【完結】幼い頃からの婚約を破棄されて退学の危機に瀕している。

桧山 紗綺

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四年目 ~冬期休暇 そして春へ~

どうしたんですか?

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 数日かけ資料を読み込み思ったのは、やはりあるということだ。
 その何かが掴めなくてもどかしい。
 伯爵家が取引をしていた相手やその先の取引先まで書かれた資料を見ながら考える。

 ふと、違和感が目に留まる。
 この取引、おかしくないか……?

 伯爵家の本業で使用する資材の内、木材は自領で賄っていた。ここ数年その割合が減り購入が増えている。
 それ自体はものすごくおかしなことではないのだが、購入している相手というのが西方をまとめる侯爵家。
 彼の家が良い木材を卸すというのは聞いたことがないが、その割に金額が高い。
 高級品に相応しい品物であれば値段が上がることもあるが……。
 伯爵家の販売履歴を見てもその原価を上乗せしている様子もない。
 基本的に注文を受けて品物を作っていたようだし、利益を薄くする必要はないはずだ。

 取り引き相手が侯爵家というのも気になる。
 以前、伯爵家の捜索に入る前に侯爵様が話をしに行った西方の侯爵家。
 侯爵様が話をしたその直後、何人かが姿を消し摘発から逃れている。
 それを偶然の一致にはできない。
 とはいえ侯爵家へ捜査の手を伸ばすのは容易ではなく、すぐに情報を得ることは難しそうだ。
 侯爵家の基本資料に目を通し、考えられる可能性を頭の中で羅列していく。
 読み終わった書類を置いたところで丁度扉が叩かれた。

「アラン、今大丈夫?」

「ええ、大丈夫ですよ。
 ……どう、したんですか?」

 返事をして扉を開くと、出かけるのかコートを着たクリスティーヌ様が立っていた。
 深い赤色のコートが明るい茶色の髪によく似合っている。
 そう、茶色の髪に。

「どうしたんですか、それ? すごく可愛いですけれど」

 思わず同じことを聞いてしまった。
 長い金の髪が隠れ、茶色の髪になっているだけで印象が全く変わっている。
 あまり見たことのない赤いコートも可愛らしい。
 深みのある赤なので派手過ぎることもなくクリスティーヌ様によく似合っていた。

「空いた時間に教えてもらったの。
 やっぱり私がこの街に来てるって知られない方が良いかなって思って」

 俺が閉じ篭って資料を読んでいる間に変装を教えてもらっていたらしい。
 カツラの髪を手で掬い楽しそうに笑う。

「少し街を歩いて来ようと思って、アランもどう?」

 考えるまでもなく一緒に行くことにした。
 一人でないのはわかっているけれど心配だ。
 それに、これがクリスティーヌ様の気遣いであるのもわかっている。
 ここに来てからずっと部屋に閉じ篭っていたから少しは身体を動かした方がいいと自分でも思うし、クリスティーヌ様と一緒に街を歩くのもきっと楽しい。
 つまり、断る理由が一つもなかった。

 俺の返答を予想していたのか護衛の一人が持ってきていたコートを受け取り羽織る。
 じゃあ決まり!と俺の手を取って歩き出すクリスティーヌ様にびっくりして手を引く。しかし思いの外強めの力で引っ張られてしまう。

「クリスティーヌ様!?」

「今の私はクリスティーヌじゃないの」

 だから手を繋いでも大丈夫なのという論理にどう答えたものかと思う。
 迷っている間にエントランスまで来てしまった。
 そうだ忘れてたとクリスティーヌ様が一度手を離しポケットから何かを取り出す。

「アランはこれね」

 そう言って差し出されたのはシンプルな眼鏡。細いつるに施された装飾が野暮ったさを抑え、品よく見せている。
 手を伸ばしたクリスティーヌ様が俺に眼鏡を掛け、満足したように頷く。

「とってもよく似合っているわ」

 慣れない感触につるに触れるとクリスティーヌ様の目が輝いたのがわかった。なぜか喜ばれている。
 その顔を見ていると落ち着かないから外したいとは言いづらい。

 今度こそ出発ねと取られた手に口を開き、少し考えて反対の言葉を飲み込む。
 変わりに手をきゅっと握ると振り返ったクリスティーヌ様が嬉しそうに微笑んだ。

 その微笑みにこちらも口元が緩んでしまう。
 やっぱり俺はずるいな。
 手を離した方が良いとわかっているのに――。
 離したいなんて欠片も思わなかった。


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