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四年目 ~冬期休暇 そして春へ~
近い?
しおりを挟む男たちが動けなくなったのを確認し、クリスティーヌ様の側へ走る。
「アラン!」
駆け寄ってきたクリスティーヌ様を抱きしめ、安堵の息を吐く。
「大丈夫ですか?
上手く行ってよかった……」
行き止まりの道に隠れ、クリスティーヌ様に気を取られた男たちを背後から魔法で倒すという急拵えの作戦。
クリスティーヌ様がわかりやすく魔法を使うことで上手く男たちの焦りを誘えたが肝が冷えた。無事で本当に良かった。
ぎゅっと抱きしめると、クリスティーヌ様が震えているのがわかる。
落ち着くまで待ってあげたいけれどここを早く離れないと。
離れましょうと囁き、動けない男たちの横を通り抜け入口に向かって足を速めた。
近づいた入口に人影があることに一瞬警戒し構える。
しかしやって来たのが先ほど襲撃者に吹き飛ばされた護衛であることに気づきほっと胸を撫で下ろす。
護衛と合流すると、負傷したのか腕に布が巻き付けてあった。
大丈夫だという言葉を尊重し、追ってきた者たちをどうしたかに話を移す。
いずれにせよ俺たちでは満足な治療もできない。一刻も早くここから離れた方が良い。
坑道の中で動けなくなっている男たちはどうしようかと考えていると、この鉱山に来た用は済んだのだし一度戻るべきだと護衛から諭される。
今新たな襲撃者が来たら対応できない。一刻も早く拠点に戻るべきだと。
その通りだなと頷き、この場を後にすることにした。
その前に一つクリスティーヌ様にお願いをする。
「クリスティーヌ様、この坑道の入口を崩せますか?
正確に言うと崩すのではなく入口を土砂で埋める感じなんですが」
要は襲撃者たちが出て来れないようにしたいと告げる。
目を瞠って中の人たちはどうするのかと聞くクリスティーヌ様へ一度戻って別に捕縛する者を向かわせると答える。
氷が溶けても入口が塞がっていれば逃げることはできない。
また坑道の土砂を取り除くときに注意が必要にはなるけれど、そこは言い含めておけば大丈夫だろう。
現状俺たちには襲撃者を捕らえて連れて行くことができない。
「それからもう一つ、彼らをここへ向かわせた人物ですが。
彼らが戻って来ず、坑道の入口が崩れて埋まっているのを見たらどう考えると思いますか?」
真剣な目で考えるクリスティーヌ様が口を開く。
「目的がどうあれ失敗したと思うでしょうね。
私たちが逃げおおせたのか一緒に中に閉じ込められたのかわからず不安に駆られるかもしれない」
クリスティーヌ様の予想に肯く。
それでも結局、坑道はそのままにしておかざるを得ないと思うと俺の考えを述べる。
「崩落があったからといって廃鉱を掘っていたら不自然です。
余程のことがない限り彼らのことは無視せざるを得ない」
疑心に駆られても何も手は打てないだろう。
危険を冒しても助けようと考えるとは思えなかった。
「わかったわ、表面だけ薄く覆っておけば良い?」
「そうですね」
他の者が開けられないほど分厚く土が積もっていても困る。
それでお願いしますと伝えると手に指を滑らせたクリスティーヌ様があっという間に入口を塞いだ。
「じゃあ戻りましょうか」
そう俺たちを振り向くクリスティーヌ様。
軽々しくできることじゃないのに、すごいと改めて思う。
護衛の人の怪我が心配だったが手綱は握れると言われそれぞれに馬を駆って拠点まで戻る。
戻る頃には空は白み始めていた。
拠点にしている屋敷に戻るとなぜかレオンがいた。
送った手紙と行き違いになってしまったかとこれまでの経緯を説明する。
丁度全て話し終えたところで護衛人の治療に付き合っていたクリスティーヌ様が戻ってきた。
「クリスティーヌ様、どうでしたか?」
「心配はいらないそうよ、傷も深くはないって。
ただ、しばらくは剣を振ったり負荷をかける行為は禁じられたわ」
ソファの隣に座ったクリスティーヌ様が治療結果を教えてくれる。
大事でないのなら良かった。
安堵の笑みを零すクリスティーヌ様の肩を撫で良かったと呟く。
俺たちを見ていたレオンの視線がなんだか鋭い。
「なんかオマエたち距離が近くないか?」
レオンの言葉にクリスティーヌ様と目を見合わせ同時に首を傾げる。
それを見ていたレオンの眉間の皺がさらに深くなった。気にしすぎじゃないか。
そう思ったが、本人には言えなかった。
あらましを話し終えると鉱山にはレオンが人を連れて向かうと言う。
こちらに来たばかりなのに元気だなと呆れ半分感心半分で頷く。
俺たちは休めと言われ部屋を辞する。
昨夜からずっと起きているからもう眠い。
クリスティーヌ様も同じのようで、目元がとろんとしてきている。
心配なので手を取って部屋まで送るとおやすみなさいと呟いたクリスティーヌ様がふわりと軽い抱擁をし、部屋に入って行く。
……もしかしてレオンが言っていたのはこういうことか。
そう思考が掠めたけれど限界を訴える眠気に紛れてどこかへ行った。
後のことは起きてから考えよう。
そう頭で呟きベッドに倒れ込む。
ふつりと糸が切れるようにそこで意識は途絶えた。
緊迫した状況だったから麻痺していた。
手を取り走ったり、頭を抱えるように抱き寄せたり、震える身体をぎゅっと抱きしめたり。
自然に行っていた触れ合いに頭を抱えたくなったのは目を覚ましてからだった。
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