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セレスタ 帰還編
甘い時間の作り方 初級編 6
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重厚な扉の前で立ち止まる。
ノックをしようと手を伸ばして、躊躇う。
(本当に入っていいのかな)
マリナが来ることはヴォルフも知っているし、いつでも、本人がいないときでも入っていいとは言われている。
それでもまだ迷ってしまう。
お互いに慣れる時間が必要だ、それは言われなくてもマリナも感じていた。
恋人をすっ飛ばして婚約者にまでなってしまったことにマリナは戸惑ったが、貴族であるヴォルフはこんなものだと思っているのかもしれない。
軽く扉を叩いても返事がなかったので、言われたとおり勝手に開けて入る。
どうやら出かけているらしい。気配が感じられない。
「あれ…」
入ってすぐ目に飛び込んできた物に心が小さく踊る。
マリナの部屋にも置いてある叙任された時に授けられる双翼の紋章。
常に目に入る場所に置くその意味も同じだろう。それがうれしい。
何時如何なる時も双翼であることの誇りを胸に刻み、相応しくあろうと努力する。
自らに課した誓いを意識し、決して道を違えることを許さない。
似ていないマリナとヴォルフだが双翼として抱える想いは同じだった。
与えられた役目について話したことはないけれど見える態度でわかる。
双翼としてのヴォルフなら意識せずに自然でいられるのに、どうしてか上手く接せられない時がある。
「ホントに私でいいのかな…」
普段は口に出さない言葉がぽろりと口から出た。
愛されていないと思っているわけじゃない。
ヴォルフがわかりやすく感情を伝えてくれるからそういった意味での不安はない、ただ…。
自分でも面倒な人間だと思う。
昨日ヴォルフを犬に変えた回数は片手じゃ足りない。
触れ合うことに躊躇うマリナに躊躇なく手を伸ばし、拒否されても変わりなく抱きしめてくれる。
すぐに慣れるのは無理と言った時は怒っていたけど、元の姿に戻したら正面から抱きしめてくれた。
魔力をコントロールするので精一杯で抱きしめ返すことさえできなかったけど、とてもうれしかったのだ。
行動で示すのが無理なら言葉で示せばいいと思っても、それも上手くいかない。
ヴォルフはあんなにストレートに想いを伝えてくれているのに。
なんだか自分が一方的に負担になっている気がする。
自分からも少しだけ近づいてみようと思ったけれど、こうしてすれ違ってしまう。
「何をやっているのかしらね、私は…」
仕方なしにヴォルフの部屋の中を観察する。
マリナの部屋とは造りが大きく違う。
自分以外が入らないことを前提としたマリナの部屋は、入ってすぐに寛ぐ空間があり、右の扉に水回りが、左の扉に本棚がある部屋がそれぞれ繋がっている。
侯爵子息でもあるヴォルフの部屋は誰かをもてなすことも考えて応接スペースが設けられている。
応接室としても使えるこの部屋はあまりその目的では使われていないけれど。
この部屋を設計した人も予想しなかったことだったに違いない。
水回りは同じ位置の様なので、残りの部屋は寝室だろう。
あまり部屋の中を勝手に移動するのも憚られたのでソファに座ってヴォルフを待つことにした。
三人掛けられそうな大きなソファは落ち着かなくて、端っこに座る。
柔らかい背もたれに頭を凭れさせると身体から力が抜けていく。
昨日中々眠れなかったせいか、落ちるように眠ってしまった。
ノックをしようと手を伸ばして、躊躇う。
(本当に入っていいのかな)
マリナが来ることはヴォルフも知っているし、いつでも、本人がいないときでも入っていいとは言われている。
それでもまだ迷ってしまう。
お互いに慣れる時間が必要だ、それは言われなくてもマリナも感じていた。
恋人をすっ飛ばして婚約者にまでなってしまったことにマリナは戸惑ったが、貴族であるヴォルフはこんなものだと思っているのかもしれない。
軽く扉を叩いても返事がなかったので、言われたとおり勝手に開けて入る。
どうやら出かけているらしい。気配が感じられない。
「あれ…」
入ってすぐ目に飛び込んできた物に心が小さく踊る。
マリナの部屋にも置いてある叙任された時に授けられる双翼の紋章。
常に目に入る場所に置くその意味も同じだろう。それがうれしい。
何時如何なる時も双翼であることの誇りを胸に刻み、相応しくあろうと努力する。
自らに課した誓いを意識し、決して道を違えることを許さない。
似ていないマリナとヴォルフだが双翼として抱える想いは同じだった。
与えられた役目について話したことはないけれど見える態度でわかる。
双翼としてのヴォルフなら意識せずに自然でいられるのに、どうしてか上手く接せられない時がある。
「ホントに私でいいのかな…」
普段は口に出さない言葉がぽろりと口から出た。
愛されていないと思っているわけじゃない。
ヴォルフがわかりやすく感情を伝えてくれるからそういった意味での不安はない、ただ…。
自分でも面倒な人間だと思う。
昨日ヴォルフを犬に変えた回数は片手じゃ足りない。
触れ合うことに躊躇うマリナに躊躇なく手を伸ばし、拒否されても変わりなく抱きしめてくれる。
すぐに慣れるのは無理と言った時は怒っていたけど、元の姿に戻したら正面から抱きしめてくれた。
魔力をコントロールするので精一杯で抱きしめ返すことさえできなかったけど、とてもうれしかったのだ。
行動で示すのが無理なら言葉で示せばいいと思っても、それも上手くいかない。
ヴォルフはあんなにストレートに想いを伝えてくれているのに。
なんだか自分が一方的に負担になっている気がする。
自分からも少しだけ近づいてみようと思ったけれど、こうしてすれ違ってしまう。
「何をやっているのかしらね、私は…」
仕方なしにヴォルフの部屋の中を観察する。
マリナの部屋とは造りが大きく違う。
自分以外が入らないことを前提としたマリナの部屋は、入ってすぐに寛ぐ空間があり、右の扉に水回りが、左の扉に本棚がある部屋がそれぞれ繋がっている。
侯爵子息でもあるヴォルフの部屋は誰かをもてなすことも考えて応接スペースが設けられている。
応接室としても使えるこの部屋はあまりその目的では使われていないけれど。
この部屋を設計した人も予想しなかったことだったに違いない。
水回りは同じ位置の様なので、残りの部屋は寝室だろう。
あまり部屋の中を勝手に移動するのも憚られたのでソファに座ってヴォルフを待つことにした。
三人掛けられそうな大きなソファは落ち着かなくて、端っこに座る。
柔らかい背もたれに頭を凭れさせると身体から力が抜けていく。
昨日中々眠れなかったせいか、落ちるように眠ってしまった。
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