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しおりを挟む兵の訓練服の修繕という仕事は、よく弟たちの服を作ろうエリーにとっては、難しいことのないものだった。
チェックしてくれたシンシアにも太鼓判を貰い、その日、エリーはひたすら訓練着を縫っていたのだ。
「うん。まぁ、初日だしね」
お城の服飾部は、王族や巫女様の服をつくるところ。
それがこの国みんなの認識だ。
服飾部の職人は、きらびやかで優雅な、みんなの憧れの職業なのだ。
だからきっとエリーも、近いうちにキラキラで華やかなドレスや、恰好良いタキシードなんかに触れられると思っていた。
訓練服なんて最初だけ。
仕事のメインはドレスづくりなのだと、信じていた。
なのに。
二日目の仕事は、焦げて穴のあいた料理人のコック服を繕うことだった。
三日目の仕事は、仕事で膝の擦り切れた庭師の制服を繕うことだった。
四日目の仕事は、これまた兵の訓練服を繕った。
五日目、新人騎士が持ってきたシャツのボタンを付けながら、エリーは思いっきり眉を寄せる。
(やっぱり違う……これ違う! 想像と違うっ!)
手は高速でボタンとシャツに糸を通しつつも、不満にほっぺも膨らんできた。
想像していた綺麗なものに、何一つ触れてない。
ドレスのドの字もない。
(あぁぁ、部屋にはこんなにいっぱい素敵な生地やレースやリボンが溢れてるのに! お宝の山なのに! ここにいるだけでアイデアが湧いてくるのに! まったく使えない! 可愛いくてウキウキするの作りたいー!)
意気込みとは逆に、やっているのは汗臭くて泥臭いように感じる、使い古した服の修繕ばかり。
そのうえ仕事着とういう事で、丈夫な生地。
大きな部分はミシンが使えるとは言っても、細かな修繕作業なので手縫いがほとんど。
指を保護する指ぬきを付けていても、ずっと針を刺してると手が痛くなってくるのだ。
いくつもマメが潰れて、五日目にしてエリーの指は傷だらけになってしまっていた。
赤みを帯びて膨れた指先を見下ろし、エリーは重い息をつく。
(たぶん、縫いすぎて手が痛むってのも、新人さんがすぐに止めちゃう原因なんだろうなぁ)
城の針子は華やかなドレスに囲まれて、優雅にうふふオホホと微笑みながら、針を刺してると思っていたのに。
こんなの想像と全く違うと、エリーは初日からこの五日目まで不満を募らせていた。
(明日こそドレス、明日こそドレスと思って五日経ったじゃない……)
いったいいつになったら、この部屋の壁棚に溢れた素敵な手芸材料に触れるのか。
部屋に溢れる手芸材料というお宝を目の前にしているのに使えないなんて。
「あの、シンシアさん!」
六日目に出勤した時、机の上に山積みにされた衛兵の制服を目にした瞬間。
たまらずにエリーは、隣で先に仕事を始めていたシンシアに訴えた。
「あら、なあに?」
「私、ドレスが作りたいんです! その為に城に入ったんです」
「そう。頑張ってね」
「はい! いえ、そうじゃなくて、いつになったらドレスに触らせて貰えるんでしょう。お城って、王族や巫女様の着る、豪華で華やかな服作ってるんですよね? なのに私、触ったことないんですけど」
「あぁ……うーん、王族の方々の着るものを任されるのは、服飾部でもトップクラスの実力を持つ少数の方々なの。つまり、この大部屋ではなくて、特別に個人の作業室を貰えるくらいの人ってことね」
「な、なるほど。個人の作業室……」
そんなものがあったのか。
通りで代表のディノスが日にニ三度顔を出して指示するだけで、何かを作っているものを見たことがなかったはずだ。
彼は服飾部のトップだから、個人で与えられた作業室で作っているのだろう。
「部品くらいはここで私たちが作ったりもするけれど、組み立ててドレスの形に仕立てるのは、その人の作業室。手伝いに入るときもそこに行くから、この大部屋で王族の方々の衣装を最初から最後まで仕立てることは早々ないわ。あぁ、ここでたまにお付きの侍女さんのドレスなんかは作るけれど、今のところ予定もないわねぇ」
「わ、私がドレス作りのお手伝いに、その個人の作業室に呼んで貰えるのはいつなんでしょう!」
どうしても、キラキラふわふわなものに触りたい。
作業服や訓練着なんて、ごつくて可愛くなくて面白味の無いもの、もう嫌だ。
だから、と前のめり気味に聞いたエリーに、手を止めたシンシアはにっこりと笑う。
おっとりとした彼女だけど、きっぱりと言うことは言う。
「もっともっと腕を上げないと、無理だと思うわ。少なくとも一・二年は、同じような繕い物ね」
「まじですか。年単位……」
エリーはがっくりと肩を落とした。
城にあがりさえすれば出来ると思っていた憧れのドレスづくり。
まだまだまだまだ、遠いらしい。
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