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最終章

セレスタの魔術 1

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 王宮魔術師が用意されていた魔法陣に魔力を流す。
 光り輝く魔法陣に息を呑む声が聞こえた。
 描かれた魔法陣は緑の光を放っている。
 そこから竜巻が迸った。
 木々を揺らす風が竜巻の威力を物語っている。
 葉っぱどころか枝が折れ飛びそうな暴風に使者や貴族たちは口を開けていた。
 彼らのいる場所には結界が張ってあるので、危険は無い。
 髪が乱れないように風も通さないようなものを張ってあった。
 竜巻を生み出した魔法陣の周りを囲む円から赤い光が迸る。
 ごうっと音がして竜巻が燃え上がった。
 一瞬で火柱に変わった竜巻に畏怖の声が上がる。
 炎を纏った旋風にご婦人や令嬢は手を握りしめ恐れを隠していた。
 火の粉がふわりと風に舞い、姿を変える。
 ひらひらと舞う蝶に姿を変えた火の粉は太陽の光の下でも幻想的だった。
 更に炎の魔法陣を囲むのは水の魔法陣。
 水色の光が空に向かい――、そこから生まれた鳥たちが炎の蝶を消し去った。
 水で形作られた鳥たちが、生きているかのように飛び回る。
 時折ぶつかり、飛沫を散らすと、彼らは融合して一回り大きな鳥となった。
 それを繰り返し、最終的には人と同じくらいの大きさとなった二羽が残る。
 二羽は互いに相手を敵と見定め、威嚇するようにくちばしを大きく開いた。

 順調なのを見て安堵の息を吐く。
 ひとまず出だしは上手くいった。
 魔法陣を用いて王宮魔術師が生み出す魔術の美しさに皆目を奪われている。
 巨鳥が互いを落とそうと爪やくちばしで攻撃を繰り出す。
 三度ほど空中で交差した後、一羽が失速する。
 飛ぶための羽を傷つけられたような動きでふらふらと滑空し、地面に落ちた。
 黄色に光る魔法陣が土を盛り上げ、落ちた一羽を包み込む。
 勝利した一羽は何度か旋回した後、雫となって大地にしみ込んだ。
 大地が水を吸い取るとそこから花が生まれ、庭園一面に広がった。
 次々に魔法陣を起動させていく王宮魔術師を横目で見ながら出番を待つ。
 マリナの出番はまだ先。
 魔力を温存させ、その時を待っていた。
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