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一年目 ~学園編~

家庭教師の真似事

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 勉強を教えてほしいと言ったクリスティーヌ様と与えられた部屋で向かい合う。
 扉が無く開放感のある部屋は陽が程よく入り、とても心地が良かった。

「アラン様!
 今日もよろしくお願いします」

「クリスティーヌ様、こちらこそよろしくお願いします」

 やる気充分のクリスティーヌ様につい笑みが浮かぶ。
 昨日悩んでいた問題を再度解いてもらい、終わればまた似た問題を出す。
 最初は詰まることもあったけれど回数をこなすうちにスピードが上がっていく。
 クリスティーヌ様自身もそれがわかるのか次の問題を出しても自信のある顔で受け取った。

 ノートを見れば普段どれだけ取り組んでいるかわかる。
 苦手な分野はあっても基礎力が高く、真面目に勉強されているようだった。

「では次はこれで」

 最後にと出したのは複数の計算を組み合わせたもの。
 問題の長さに一瞬怯んだ顔を見せたけれど丁寧に解いていく。
 途中の計算式を見てもちゃんと理解できているようだった。
 最後の問題だけは不安そうに窺いながら差し出す。

「はい、正解です」

 よくできましたと微笑むとぱっと喜びの表情を浮かべる。

「よかった、最後の問題はちょっと自信がなかったんです」

「大丈夫ですよ、過程もきちんと書けていました。
 見返すと自分でもわかってきますよ」

 過程が書けるのは、勘で解くのではなくなぜそうなるかがちゃんとわかっている証拠だ。
 試しに口頭でも説明してもらうとたどたどしくも丁寧に答えてくれた。
 時折不安気な目を向けるので大丈夫、合っていますよと微笑むと段々答える声が力強くなっていく。

「完璧です、よく理解されていますよ」

 途中回答も完璧だと答えるとクリスティーヌ様が期待に満ちた目を向けてくる。

「ではアラン様、次は魔法について教えてください!」

 学園に入学してから学ぶ内容に魔法がある。
 これは貴族であれば必修科目で、平民の中でも人気の講義だ。
 内容は大きく魔法理論、魔法実践に分かれる。
 クリスティーヌ様の希望もあり、侯爵やレオンたちにも良ければ教えてほしいとお願いされている。
 であれば俺に断る理由はない。

「そうでしたね。
 では、今日は魔法の基礎理論についてお話ししましょうか」

 実践は理論が理解できてからの方が良いというのもあるし、そもそも危ないので侯爵邸では教えられない。

「クリスティーヌ様は潜在魔力が多いとお聞きしています。
 魔力が多い方は理論を無視しても魔法を使えてしまいますが、それでは暴発の危険もありますし効率が悪くなるので基礎は大事です」

 はい、と神妙に頷くクリスティーヌ様へ微笑む。慎重なのは良いことだ。

「アラン様は魔法はお得意なのですか?」

「俺は理論はできますが、実技があまり得意ではありません。
 魔力を練るのが苦手で、どうしても発動が遅くなってしまうんですよ」

 意外ですと素直に浮かぶ表情に口元が緩む。

「ですので実技は教えられませんが、理論ならお任せください」

 笑って請け負うと真剣な表情に戻ってペンを握りしめた。


 説明をしながら広げたノートにペンで魔法式を書き付けていく。

「アラン様、この記号はなんです?
 見たことがないです」

「ああ、これは私が勝手に使っているだけの記号です。
 つい癖で書いてしまいました」

 簡素な記号と線で魔力の構成比を表しているそれは、殴り書きに便利なのでよく使っていた。けれど教えるのには不適当だったなと反省する。
 反省する俺にクリスティーヌ様はどういうものなのかと聞く。

 記号で魔法属性、線の位置で魔力出力を表していると説明するとおもしろそうに目を輝かせた。

「まあ、面白いですね」

「簡単に表すだけですが、メモするだけならこの方が早いので」

 自分でもノートに書いてみて、キラキラした目で俺を見る。

「すごいです、こうして工夫をされているんですね」

「そこまで言われると恥ずかしいですね。
 不精なだけですから」

 あくまで簡素なメモ用なので、緻密な計算のある魔法には使えない。それも説明するのだが、クリスティーヌ様の瞳の輝きは変わらなかった。
 私も使っていいですかと聞かれてどうぞと了承してしまう。
 喜んでいるところにやっぱりダメですとは言えなくて、試験や講義では使わないようにと注意を述べるに留まった。

 早速さっき教えた魔法式を記号で表し、暗号みたいと楽しそうに笑う。
 意外な発想に俺も笑ってしまった。

 熱心に聞いてくれるクリスティーヌ様はとても良い生徒で。
 もう時間ですよと言われ、過ぎた時間に驚いたのは俺もクリスティーヌ様も一緒だった。


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