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第一章:ギルド加入編
#15.クエスト後の一時
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ヴァンをベッドに寝かすと、静かに寝息を立ててるのを見て安堵する。
命に別状はないらしいから、とりあえずは安心だ。
僕も怪我した腕を中心に簡単な治療を受ける。この街には癒属性はいないらしい。
そばで向かい合った状態の椅子に座り、町長に坑道での出来事を話した。
入って先へ進んだとこでヴァンがジャドーにさらわれた事、ドラゴンのグランヴァルツと出会い、取り込んだこと、ヴァンに乗り移ったジャドーと中で一度戦ったこと。
町長は親指と人差し指でマズルをこすっている。
「そうですか……妙に地響きがあるとは思いましたが……中でそんなことが」
「はい。それで、あの……えっと……街にまで追いやってしまってごめんなさい!!」
バッと頭を下げた僕。
そっと見ると、目をパチクリとさせた町長がいた。
「いやいやいや、私の方が謝るべきだ。魔物はいないと決めつけて調査を頼んだものだから簡単な仕事になってしまい、君みたいな子供が来てしまったのだから……申し訳なかった」
スッと頭を下げる町長。
この年で町長に頭を下げさせるとは。 とにかく、大怪我をした獣人がいなくてよかった。
「しかし……君はいつからギルドに入ったのかね?」
「えっと……一昨日あたりからですけど?」
「そうか……どうも、以前から君の事をちらほら見かけたことがあるような気がしてね……私の気のせいだろうか?」
あ、そっか……それはタクトの事だろうから、この街に住んでたのなら見かけててもおかしくはない。
どうするかな……言うべきか?言わない方がいいか?
でも、家の事もあるし……話しておこう。
「実は僕、転生者なんです」
「転……生者?」
「僕は別の世界で人間でして……その世界で死んでしまい、気がついたらこの身体に転生していたんです。それで、そこのヴァンに助けられてギルドへ入ったんです。そして、この身体はこの街に住んでいたタクトという少年のでして、ここへ来る途中の崖崩れに巻き込まれて亡くなったそうです。おそらく、あなたが見たのは生前のタクトかと……」
「なんと、そんなことが……」
「はい。現に僕はこの世界の事はまだあまりよくわかっていません。信じ……られますか?」
恐る恐る聞いてみた。
普通なら、速攻で信じろっていうのが無理な話だけども、仲間は信じてくれた。
町長はどうだろうか?眼を閉じ、再びマズルをこすっている。
「ふぅむ……なんとも信じがたい話ですが……わかりました、信じましょう」
「ほんとですか!?」
「はい。どうやら、嘘を言っているような眼ではないでしょうしな」
よかった、獣人てのは人間よりはいいみたいだ。
人間ならきっと、信じないどころかあざ笑ってるよ、うん。
「ありがとうございます。それであの……一つお願いが」
「なんでしょう」
「タクトの家なんですが、保存しといてもらってもかまいませんか?」
「なるほど、そのくらいでしたらかまいませんよ。住所を教えてください」
もちろん住所がわかるはずもなく、仕方ないから紙に簡単な地図を書いて渡すと、町長がグッと親指を立てて席を外す。
あ、なんだろう……町長が部屋から出たら急に気が抜けて……ダラ~ッとなってしまった。
正直怖かった……怖かったですよ?
あんなのに立ち向かえたことが今でも信じられない。これも、仲間を想う力なのだろうか?
とにかく、アイツは「いずれお前を殺す!必ずだ!」とか言ってたし、再び僕の前に現れるのは間違いない。
二度も死ぬのは嫌だし(しかも、仲間の身体を使われて)、僕ももっと強くならないと。
「ん……んん……あれ、ここは……どこだ?」
あ、ヴァンが気がついた。ボーっとした顔で辺りをキョロキョロしているのを見ると、まるで僕が初めてこの世界で気がついた時みたいだ。
「ヴァン、大丈夫?」
「コウジ……って、いつつ」
「癒がこの街にいなかったから応急処置しかできなかったんだ」
「応急処置って……お前のその包帯はなんだよ!?」
僕の姿をみてギョッとするヴァン。
どうやら何があったか覚えてないみたいだ。
「おい……いったい何があったんだ?なぜ俺とお前が怪我してんだ?あのあと何があった?」
言わないわけには……いかないか。
「実はヴァンが連れ去られた後、僕も先へ進んだんだ。進んだ先でドラゴンのグランヴァルツと会ったの。少し話してたら……僕が来た道から……ヴァンが来たんだ」
「は?俺?」
「もちろん本物じゃないよ。ジャドーっていう悪霊に身体を乗っ取られたヴァンだよ」
ポカンとした顔のヴァンを見ると、ホントに覚えてないのがわかる。
ていうか、信じられないよね。
逆の立場だったら、僕だって信じてなかったかもしれない。いや、信じてない。
「僕は当然ながら歯が立たず、寿命が近かったグランヴァルツも勝てなくてね、グランヴァルツはある決心をしたんだ」
「ある決心?」
「僕がグランヴァルツを取り込むこと」
「え、おま……それって」
「うん、僕はグランヴァルツの力を手にしたんだ。そのおかげでジャドーを退けてヴァンを助けることができたんだ。まぁ、街も少し壊れちゃったんだけど……」
あれ、ヴァンが震えてる?
