略語みたいな草は。
 話についていけなくなるから、名前はスルーしよう、うん。効果だけわかればよし!

 「お前には無理だろ。メリクリ草はこの近くだとこの反対の山にある。あきらめ」
 「なら、僕達が取ってきてあげるよ」
 「ちょ、コウジ!?」

 膝をついてまっすぐコボルトの目を見て言うと、ヴァンが驚きの声を上げた。
 え、僕、何かおかしなこと言った?

 「おま、一応は魔物だぞ?本来なら無視するか切っていく相手だ。なのに助けるって……」

 何言ってるんだろか、この狼は。

 「いいじゃん、こんな可愛いのが困ってるんだよ?それに話から察するに、しばらくはこの雨は止みそうにないんだし、なら助けた方がいいじゃん?僕達も助かるし、コボルトも助かってお互いWINWINな関係でしょ?」
 「なんだよ、うぃんうぃん……?って?」
 「お互い対等って覚えとくといいよ」

 コボルトを抱いて頭を撫でながら言う僕。
 嫌がると思ったけど、気持ちよさそうにしてるとこを見ると、どうやら撫でられるのが好きなようだ。
 そんな僕達をヴァンはジッと見ている。

 「いいワン……?」
 「もっちろん。ね?」
 チラッとヴァンを見ると、諦めたように溜息を一つ吐いた。

 「わぁったよ。ただし、お前も一緒に探せよ?じゃねぇと対等とはいえねぇよ」
 「も、もちろんだワン!!」
 「よしけってーい!!」

 ヴァンと僕、コボルトといった妙なパーティで新たなクエストが始まった。
 その名も、「珍パーティで豪雨を乗り越えろ!メリクリ草を探せ!」。

 ちょっといい感じじゃない?そんなことない?ショボン……
 とにかく、僕達は再び服を着て、コボルトを背負い、一瞬躊躇ったけど雨の中へと足を踏み入れた。目指すは洞窟の反対にある山の山頂。
 なるべく急ぎめに、山の方へと向かった……けど、雨で山なんか見えない。
 こうなったら、今は前を歩くヴァンに頼るしかない!!
 問題は、戻るまでに体力が持つか……なんだけどね。だって、地味に体力が削られてる気がするんだもん。
 とにかく、ヴァンを見失わないようにしないと。
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