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セレスタ 波乱の婚約式編
魔術師たちの騒談
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「そんなわけで結婚式には奴らの度肝を抜くような演出をしたいと思います」
普段使わないようにしている俗で荒っぽい言葉を使って強く想いを表す。
「今更っていうかいつものことじゃん、何をそんなに怒ってるわけ?」
朝からメルヒオールの下に押し掛けて王子の結婚式の演出の方向性について話し合いに来たマリナを面倒そうな顔で見返すメルヒオール。
確かにメルヒオールの言う通りいつものことなんだけど。
「個人的なことですが……、レグルスの事件の際に王子が側にいたことと、友人の身内に手を出したことに腹を立てています」
シャルロッテの従兄弟の件では彼を見直すきっかけにもなったし悪いことばかりではないけれど、それとこれは別だ。
「……王子のことはともかく、本当に個人的なことだね」
メルヒオールもセレスタに属するものらしく王子が巻き込まれかけたことは許容できないようだ。
重々しく頷いておく。
「ええ、力が入ります」
宣言するとメルヒオールが嫌な顔をした。
「それでなんで俺のところにくるわけ?
相談なら師長のところかフィルのところに行きなよ」
「もちろん魔術師長には後で相談に行きます。
しかし貴方の意見を先に聞いてからの方が良い物ができそうな気がしたので、先に話を聞きたいんです」
メルヒオールなら碌でもない意見も含めて色んな発想を持っている。
駄目なものはマリナが取捨選択しながら全体の図を作っていくからいいのだ。
「私としては招待客が危険を覚えるくらい大規模な魔術を見せるというのが一番マールアに畏怖を与えるのに効果的だと思うのですが」
「それも良いけど却って危機感を煽ることになるんじゃない?」
「危険だと感じさせない魔術を行使し、後からその規模に戦かせるというのが良いと思ったんですが、駄目ですか?」
「ああ、それなら悪くない。 範囲としてはどのくらいを考えているんだ」
メルヒオールが乗って来た。
「王都を覆うくらいで考えていたんですが、更に衝撃を与えるために王都周辺を含めるのはどうですか?
国に帰る際にあちらこちらで発動された魔術の話を聞き、これほど広い範囲で魔術を行使できると気が付かせるのはおもしろいですよ」
「どうせならヤツらが顔を引きつらせるところが見たいんだけどな」
流石に他国の馬車に記録の魔道具を付けることは出来ないと残念そうにしている。
珍しくメルヒオールと意見が合った。
魔術で周りに与える影響を考えない困った人だけど、効果や範囲を限定しないならメルヒオールほど柔軟な発想を持っている人はいない。
危険度は考えずどんどん意見を出してほしい。調節はこっちでやる。
一人の魔術師がどれだけの魔術を行使できるかというのも良いと思う。
仮に戦うことになった時に魔術師一人にどれほど痛手を受けるのか、理解してくれたら…。実におもしろい顔をしてくれそうだ。
そんなことを考えていると、不穏な気配を察したのかジグ様が顔を出した。
マリナとメルヒオールが書きつけていた物騒な構想一覧を見て無表情になる。
「なんですか、この王都に雷を落とすとかいう馬鹿げたメモは?」
「師長、ちゃんと結界を張った上でって書いてあるから」
メルヒオールが反論をしかける。
「そんなことを言っているのではないのですよ!!」
ジグ様の雷が落ちた。
黙ってればいいのに、とメルヒオールを見る。
「貴女も貴女です、マリナ!
どうしてメルヒオールの暴走した考えを真面目に書き止めているのですか!?」
矛先がこっちにも向いてきた。
「斬新な意見が聞けるのでいくつかを参考に出来ればと思いまして」
実際にやることを想像して溜飲を下げてました、とか馬鹿正直なことは言わない。
一応まともに聞こえる反論を聞いてジグ様が頭を抱える。
「申し訳ありません、色々な可能性を探っていただけで、そのまま行う気はありません」
ちょっとした悪ふざけです、と謝る。
「貴女が軽はずみなことをしないのはわかっています。
が、王子が絡むと必ずしも冷静ではないことも知っています」
内務卿まで示威行為を勧めているくらいですからね、と首を振りながら疲れた溜息を吐く。
「他の国からも使者が来るのです。 お二人の前途が祝福されていることを表すようなものであることが第一ですよ」
「はい、それはわかっています」
マールアへの示威行動のために殺伐とした結婚式になってしまっては本末転倒だもの。
おふたりと参列した方々、祝福する民衆すべてが幸福感を得られるようなものにしたいと思っている。
そう伝えるとジグ様がさらに項垂れた。
「それをわかっていながら何故このような構想が出てくるのですか……」
多少の恐怖や不安はその先の驚きと感動に繋がると思ったので。
目を泳がせて楽しかったという本音を隠すマリナと正直に話すメルヒオール。
ジグ様はもう一度深く息を吐いて空いた椅子に座った。
「せっかくですから私も聞かせてもらいますよ」
メルヒオールは嬉しそうに目を輝かせる。
マリナは少し残念な気持ちだった。ジグ様相手にメルヒオールに話していたような馬鹿話はできない。
真面目に話を進めることにする。
しかしジグ様からはまだ冷静に成り切れていないと、駄目な案を悉く注意された。
え?マールアの人間だけ気付かれない程度の魔術の檻に閉じ込めて気温よりも不快な暑さを体験してもらうとか駄目でしたか?