……いや、悔しいんだ。サポートに入るはずが、ジャドーに身体を乗っ取られた挙句、敵として現れたんだから。
歯……っていうか牙を食いしばり、拳を握りしめ、涙を流している。爪が食い込み、血も流れちゃってる。
「俺……情けねぇ……すまないコウジ……」
「ヴァン……」
これ、今は一人にした方がいいかも。
僕はそっと部屋から出ると、遠吠えに近い泣き声が部屋から響いてきた。
壁に寄りかかってその声を聞いていたら、こっちも切なくなってくる。
とりあえず僕は別の部屋を借り、そこで夜を明けることにした。
別の部屋といっても隣の部屋だから、当然ながら泣き声が聞こえてくるわけで。
でも、一晩中泣くかと思ったけど深夜になったとこで静かになった。
泣き疲れて眠ったんだろか……?僕も疲れてるし寝ないとね。
そして早朝。
僕とヴァンは町長の家の前にいた。
「一晩泊めていただいてありがとうございました」
「いやいや、こちらこそ。しかしいいのかね?まだもう少しいても……怪我の事もあるし」
「いえ、マスターに報告しないとなので」
「そうか、では、お礼はギルドに送っとくとしよう」
「ありがとうございます。街の再建も頑張ってください」
町長にお礼を言い、僕達はビスコティアを目指してシールスを出る……はずだったけど、街の出入り口に今回のクエストのラスボスが待っていた。
「やーっぱりこの時間に来たわね」
そう、シルフィーである。
くそぅ……この早朝なら大丈夫と踏んでたのに、まさか待ち伏せしてたとは……
あぁ、めっちゃ不機嫌な顔をして近づいてくるよ。まぁ、あとで話すって言ったのに、その前に出ていこうとすれば、そりゃ不機嫌になるか……
「さぁ、説明しなさい?何があったのか、なぜそのおじさんはさっきと昨日の様子が違うのか。そして、なぜ逃げるように去ろうとしたのか?」
うぐ……お約束の質問一気攻め。
何回も答えるのもめんどくさいんだよなぁ……とはいっても逃げられそうにないし、簡単な説明でいいか。
チラッとヴァンを見ると、苦笑いしながらコクッと頷いた。
と、いうわけでため息をしながらも色々省いて簡単な説明をシルフィーに説明する。けど、めっちゃ不服そうな顔をされた。
うん、やはり簡単な説明じゃ納得しないか?
