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四年目 ~冬期休暇 そして春へ~

提案

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 侯爵様から一度戻って来るようにと連絡があったのはレオンが襲撃者たちを回収してから数日後のこと。
 大した情報を持っていなかった襲撃者たちに、回収するだけ無駄だったからそのまま放置しておけばよかったとレオンが冗談なのかわからないことを言っていた。

 頼んでいた裏帳簿の裏付け内容を確認していた俺はその報せに、一度皆で情報のすり合わせをした方がいいとすぐに発つことにした。
 公爵の贋金への関与をはじめ多くの事実が発覚した今、今後の方針を修正する必要があるかもしれない。
 そうなれば先に根回しをした方へも説明がいる。
 臣籍降下したとはいえ王族の重大犯罪への関与。それを知れば各家も王家へ反発を抱く。
 すでに最初の計画では不足だと感じていた。

「しかしお前も休みの度に忙しいな。
 学園にいる間の方が落ち着いてるんじゃないか」

 今後の方向性について考えていた俺にレオンがそんなことを言う。
 確かに夏の間も贋金の調査に走り回っていたし、冬は冬でこうして他所の街まで来て調査をしていた。
 休みらしい休みを取っていないのは事実だ。
 この際に頼んでおくことにする。

「今回のことが落ち着いたら休みが欲しいです」

 全てが上手くいってクリスティーヌ様の隣にいることが許されるようになったら。
 レオンの隣に座るクリスティーヌ様に視線を向け、微笑む。

「そうしたらどこかへ出かけましょう。
 王都のカフェでお茶をするのでも近くの庭園を散歩するのでもいい、あなたと一緒に過ごしたいです」

 あなたの隣で、と告げるとクリスティーヌ様もぱっと顔を輝かせそうしたいと言ってくれた。
 同じ時間を過ごしている今に不満なんてない。
 けれどもっとと願ってしまう。
 馬車の向かいの席、それだけの距離が遠く感じられて。
 もっと近くでその瞳を見つめたい。幸せそうに緩み色を変えていく瞳が恋しい。
 そうクリスティーヌ様を見つめているとはにかむように頬を染めた。可愛い。

「アランお前な……、自重しろよ」

 緊張感が足りないと文句を言われ、もちろんわかってると頷く。
 これからしに行く話を思えばレオンが言うこともわかる。
 レオンには先に話を持って行く方向について話していた。
 聞かされた話に驚きを浮かべ「大それた話だな」と呟いたが、有効性を否定しなかった。
 最終的な判断は侯爵様や他の諸侯が下すだろう。
 けれど、提案を躊躇う気持ちはなかった。

 奪われかけたクリスティーヌ様の隣で過ごせる日々。
 その日を手繰り寄せるために。
 にこりと微笑むとレオンが肩を竦める。
 余計なことはするもんじゃないなと口の端を上げるので笑みを返しておいた。





 侯爵邸に入り馬車を降りる。
 戻ってきた、そう感じるのはこの場所が俺にとっても大事な場所になっているからだろう。
 迎えてくれた侯爵夫妻に挨拶をして中へ入る。

「おかえり、三人とも。
 急に呼び戻してすまない、色々と動きがあったようだから。
 ここで話のすり合わせをしておかないと望む方向性にずれが出てくると思ってね」

 通された部屋で侯爵様がそう話し始める。

「いえ、俺もそう思いました。
 当初の計画では無理がある……、ではないですね。
 不満を持つ方が出てくると思います」

 俺の返事に侯爵様が笑みを見せる。
 まずは報告を聞こうかと告げられ西方で得た情報を話していく。
 公爵領の廃鉱の話については先に報告を読んでいたらしく、あってはならないことだと厳しい態度を見せていた。

