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しおりを挟むそれにしても、とエリーはさっきの服飾部の代表という男を頭に思い描く。
くすんだ茶色のボサボサ頭に、まったく整えていない無精髭。
にこりともしない、無愛想さ。
さらに体が大きいから、威圧感もはんぱない。
オシャレの最先端をいく人たちの集まりであるはずの服飾部の代表が、まさかあれだとは。
キラキラした人ばっかりだと思ってたのに。
憧れてた世界を壊されてしまったような、ちょっと残念な気分だ。
(……でも、ディノス・ブリーク様って、私を城に呼ぶ手紙をくれた人の名前だ)
エリーが雑貨屋に卸していた刺繍のハンカチは、小動物や花など可愛らしい図柄の女性向けのもの。
ポーチも同じように、自分と同年代の女の子向けにレースやリボンなどで飾っていた。
その可愛いものを見て、エリーを城に呼ぶと決めた人が、あんなに武骨で厳しそうな人だったのか。
(すっごく意外。ただ代表として名前を使われただけとか? いや、それよりあの人、王族の方々のファッション関係を支えている部署の代表でしょ? つまり、あの駄目過ぎる身だしなみで、王様の前に立っちゃうの? 怒られないの……?)
不敬罪とか適用されないものなのだろうかと、他人ながら心配になってくる様相。
「うーん……」
「エリー? 大丈夫? どうしたの、眉間にしわ寄せて考え込んじゃって」
「あ、はい。すみません。ええっと、代表のディノス様に挨拶も出来なかったなーって」
「あぁ、問題ないわ。絶対に気にしてないだろうから。それより、言われた仕事を始めましょう。破れた衣服の繕い方とかは知ってるのかしら」
シンシアが一抱えした服を見て、エリーははっきりと頷く。
「はい。弟が二人いて、どちらもよく破いてくるので」
「なら大丈夫ね。服のどこかに、紐で紙札が括り付けられてるの。そこに直して欲しい場所と内容を、服の持ち主が書いてるから、読んで修繕を始めていってくれるかしら」
「分かりました」
エリーも、自分の周りに散乱した服をかき集め、抱えられるだけ抱えて、作業机の上に移動させる。
そしてシンシアの隣に腰掛けると、さっそく裁縫道具を広げた。
準備が出来てから服の山から一枚を引っ張り出して探してみると、確かに紙札が紐でくくってあって、そこに持ち主の所属先と名前、修繕依頼の内容が書いてあった。
どうやら剣の稽古で大きく切り裂かれたらしい。
背中の部分がぱっくり綺麗に裂けている兵の訓練着を手に持ち確認しつつ、その武骨なつくりと可愛げのないデザインに、思わずはあと溜息を吐いた。
(服飾部って、きらきらふわふわなドレスとか、格好いいタキシードとかを作るだけのとこだと思ってたんだけどなぁ)
エリーは、もっと豪華で煌びやかなものを作るつもりでここに来たのに。
なんだか、想像と全然違う仕事内容だ。
「まぁ、最初だし。見習いだし」
気合いを入れようと、ぽんっと目の前の服を叩いて皺を伸ばす。
「……それにしてもこの訓練服の山、男のむっさい匂いがする気がします」
「ちゃんと洗ってるわよ? まぁ、確かに汗は掻きまくってるでしょうしねぇ。っていうか、エリーは初日なのに結構言うこと言うわね?」
「う……シ、シンシアさんなら大丈夫かなーって……」
「あら。喜ぶべきなのかしら」
上品にクスクスと笑いながら、シンシアもエリーの隣で針を持ち、裂けた服を縫い合わせ始めるのだった。
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