「タクトの身体でそんな戦いを……キー!!」
「あ、あの、シルフィー……さん?」
「あたしも絶対ギルドに入る。そしてあんたを抜いてやるんだから!!」
顔を真っ赤にしてそう言い残し、走り去ってしまった。
いったい何なんだったんだろうか?てか、やはりギルドに入るとか言い出したよ……だから言いたくなかったんだ。
「青春だねぇ」
ヴァンがわけわからないこと言い出した。
とにかく、今はエスクリプスへ帰ってゆっくりしたい。そういう思いで僕達は街を出た。
そして、街の外に広がる草原を見て憂鬱になった。行きの時はワクワク感があったけど、あの数時間もかかる道を歩かなければならない。
未だに体力が回復しきってないのにこの歩きはつらいなぁ。
自転車が欲しい。自転車なら、半分以下の時間で辿り着くはずだ。
まぁ、無いものは仕方ない。これも修行の一環だと思えば。ゲームのRPGでも、みんな広いフィールドを最初は歩いたり走ったりしてるもんね。
溜息を一つ吐き、数歩歩いたとこで、ヴァンが歩いてないことに気がついた。振り返ってみると、俯いて耳がペタンとして佇んでいる。
命に別状はないらしいから、とりあえずは安心だ。
僕も怪我した腕を中心に簡単な治療を受ける。この街には癒属性はいないらしい。
そばで向かい合った状態の椅子に座り、町長に坑道での出来事を話した。
入って先へ進んだとこでヴァンがジャドーにさらわれた事、ドラゴンのグランヴァルツと出会い、取り込んだこと、ヴァンに乗り移ったジャドーと中で一度戦ったこと。
町長は親指と人差し指でマズルをこすっている。
「そうですか……妙に地響きがあるとは思いましたが……中でそんなことが」
「はい。それで、あの……えっと……街にまで追いやってしまってごめんなさい!!」
バッと頭を下げた僕。
そっと見ると、目をパチクリとさせた町長がいた。
「いやいやいや、私の方が謝るべきだ。魔物はいないと決めつけて調査を頼んだものだから簡単な仕事になってしまい、君みたいな子供が来てしまったのだから……申し訳なかった」
スッと頭を下げる町長。
この年で町長に頭を下げさせるとは。 とにかく、大怪我をした獣人がいなくてよかった。
「しかし……君はいつからギルドに入ったのかね?」
「えっと……一昨日あたりからですけど?」
「そうか……どうも、以前から君の事をちらほら見かけたことがあるような気がしてね……私の気のせいだろうか?」
あ、そっか……それはタクトの事だろうから、この街に住んでたのなら見かけててもおかしくはない。
どうするかな……言うべきか?言わない方がいいか?
でも、家の事もあるし……話しておこう。
「実は僕、転生者なんです」
「転……生者?」
「僕は別の世界で人間でして……その世界で死んでしまい、気がついたらこの身体に転生していたんです。それで、そこのヴァンに助けられてギルドへ入ったんです。そして、この身体はこの街に住んでいたタクトという少年のでして、ここへ来る途中の崖崩れに巻き込まれて亡くなったそうです。おそらく、あなたが見たのは生前のタクトかと……」
「なんと、そんなことが……」
「はい。現に僕はこの世界の事はまだあまりよくわかっていません。信じ……られますか?」
恐る恐る聞いてみた。
普通なら、速攻で信じろっていうのが無理な話だけども、仲間は信じてくれた。
町長はどうだろうか?眼を閉じ、再びマズルをこすっている。
「ふぅむ……なんとも信じがたい話ですが……わかりました、信じましょう」
「ほんとですか!?」
「はい。どうやら、嘘を言っているような眼ではないでしょうしな」
よかった、獣人てのは人間よりはいいみたいだ。
人間ならきっと、信じないどころかあざ笑ってるよ、うん。
「ありがとうございます。それであの……一つお願いが」
「なんでしょう」
「タクトの家なんですが、保存しといてもらってもかまいませんか?」
「なるほど、そのくらいでしたらかまいませんよ。住所を教えてください」
もちろん住所がわかるはずもなく、仕方ないから紙に簡単な地図を書いて渡すと、町長がグッと親指を立てて席を外す。
あ、なんだろう……町長が部屋から出たら急に気が抜けて……ダラ~ッとなってしまった。
正直怖かった……怖かったですよ?
あんなのに立ち向かえたことが今でも信じられない。これも、仲間を想う力なのだろうか?
とにかく、アイツは「いずれお前を殺す!必ずだ!」とか言ってたし、再び僕の前に現れるのは間違いない。
二度も死ぬのは嫌だし(しかも、仲間の身体を使われて)、僕ももっと強くならないと。
「ん……んん……あれ、ここは……どこだ?」
あ、ヴァンが気がついた。ボーっとした顔で辺りをキョロキョロしているのを見ると、まるで僕が初めてこの世界で気がついた時みたいだ。
「ヴァン、大丈夫?」
「コウジ……って、いつつ」
「癒がこの街にいなかったから応急処置しかできなかったんだ」
「応急処置って……お前のその包帯はなんだよ!?」
僕の姿をみてギョッとするヴァン。
どうやら何があったか覚えてないみたいだ。
「おい……いったい何があったんだ?なぜ俺とお前が怪我してんだ?あのあと何があった?」
言わないわけには……いかないか。
「実はヴァンが連れ去られた後、僕も先へ進んだんだ。進んだ先でドラゴンのグランヴァルツと会ったの。少し話してたら……僕が来た道から……ヴァンが来たんだ」
「は?俺?」
「もちろん本物じゃないよ。ジャドーっていう悪霊に身体を乗っ取られたヴァンだよ」
ポカンとした顔のヴァンを見ると、ホントに覚えてないのがわかる。
ていうか、信じられないよね。
逆の立場だったら、僕だって信じてなかったかもしれない。いや、信じてない。
「僕は当然ながら歯が立たず、寿命が近かったグランヴァルツも勝てなくてね、グランヴァルツはある決心をしたんだ」
「ある決心?」
「僕がグランヴァルツを取り込むこと」
「え、おま……それって」
「うん、僕はグランヴァルツの力を手にしたんだ。そのおかげでジャドーを退けてヴァンを助けることができたんだ。まぁ、街も少し壊れちゃったんだけど……」
あれ、ヴァンが震えてる?
