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一年目 ~学園編~
休学届
しおりを挟む翌日学園に戻り、休学届を出して必要な荷物を取りに寮へ向かう。
途中会った教授に休学届について聞かれ、諸事情により休学する旨を伝えた。
残念そうな顔で、戻ってくる時を待っていると言ってくれたことに救われる思いだった。
最近憚らずエドガーと過ごしているらしきレイチェルのことに言及されたときにはひやりとしたが、いずれ自ずと広まることだろうと言葉を濁すに留めている。
俺の口からは言えないとわかるからか教授もそれ以上深くは聞いて来なかった。
荷物を運び出す手筈も整えて寮を出る。
それほど多くはない荷物だが家の無い身としては余る。領地に行っている間は侯爵家で預かってくれるという。
本当にレオンには頭が上がらない。
用事をすべて終え学園の外に向かい歩いていると、外出から戻って来たらしきレイチェルとエドガーと目が合った。
何か言おうと愉快気に口の端を上げたエドガーが俺の後ろから歩いて来たレオンを見て口を閉じる。
何事もなく通り過ぎるつもりだった双方の空気に気づかなかったのはレイチェルだけだった。
「あら、アラン。
あなたも外出? わたしには散々ダメって言っておいていい気なものね」
「おい、レイチェル……っ」」
焦った顔でレイチェルの肩を掴むエドガー。俺の友人としてしかレオンのことを知らないレイチェルと違いエドガーにはレオンが誰だかわかっているのだろう。レオンの前で俺を非難するのを止めさせようとしているようだった。
「何よ? エドガー」
「構ってないで早く行こうぜ、さっき買った髪飾り付けて見せてくれよ」
レイチェルの機嫌も損ねたくないがレオンの怒りを買うのはもっと怖いといった心情が透けて見えるエドガーに俺もレオンも何も言わずに横を通り過ぎた。
ちょっと!と声を上げるレイチェルをエドガーが宥めている声を背に学園の門を出た。
「ずいぶんと調子に乗っているな」
言葉の意図することがわからずレオンの顔を見る。
俺の視線を受けてレオンが思っていたことを口にした。
「いや、お前とあの女の婚約解消は広まっていないだろう?」
なにせ当事者すら知らなかったくらいだと皮肉を混ぜるレオンに苦笑を浮かべる。
「それなのに髪飾りを送るなんて、周りからどう見えるかわかっていないのか?」
アクセサリーを贈ること自体特別な間柄でしか行われないことだが、その中でも髪飾りには特別な意味がある。
貴族女性の髪と言うのはエスコートで取る手やダンスの時に支える腰以上に触れることがなく、神聖なものとされている。家族であっても年が上がれば触るのを躊躇う人も多い。
そこに付ける髪飾りを贈るというのは髪に触れることを許す関係の暗喩にもなる。つまり配偶者や婚約者というわけだ。
髪飾りを贈り、それを着けて見せてくれと言ったエドガーはわざとか口を滑らせたのか。
本当の婚約者同士なのだから問題はないのだが、俺との婚約解消が知られていないうちはどうしても不貞に見えてしまう。
新しい婚約を発表してそれが浸透するまでは身を慎んだ方がいいのに。
「それよりも俺はレイチェルが外出していることの方が不思議だったな。
俺が申請したときにはほぼ許可が下りなかったのに」
二人の関係が快く受け入れられるかについては俺が気にしても仕方のないことだと考え、別に気になったことを口にする。
学期末の成績も特に上がっていなかったはずだけど。
俺の疑問にレオンは事も無げに答えた。
「そりゃお前が馬鹿正直に申請をしてたからだろ」
レオンの言いように眉を顰める。
馬鹿正直にって、それ以外ないだろう。
そう思った俺に、レオンがじゃあ問題だと薄い笑みを浮かべる。
「普通に申請したらあの女の成績で許可が下りる訳がない。
だったらどうするかわかるか?」
他にやりようがあるのかと考え、馬鹿正直にと言った言葉に引っかかった。
つまり正攻法じゃない、あるいは不正行為であれば、という意味に気づきぱっと顔を上げる。
「もしかして、他の生徒で申請をしているのか?」
正解、というようにレオンがにやりと笑う。
考えてみたらあまりに簡単な答えに拍子抜けする。
「でも、それは絶対バレるだろう」
許可証には名前も書いてあるし、名前を貸した側だって申請をしながら学園に残っていたら不自然じゃないか。
「当たり前だろ。
何のために許可制を取ってると思ってるんだ」
門番の方でも許可証と顔が一致しない外出は把握しているし、他に魔力での記録も取っていると聞かされて唖然とする。なんでレオンはそんなことまで知っているんだ。
「面白いものでな?
不正行為をして遊び歩いている奴は卒業をして大人になっても同じような過ちをするんだ。
今楽しければいい、どうせバレない。
これまでも上手くいったからってな」
楽しそうに語られる内容にひやりとした物を感じる。
王立学園だ、国もそれを把握している可能性があるってことか。別にそれを使って直ちに監視対象になるなんてことはないだろうが。
「レオンは引っかからない外出方法も知っていそうだな」
俺の言葉にレオンは口の端だけで笑った。
「俺は正攻法の方が好きだぞ?
危ない橋を渡るより、職員に頼み事をする方が楽だからな」
それって正攻法っていうのか、と思いながらなんとなくレオンが裏道を明かした理由がわかる。
使う使わないは別として知っておけということだろう。
何も知らなければ思わぬ形で影響を受けることもあるかもしれない。今回エドガーが許可証を不正取得してレイチェルを誘い出し絆を深めたように。
同時にそれは俺が知っても軽はずみに不正に手を染めることはしないと判断したからなんだろう。
信頼が嬉しく、それに応え続けられる自分でありたいと強く思った。
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