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四年目 ~冬期休暇 そして春へ~
飛び込んできた報せ
しおりを挟む予定を変更して最初に訪れた町でまず訪ねたのは領主の家。
現在は国から派遣された役人が、いなくなった当主の代わりに管理し治めている。
家族は親戚を頼り別の町に移って行ったそうだ。
家族といっても子はなく、妻は夫の失踪を知っても嘆くこともなく淡々と捜査に協力し、自身の疑いが晴れると共に町を出て行ったと聞く。
屋敷を訪れると役人は不思議そうな顔をしながらも俺たちを迎え入れた。
捜査資料を見返していて気になる金の流れがあったので関係先をもう一度洗っていると伝え、出来る限りで協力してほしいとお願いをする。
侯爵家が一連の贋金事件の捜査をし摘発まで行ったのは周知のため、見せられる範囲でならと快く協力してくれた。
資料を見るとこの領地は細工を得意とする職人を多数抱えた家で、部品の供給といった立場から伯爵家とは浅からぬ付き合いではあったようだ。けれど公爵家とのやり取りは見えてこない。
子息の動きからして何かあると思っていたんだが当てが外れたか。
仕えていた使用人の一部がまだ残っていると聞き話をさせてもらうが、これといった情報は得られなかった。
唯一の収穫と言えば公爵子息らしき男性がこの町に住む女性の下に通っていたとわかったくらいだ。
ただそれも3年以上前の話のようで、交渉材料にはなりそうにない。
その女性がいなくなった領主の父が外で作った婚外子であることはわかったが、どこかへ働きに出たのか何年も姿を見ないという。
一応女性が一時期住んでいたという家にも来てみたが聞いた通り人がいる様子もない。
呼びかけに返事がないのを確認して借りてきた鍵で中に入る。
埃っぽい空気に袖で鼻先を押さえ辺りを見回す。
捜査に入った時にここも捜索したのか埃の積もった床には足跡がいくつも付いていた。
室内を見回していた護衛の人が棚の位置に違和感があると口にする。
言われると確かに使いやすさや見栄えを無視した置き方になっている。
棚の位置をずらしてもらうと、その小さな棚の後ろから帳簿のような物が出てきた。
ページを捲ると伯爵家へ卸した品物の数とその代金が記されている。――裏帳簿だ。
更にページを繰ると他にもいくつかの家の名前が書いてあり、そこにはこれから向かおうと思っていた領地の名もあった。
帳簿を見る限り、国へ提出する記録では実際より販売数を過小に記載し売り上げを誤魔化していたようだが……。
逃げるような罪だろうか。
もちろん罪は罪だし、明るみに出れば裁かれるのは間違いない。だがこの内容なら恐らく罰金と納めるはずだった税金+αの追納で済むはず。
どうにも腑に落ちない。
帳簿を見ていくと、始まりの方にいくつか本業とは関係なさそうな購買の記録を見つけた。
そこに記された名前と品名に領主が逃げた本当の理由が知れた。そしてなぜこんな所に裏帳簿があったのかも。
大きな収穫を得て滞在している屋敷に戻る。
調査官のまとめ役をしている彼を探すと向こうも俺を探していたようだった。
帳簿の件を切り出す前に、彼が口を開く。
「アラン様、侯爵様から急ぎの書簡が届いております」
差し出された手紙を受け取り礼を言う。
中身を開け確認すると、早くも一人と会談ができ賛同が得られたと書いてあった。早い。
拳を握り手ごたえに震える。
もう一人の方は立場を思えば交渉は難航するかもしれない。
けれど譲歩を引き出すことはできるだろうと考えている。
侯爵様も同様の考えで、いくつか用意している落とし所を教えてくれた。
当初は、侯爵様には3人の根回しをお願いするつもりだった。
けれどそのうちの1人に交渉を断念する疑惑が湧いている。
疑念でなく確信に変われば交渉の手を変える必要があった。
現状を伝え交渉の中断を視野に入れてもらうと伝えなければ。
行き違いにならないように早く連絡しようと考えながら手紙を捲る。
その手が、思わず止まった。
「え……?」
続けて書かれていたのは衝撃の内容だった。
『伯爵をはじめとした一連の事件の犯人たちの処刑が決まった』
その文言に冷たい物が走った。
焦る手で続きを読み進めていく。
『王は伯爵家をはじめとした贋金に携わっていた者たちを死罪にすると決めた。
捕縛したかなり多くの人物がそこに入っている。 子爵もその一人だ』
連なる名前を見て手が震えた。
贋金作りを首謀していた伯爵家のみならず、場所を提供したとみなされた子爵、他にも伯爵家から受け取った金が贋金と知っていて受け取り自身も流通させた者など多数の名前が死罪と決まったと書かれている。
その中には犯した罪に対して罰が重すぎると感じる者もいた。
何よりもおかしいのは……。
早すぎる――。
刑を言い渡すには当然犯した罪を知らなければできない。
侯爵様が捕らえた者たちを引き渡してからまだ数か月。
本来ならもっと時間がかかるはずだ。
充分に審議がされたとは到底思えない。
急いで決めたような、罪の重さを斟酌しない一律の罰。
そこに何らかの作為を感じずにはいられなかった。
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