……いや、悔しいんだ。サポートに入るはずが、ジャドーに身体を乗っ取られた挙句、敵として現れたんだから。
歯……っていうか牙を食いしばり、拳を握りしめ、涙を流している。爪が食い込み、血も流れちゃってる。
「俺……情けねぇ……すまないコウジ……」
「ヴァン……」
これ、今は一人にした方がいいかも。
僕はそっと部屋から出ると、遠吠えに近い泣き声が部屋から響いてきた。
壁に寄りかかってその声を聞いていたら、こっちも切なくなってくる。
とりあえず僕は別の部屋を借り、そこで夜を明けることにした。
別の部屋といっても隣の部屋だから、当然ながら泣き声が聞こえてくるわけで。
でも、一晩中泣くかと思ったけど深夜になったとこで静かになった。
泣き疲れて眠ったんだろか……?僕も疲れてるし寝ないとね。
そして早朝。
僕とヴァンは町長の家の前にいた。
「一晩泊めていただいてありがとうございました」
「いやいや、こちらこそ。しかしいいのかね?まだもう少しいても……怪我の事もあるし」
「いえ、マスターに報告しないとなので」
「そうか、では、お礼はギルドに送っとくとしよう」
「ありがとうございます。街の再建も頑張ってください」
町長にお礼を言い、僕達はビスコティアを目指してシールスを出る……はずだったけど、街の出入り口に今回のクエストのラスボスが待っていた。
「やーっぱりこの時間に来たわね」
そう、シルフィーである。
くそぅ……この早朝なら大丈夫と踏んでたのに、まさか待ち伏せしてたとは……
あぁ、めっちゃ不機嫌な顔をして近づいてくるよ。まぁ、あとで話すって言ったのに、その前に出ていこうとすれば、そりゃ不機嫌になるか……
「さぁ、説明しなさい?何があったのか、なぜそのおじさんはさっきと昨日の様子が違うのか。そして、なぜ逃げるように去ろうとしたのか?」
うぐ……お約束の質問一気攻め。
何回も答えるのもめんどくさいんだよなぁ……とはいっても逃げられそうにないし、簡単な説明でいいか。
チラッとヴァンを見ると、苦笑いしながらコクッと頷いた。
と、いうわけでため息をしながらも色々省いて簡単な説明をシルフィーに説明する。けど、めっちゃ不服そうな顔をされた。
うん、やはり簡単な説明じゃ納得しないか?
「タクトの身体でそんな戦いを……キー!!」
「あ、あの、シルフィー……さん?」
「あたしも絶対ギルドに入る。そしてあんたを抜いてやるんだから!!」
顔を真っ赤にしてそう言い残し、走り去ってしまった。
いったい何なんだったんだろうか?てか、やはりギルドに入るとか言い出したよ……だから言いたくなかったんだ。
「青春だねぇ」
ヴァンがわけわからないこと言い出した。
とにかく、今はエスクリプスへ帰ってゆっくりしたい。そういう思いで僕達は街を出た。
そして、街の外に広がる草原を見て憂鬱になった。行きの時はワクワク感があったけど、あの数時間もかかる道を歩かなければならない。
未だに体力が回復しきってないのにこの歩きはつらいなぁ。
自転車が欲しい。自転車なら、半分以下の時間で辿り着くはずだ。
まぁ、無いものは仕方ない。これも修行の一環だと思えば。ゲームのRPGでも、みんな広いフィールドを最初は歩いたり走ったりしてるもんね。
溜息を一つ吐き、数歩歩いたとこで、ヴァンが歩いてないことに気がついた。振り返ってみると、俯いて耳がペタンとして佇んでいる。
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