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二年目 ~領地編~
学園生活の話と魔法史に残る大発見
しおりを挟む女性の態度に感じた異変はクレイルさんに伝え、屋敷自体の監視を強くしている。
もしかしたら逃げる算段をしているのかもしれない。
そうであれば逃げられる前に捕らえるかどうかの対応を決めなければならず、クレイルさんは難しい判断を迫られている。
これが使用人の女性や酒場に出入りしている男だけなら問題はないのだが、別荘にいると考えられる貴婦人の存在が対応を困難にしていた。
変わらずレストランと別荘に通うアランにクリスティーヌ様からの呼び出しがあったのは異変があった翌日のことだった。
時間を取ってほしいと呼び出されたのは裏庭の一角。
ガーデンパーティも開けそうな広さの裏庭に一つだけ出されたテーブルでクリスティーヌ様がカップを傾けていた。
「お嬢様、お待たせして申し訳ございません」
クリスティーヌ様に待たせたことを詫びると呼び出しが後になったのはこちらの都合だと気遣われる。
「アラン、時間を取らせて悪かったわね」
いえ、と答える俺にクリスティーヌ様が楽にしてちょうだいと微笑む。
側に立ち控えると、ほんのわずか渋さを感じたように顔を顰めた。
「学園での生活はいかがですか?」
先んじて学園のことを訪ねた俺にぱっと笑顔を浮かべる。
楽しくて仕方ないといった表情に俺も浮かべた笑みが緩むのを感じた。
「とても楽しいわ!
友人もたくさんできたし、講義も楽しくて毎日充実してるのよ」
明るい表情で友人の話や講義の話を聞かせてくれる。
知った教授の名前も出てきて懐かしい。
クリスティーヌ様の表情を見ているだけで、彼女がどれだけ充実している学園生活を送っているのかがわかった。
教わることもすることもいっぱいあるけれど楽しいと伝えてくれる。
心配はしていなかったけれど、こうして教えてもらえると安心するし嬉しいものだな。
「ねえアラン、学園での努力の成果を見てもらえるかしら」
「ええ、喜んで」
答えながらなぜ裏庭なんだろうと思った。その答えはすぐに教えられる。
驚くわよと屈託なく笑ったクリスティーヌ様がすっと立ち上がり片手を前に出す。
真っ直ぐに立ち、上向きに開いた左手に右手の指で何かを描く。
クリスティーヌ様の左手に魔力が集まり、その後全身を伝わって膨れ上がる。
ふわりと金の髪がたなびき、前を向いた紫の瞳が帯びた魔力によって金に煌めいた。
あまりに神秘的な空気から目が離せずクリスティーヌ様の一挙一動を見つめる。
彼女はゆっくりと左手を正面に掲げると庭の中心に向け魔法を放った。
ごうっと激しい音がして大人一人飲み込めるほどの大きさの火炎が裏庭の真ん中で燃え上がり、ふっと消える。
「ねっ、すごいでしょう!」
炎の魔法を一瞬で消したクリスティーヌ様が自身の努力の成果を誇らしげに伝える。
魔力が多いとは聞いていたが、驚きの威力だった。
「ええ、驚きました……」
本当に驚かされた。これを学園に入学して半年の学生が放ったとは信じられない。それほどの威力だった。
「それでね、さっき発動の時に使っていた方法なんだけれど!」
見ててねと手のひらを差し出し魔力を手に流す。
そこへ指で何かの記号を描く、ぽうっと光った模様に目を瞠る。
手のひらに描かれていたのは俺がメモによく使っていた記号たちだった。
「アランが教えてくれたこの記号を使って属性と配分を描いてから魔力を練るとすごくイメージしやすくて! 発動までの時間も早くなったのよ!」
驚きの言葉にクリスティーヌ様を不躾なほど見つめてしまう。
アランもやってみてと促されて、見ていたように片手に魔力を集めて記号を描き魔力を練る。
以前よりも格段に速く、スムーズに練り上がった魔力に驚く。
集中しても数分程度かかっていたのにこの速さは尋常じゃない。
きらきらとした瞳ですごいでしょうと訴えるクリスティーヌ様はこのすごさに多分気がついていない。
「クリスティーヌ様、これはすごいことです。
学園に戻ったら直ちに教授に報告してください」
それまでこの方法は使ってはいけませんし他言も無用ですと伝えるときょとんとした顔をしていた。
いいですか、と前置きをしてどういうことなのかと説明していく。
「魔法の発動を短縮する方法というのはこれまで自身の魔力に慣れ、コントロールを高めるしか方法がないとされてきたんです。
この方法ではその定説を覆し誰でも今までより早い時間での魔法の発動を促す可能性があります」
大発見なんですと伝えると言いたいことがわかったのか不安そうに見上げてくる。
これが杞憂であれば問題はない。
けれど実際に誰が試しても同じ結果が得られるようなら、これまでの概念が覆る。
おまけにこの方法であれば発動までどの魔法が使われるか読まれづらい。
俺もクリスティーヌ様を見ていたが流れる魔力が火水風土のどれなのかわからなかった。
もっと魔法に長けた人であればわかるのかもしれないが、それ以外の者に気づかれないというだけで脅威だった。
「ですから約束してください、教授に話して安全が確認されるまでこの方法は使わないし誰にも言わないと」
念を押すと神妙に頷く。
「わかったわ、でも教授に伝えるときにはアランの名前も出すわね。
アランが使っていたあの記号がなければ私だって考えつかなかったんですもの」
「クリスティーヌ様、それは」
記号の発案者として名前を出すと言われて戸惑う。
俺はただ速記するために記号を使っていただけで、クリスティーヌ様のように魔法の発動をしやすくするなんて視点で生み出したわけではないのだ。
それなのに共同で名前を出すのは気が進まない。
そうに伝えるのだけれども、クリスティーヌ様はそれを了承しなかった。
「なら教授にも言わない」
「クリスティーヌ様!」
非難の声を上げると俺に近づいたクリスティーヌ様が真剣な瞳で覗き込んだ。
見上げる紫の瞳が俺を真っ直ぐに射抜く。
「アランがちゃんと共同研究者として名前を出すなら報告をするわ。
でも人が作った物まで我が物として嬉々として報告するようなことはできない。
それは後に続く人のためでもあるのよ?」
クリスティーヌ様の言葉にはっとさせられた。
確かにそれは、他者の成果を奪うことを容認することに繋がる。
到底看過できない行為だと言われたら全くその通りで自身の過ちに気づかされた。
「……わかりました」
「わかってくれてよかったわ。
アランは……」
何か続けようとしたクリスティーヌ様が言葉を止める。
なんだろうと言葉を待つと俺を見ていた瞳が悪戯なものに変わった。
「もうお嬢様って呼ばなくて良いの?」
「……っ! それはっ!
失礼しました」
いつの間にか以前の呼び方に戻っていた。
ここに来たばかりの時に俺から線引きを誤ってはならないと示したのに、自ら破ってしまうなんて。
「いいのよ、咎めたりはしないし、そう呼んでくれるのはうれしい」
寂しそうに笑うクリスティーヌ様に眉を下げる。それはできない。
そのまま伝えるのも忍びなくて口を噤む。
返事を返さない俺にわかってるわとクリスティーヌ様が柔らかな声で呟く。
「できないのはわかってるの、子供みたいに駄々をこねたりしないわ」
理解していると語るクリスティーヌ様の浮かべる笑みは美しく、正しく淑女の笑みだった。
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でもレポートをまとめるのには手を貸してねと微笑む彼女に俺は浮かぶ笑みのまま了承を返すしかできなかった。
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