メルヒオールはマールアはセレスタよりも気温が高いから寒さを体験してもらう方がいいんじゃないかと言っている。
ジグ様の血管が切れませんように、と祈りながら意見を出し合う。
途中ジグ様も結構過激なことを言っていたのは気が付かなかったことにしておきました。
普段使わないようにしている俗で荒っぽい言葉を使って強く想いを表す。
「今更っていうかいつものことじゃん、何をそんなに怒ってるわけ?」
朝からメルヒオールの下に押し掛けて王子の結婚式の演出の方向性について話し合いに来たマリナを面倒そうな顔で見返すメルヒオール。
確かにメルヒオールの言う通りいつものことなんだけど。
「個人的なことですが……、レグルスの事件の際に王子が側にいたことと、友人の身内に手を出したことに腹を立てています」
シャルロッテの従兄弟の件では彼を見直すきっかけにもなったし悪いことばかりではないけれど、それとこれは別だ。
「……王子のことはともかく、本当に個人的なことだね」
メルヒオールもセレスタに属するものらしく王子が巻き込まれかけたことは許容できないようだ。
重々しく頷いておく。
「ええ、力が入ります」
宣言するとメルヒオールが嫌な顔をした。
「それでなんで俺のところにくるわけ?
相談なら師長のところかフィルのところに行きなよ」
「もちろん魔術師長には後で相談に行きます。
しかし貴方の意見を先に聞いてからの方が良い物ができそうな気がしたので、先に話を聞きたいんです」
メルヒオールなら碌でもない意見も含めて色んな発想を持っている。
駄目なものはマリナが取捨選択しながら全体の図を作っていくからいいのだ。
「私としては招待客が危険を覚えるくらい大規模な魔術を見せるというのが一番マールアに畏怖を与えるのに効果的だと思うのですが」
「それも良いけど却って危機感を煽ることになるんじゃない?」
「危険だと感じさせない魔術を行使し、後からその規模に戦かせるというのが良いと思ったんですが、駄目ですか?」
「ああ、それなら悪くない。 範囲としてはどのくらいを考えているんだ」
メルヒオールが乗って来た。
「王都を覆うくらいで考えていたんですが、更に衝撃を与えるために王都周辺を含めるのはどうですか?
国に帰る際にあちらこちらで発動された魔術の話を聞き、これほど広い範囲で魔術を行使できると気が付かせるのはおもしろいですよ」
「どうせならヤツらが顔を引きつらせるところが見たいんだけどな」
流石に他国の馬車に記録の魔道具を付けることは出来ないと残念そうにしている。
珍しくメルヒオールと意見が合った。
魔術で周りに与える影響を考えない困った人だけど、効果や範囲を限定しないならメルヒオールほど柔軟な発想を持っている人はいない。
危険度は考えずどんどん意見を出してほしい。調節はこっちでやる。
一人の魔術師がどれだけの魔術を行使できるかというのも良いと思う。
仮に戦うことになった時に魔術師一人にどれほど痛手を受けるのか、理解してくれたら…。実におもしろい顔をしてくれそうだ。
そんなことを考えていると、不穏な気配を察したのかジグ様が顔を出した。
マリナとメルヒオールが書きつけていた物騒な構想一覧を見て無表情になる。
「なんですか、この王都に雷を落とすとかいう馬鹿げたメモは?」
「師長、ちゃんと結界を張った上でって書いてあるから」
メルヒオールが反論をしかける。
「そんなことを言っているのではないのですよ!!」
ジグ様の雷が落ちた。
黙ってればいいのに、とメルヒオールを見る。
「貴女も貴女です、マリナ!
どうしてメルヒオールの暴走した考えを真面目に書き止めているのですか!?」
矛先がこっちにも向いてきた。
「斬新な意見が聞けるのでいくつかを参考に出来ればと思いまして」
実際にやることを想像して溜飲を下げてました、とか馬鹿正直なことは言わない。
一応まともに聞こえる反論を聞いてジグ様が頭を抱える。
「申し訳ありません、色々な可能性を探っていただけで、そのまま行う気はありません」
ちょっとした悪ふざけです、と謝る。
「貴女が軽はずみなことをしないのはわかっています。
が、王子が絡むと必ずしも冷静ではないことも知っています」
内務卿まで示威行為を勧めているくらいですからね、と首を振りながら疲れた溜息を吐く。
「他の国からも使者が来るのです。 お二人の前途が祝福されていることを表すようなものであることが第一ですよ」
「はい、それはわかっています」
マールアへの示威行動のために殺伐とした結婚式になってしまっては本末転倒だもの。
おふたりと参列した方々、祝福する民衆すべてが幸福感を得られるようなものにしたいと思っている。
そう伝えるとジグ様がさらに項垂れた。
「それをわかっていながら何故このような構想が出てくるのですか……」
多少の恐怖や不安はその先の驚きと感動に繋がると思ったので。
目を泳がせて楽しかったという本音を隠すマリナと正直に話すメルヒオール。
ジグ様はもう一度深く息を吐いて空いた椅子に座った。
「せっかくですから私も聞かせてもらいますよ」
メルヒオールは嬉しそうに目を輝かせる。
マリナは少し残念な気持ちだった。ジグ様相手にメルヒオールに話していたような馬鹿話はできない。
真面目に話を進めることにする。
しかしジグ様からはまだ冷静に成り切れていないと、駄目な案を悉く注意された。
え?マールアの人間だけ気付かれない程度の魔術の檻に閉じ込めて気温よりも不快な暑さを体験してもらうとか駄目でしたか?
メルヒオールはマールアはセレスタよりも気温が高いから寒さを体験してもらう方がいいんじゃないかと言っている。
ジグ様の血管が切れませんように、と祈りながら意見を出し合う。
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