【完結】幼い頃からの婚約を破棄されて退学の危機に瀕している。

桧山 紗綺

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二年目 ~領地編~

クリスティーヌ様の訪れ

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 やって来た馬車を使用人総出で迎える。
 侯爵家の紋章の入った馬車から降りたのは学園の制服を着たクリスティーヌ様だ。

「お帰りなさいませ、お嬢様。
 学園でもお元気にお過ごしとのこと聞き及んでおります」

 クレイルさんが挨拶を述べるとクリスティーヌ様が懐かしそうに微笑む。

「ただいま、クレイル。
 あなたも元気そうね。
 せっかくだからみんなにも制服姿を一度見せたかったの」

 そう言い制服姿でくるっと回って見せるクリスティーヌ様にクレイルさんも眩しそうに目を細めた。

「少し見ないうちにずいぶんと大きくなられましたね。
 ご立派になられてうれしゅうございます」

 大げさねと笑いながらクリスティーヌ様が侯爵邸を見上げる。

「久しぶりだわ、皆短い間だけれどよろしくね」

 控えている使用人たちに向かってクリスティーヌ様が告げる。
 往復の移動を考えるとそれほど長くは滞在できない。
 それでも喜ばしいとクレイルさんをはじめとして皆嬉しそうにクリスティーヌ様を迎える。
 俺も半年ぶりに見た彼女の成長に驚きと感動を覚えていた。
 きっと学園で良い出会いや経験をしたのだろう。
 元々持っていた素直さや可愛らしさに加えて自信に裏付けされた堂々とした態度は彼女をずいぶん大人びて見せた。

 目の合ったクリスティーヌ様がぱっと顔を輝かせた。

「アランさ――」

「クリスティーヌ、ご無沙汰しております」

 駆け寄ってきたクリスティーヌ様に呼ばれかけた名を遮り挨拶をする。
 胸に手を当て腰を折った俺に寸暇沈黙が訪れ、柔らかな声が掛けられた。

「ええ、久しぶりね

 顔を上げた俺に見せた綺麗な笑みに、俺も穏やかな笑みをもって返す。
 感じるほのかな寂しさを胸に沈めて微笑むと美しく笑んだクリスティーヌ様が口を開く。

「よくやっているとクレイルから聞いているわ。
 学園での話をしたいから滞在中時間を作ってちょうだい」

「それは……」

 判断が付かなくて言葉に迷う俺にクリスティーヌ様が言葉を重ねる。

「成績優秀だったあなたからの意見も聞きたいのよ、だからお願い」

 昨年まで学園に通っていた俺の話を聞きたいと言われて反論する理由を無くす。
 クレイルさんに目配せをすると構わないと頷いてくれたのでクリスティーヌ様へ承知しましたと返事をする。
 約束よ、と言ったクリスティーヌ様の目に覗く不安を見てしまい、申し訳なさが浮かぶ。
 安心してもらえるよう笑みを浮かべ必ずと返すとほっと表情を緩ませる。
 関係が変わったこと、境界をはっきりさせるために変えた呼び方に動揺させてしまった。
 もっと上手くできなかったのかと悔やまれる。
 変わらず慕ってくれていると伝えるような輝く笑顔を、嬉しく思っていたのは確かなのに。
 その笑顔を翳らせた自分に落ち込む。
 せめて曖昧な約束ではなくいつでも応える気持ちがあることだけでも言葉にする。
 今日はお疲れでしょうから明日以降空いている時間にお呼びくださいと伝えると今度こそ嬉しそうに微笑んだ。



 クリスティーヌ様が長旅の疲れがあるだろうと部屋に案内された後、俺はクレイルさんに断りレストランに向かう。
 何も掴めていないが料理の配達は継続していた。

「こんにちは、今日もよろしくお願い致します」

「ああ、アランさんいらっしゃい。
 毎日ありがとうございます」

 にこやかな挨拶に無理を言っているのはこちらですからと笑みを返す。
 毎日のように顔を合わせているからか親しみを持って接してくれる。
 店主には別荘の滞在者に所以があり失礼がないよう配達を代行させてほしいとお願いしていた。

「いやいや、余所の貴族様のところに料理の配達なんていう気の張る仕事を引き受けてくれてこっちもありがたいよ。
 おかげで店の方に集中できる」

 ありがとうなと朗らかな笑みを見せる店主から今日の料理の説明を受けて店を後にする。
 今日もおいしそうだと伝えたときの店主の照れ臭そうな顔が浮かぶ。
 この土地の人々は気持ちの良い人が多く、余所者のアランにも温かく優しい。
 過ごす程にこの街が好きになっていた。



 別荘に着き裏門より声を掛け中に通される。
 いつもの女性の後ろを歩き調理場へ向かう。

「そういえば、侯爵家のお嬢様が戻っていらしたとか。
 あなたもご存じ?」

 これまで無駄話を一切しなかった女性がクリスティーヌ様のことに言及した。

「ええ、もちろんです。
 街中その話題で持ち切りですから」

 にこやかに、けれど大げさでない程度のトーンで応える。
 内心の動揺は表に出さない。けれど警戒を持って女性の言動を窺う。
 なぜ、クリスティーヌ様のことに触れた?
 贋金をばら撒いているからの警戒なのかと緊張を生む。

「噂では金の髪に紫の目をしたお嬢様だとか、お見掛けしたことはある?」

 いいえと首を振る俺を女性の目がじっと見ていた。平静を保ち答えを繋げる。

「私はこの土地で生まれ育った者ではないので、これまでそのような機会はございませんでした」

 俺の返事にそうなの、と答えそこで女性は興味を失ったようだった。
 どうしてお嬢様のことを聞かれたのか不思議だと目を向け、一つだけ質問をする。

「もしかしてあなたのご主人様がお嬢様に用事がおありでしたか?」

「いいえ。
 ただここにいる間は社交に煩わされたくないと言っていたから。
 顔を合わせてしまったらご挨拶しないわけにもいかないでしょう?」

 否定し、顔を合わせたくないだけだと言う女性にそうでしたかと返す。
 お役に立てず申し訳ありませんと添えた俺の目には女性が浮かべたほんのわずかの焦りが見えた。


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