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一年目 ~学園編~
侯爵との対話
しおりを挟む侯爵の執務室の前に案内され、扉を叩くのを見つめる。
中から応えがありここまで案内してくれた人は一歩下がって俺に扉を開けるように促す。
レオンの両親、侯爵夫妻が帰ってきて俺は正式にレオンの部下になることを認められた。何年か経験を積みその後、能力が認められればレオンの下で働くことになると言う。学園への復学を希望していることも理解を示してくれた。
話が決まる前には面談などはなかったが、これが実質的な面談になるのだろう。
緊張を覚えながら扉を開け中に入ると、レオンたちの父である侯爵が待っていた。
金髪はレオンやクリスティーヌ様と一緒だが瞳の色は冬の空のような澄んだ色をしている。
緊張を和らげるような穏やかな目を向け、侯爵は近くへ来るよう促した。
「君がアラン君だね、レオンから君の話はよく聞いている。
今回あったことも概要は聞かせてもらった」
その上で君の口からこれまでの経緯を説明してくれと求められ順に話していく。
時折侯爵から入る問いに答えている内に、気づけばレオンよりも詳しく話していた。
「大体レオンから聞いていたのと同じだね、わかったよ。
大変だったね、アラン君」
労るような目を向ける侯爵へ頭を下げて気遣いへの謝意を示す。
「君の除籍届が受理されたかどうかは私の方でも確認させてもらうよ。
雇うこちらにも関係のある話だからね」
はい、と返事を返し手続きの確認は任せてくれという侯爵へ頷く。
「君には春になったら領地の方に行ってもらう。
冬の間は雪などで移動が厳しくてね」
危険だから日用品などを運ぶ馬車も本数を減らして運用しているらしく、予定にない人間を送るのは難しいと言われた。
俺が何か言うものでもないので頷いて承知したことを示す。そうすると春まで何をすることになるんだろうか。
そんな疑問を浮かべる俺へ侯爵が言葉を続ける。
「それまでは今日までと同じ、レオンの客人でいてやってくれないか。
急に友人が部下となり態度を変える。
私にその話をしたときから覚悟はしているだろうが、それは思いのほか堪えるものだよ」
レオンのために今は友人のままでいてほしいと願われ、言葉を躊躇う。
「それは……」
俺の躊躇いを見透かした侯爵が机の上で指を組んで諭す口調で俺に告げる。
「君は突如災難に見舞われ、酷く混乱し傷ついたことだろう。
長く共に過ごした人たちとの別れ、家族との決別、学園を去らねばならないと悩み自らの将来を憂いたはずだ」
侯爵の言葉に否定するところはなく頷いて言葉を待つ。
「今、レオンの口添えや私の決定により救われた気持ちでいるかもしれない。
けれど、君の内にある悲しみや憤り、悔しさや不安は決して消えたり癒えたりしたわけではないと思う」
婚約解消の事実を知ってからまだ2週間足らず。傷が癒えるには早すぎる時間だと語る侯爵の言葉が、ゆっくりと胸に染み込んでいく。
「君の身に起こったことを思えばすぐに受け入れるのは難しいだろう。
今は気持ちを落ち着ける時間だと思って享受しなさい」
ふとした瞬間に傷つけられた痛みを思い出し、俺を苦しめるかもしれないと言われ胸の奥に沈んでいるものが揺れた気がした。
「ともあれ今のところは領地に行く準備期間だ。
特に私からの指示はないのでゆっくり過ごしなさい」
どうせ春などすぐそこだからと結ばれて深く頭を下げる。
侯爵の気遣いに感謝せずにはいられない。
何も、レオンが傷つくからこれまで通りに振舞えと言っているのではない。
学園と領地と別れて暮らす間に心構えをしなさいと俺とレオンに諭しているのだ。
次に顔を合わせる時には立場も身分も変わっている。
今を大切に過ごし、また会うときには変わった関係を穏やかに受け入れなさいと。
「ありがとうございます」
去り際にもう一度頭を下げて執務室を辞する。
わざわざ話をしてくれるために俺を呼んだのだと思うと胸が熱くなる思いだった。
自分の身に起こったことをただ嘆くのではなく目を逸らすのでもなく、事実を事実として受け入れる。
それが難しいとわかっているから先に話をしてくれたんだろう。
言われなければきっと、ただ考えないようにすることで痛みから逃がれようとしていた。
春になり領地に旅立つころには気持ちを落ち着け、新しい日々の中でかつての友人と新しい関係を築いていく努力をする。
漠然と何をすればいいのか考えていたときより思考がクリアになったのを感じた。
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