「やはり少し修正が必要になるね。
 王族が贋金に関わっていたとあれば、アランの言う通り最初の流れでは納得できない者も多いだろうから」

 侯爵様の言葉に皆同意を示す。
 学友たちと会ってきたレオンも肌でその不満を感じているようだった。

「今回の贋金の件もそうですが、それ以前に王家はずっと自身の責任を果たしていない」

 諸侯の力を上手く使うのも王の役割と言えばそれも間違いではないが、今の王家のやり方はそれを大きく逸脱している。

「そうだね、それは私をはじめ各地の有力貴族はそれを強く感じている」

 侯爵様がすでに根回しを済ませた東方の侯爵も、今回俺たちが果たした役割やその褒賞の話に不快感を露わにしていたという。元々彼の侯爵は先王の時の問題から王家と険悪な関係だ。
 公爵の話を聞けば王家に厳しい処断を求めるかもしれない。

「元からあった不信感に加えて公爵の廃鉱の話です。 王家の責任を問う声が上がるのは想像に難くありません」

 王家の者が犯した罪として裁くのを期待されるがそれに王が応えるとは思えない。
 貴族と王家の対立が激しくなることは諸外国を思えば避けるべきだ。
 しかし、なあなあに済ませられる内容でもない。
 難しい顔をする侯爵様に口を開いた。

「一つ提案があります」

 俺が発した言葉に視線が集まる。
 公爵家の罪を公にし、王家の主導で罰を言い渡しただけでは誰も納得しない。
 そう告げると侯爵様も考えは同じようだった。だからこそ難しいと。
 そこに光がある。

「何も法に則った罰を与えるだけが裁く方法ではありません。
 王の権限を抑えるもしくは奪うことでも、諸侯は納得するでしょう。
 その理由を飲み込む度量は各自お持ちだと考えています」

 曖昧に伏せた提案に侯爵様が訝しげな顔をする。
 王の権限を奪うなど穏やかでない表現だ。

「具体的に、何を考えているんだい?」

 詳細を問う侯爵様へにこりと笑って告げる。
 これが誰もが納得する方法だというように。

「王家を、潰します」

 すでに話をしていたレオンも大それた話と言っていた提案。
 しかし無理だとは思わないし、レオンも否定はしなかった。

 侯爵様は俺の言葉に驚きはしなかった。
 ただどうやって?と興味深そうな目で続きを促す。

「正確に言うと『今の王家を』ですが。
 知っての通り今の貴族と王家の関係が始まったのは何代も前の王の愚行から始まっています。
 そしてその後の王たちも関係を改善するどころか自分たちの権力を取り戻すことに必死で関係は悪化するばかり」

 王家は変わった情勢を認め貴族たちを尊重し協力を求めることだってできた。
 内心は王家の力の復調を求めていたとしても。
 しかしそれどころか敵意を増やす行為を続けている。

「今の王家の下では対立はより深まり国として深刻な結果を招くでしょう」

 王家の態度が変わらないかぎり関係は改善しない。
 それはいずれ国として致命的な混乱を起こしかねない。
 だからこそ変えるなら今しかないと続ける。

「今回の公爵の件を以て王家にはその座から退いてもらいます。
 そのため――」

 詳細を話そうとしたとき、部屋の扉が叩かれた。
 人払いをしている部屋を訪れたのなら重要な話があるのだろうと話を止め扉を開く。
 聞くと俺を訪ねて来ている者がいるという。
 その名を聞いて、笑みを浮かべた。
 侯爵様の許可を取ってこの部屋に連れて来てもらうように伝える。
 彼が来たのなら先に話を聞いた方がいい。
 その方が今後の話により具体性が増すだろうから。
 浮き立つ気持ちで訪れを待っていると誰が来るのかと聞かれる。
 婚約届の件を教えてくれた友人ですと伝えると面白そうな笑みを浮かべた。
 彼に頼み事をしていたのは侯爵様もレオンも知っている。
 どんな話をもたらしてくれるのか。
 彼の持つ結果に心が躍った。


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