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最終章
セレスタの魔術 2
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効果を発揮した魔法陣がゆっくりと地面に解けていく。
落ちる沈黙。
次いで拍手が庭園を満たした。
興奮した様子で口々に王宮魔術師を褒め称える人々に、マリナは薄らと口元を笑ませる。
感嘆するのはまだ早い。
手の平に握りこんだ魔道具の感触を確かめ、一歩踏み出す。
王宮魔術師たちはマリナに場所を譲り、庭園の端に移動する。
庭園に一人立つマリナの姿に、徐々に拍手が鳴り止み静かになっていく。
完全に囁きが止んだその瞬間、マリナは右手を高く上げた。
空に無数の魔力陣が浮かび、明滅を繰り返す。
一定の間隔を保って並ぶ魔力陣はそれだけで美しい。
精緻な文様が魔力の光のみで描かれる様は言葉にできない美しさがある。
魔術を使うための実用的な陣は、複雑に編み上げられた透かし模様のように繊細で、見惚れてしまいそうだ。
余計なことを考えないように意識を集中させる。
魔力陣から火花か雷のような光が生まれ、空を彩る。
小さな魔力陣が光をまき散らす横に新たな魔力陣が生まれ、感嘆の息を漏らす観衆。
花火のような効果の魔力陣が消え去り、わずかな静寂が落ちる。
余韻の残る静寂が消える直前、マリナは大きく魔力を解放した。
迸る魔力に複数の息を呑む音が聞こえる。
『天に光を』
合言葉を通信機に乗せ、空を覆い尽くすような魔力陣を作り出す。
王宮どころか王都すら飲み込む規模の魔力陣に見上げた者たちの表情が凍る。
上空から自分たちを見下ろす魔力陣に騒然とした気配が漂う。
幾人かは魔力陣の文様を見、使われる魔術自体は危険のないものだと安堵しかけ……、暴発の危険に身を硬くした。
また幾人かは魔力陣から生まれる魔術が自分たちに降ってくるのではないかと恐慌に陥る。
冷静な部類の人間は表情を変えず、余裕の笑みを保とうとしていたが、その頬は引き攣っている。
そして大部分の人間は思考が止まってしまったように、ただ魔力陣を見上げるのみだった。
度を越した規格外の魔力陣を保ちつつ、魔力を探る。手の中の魔道具がフィルさん、そしてメルヒオールの居場所を教えてくれる。
彼らの持つ魔道具を目印に、魔力を広げ魔力陣を起動させた。
空一面を覆う魔力陣から光が溢れ、花びらとなって地上に降る。
黄緑と黄色。セレスタの色をした花弁が空に広がり、風に煽られて人々の元へ飛んで行く。
風に乗り、ゆっくりと舞い落ちる花びらは幻想的な美しさを持っていた。
わあっと巻き起こる歓声は、王宮のみならず外からも聞こえる。
王宮、王都、それだけでなく魔力陣の届く範囲すべてに花びらは舞っていた。
『成功。 すごい景色だよ』
『こちらも同様です。 素晴らしい……」
通信機からメルヒオールとフィルさんの声が聞こえる。
二人は王都から離れた場所にいる。
王宮を中心とした大規模魔術。本来一人では到底使えない魔術を可能にしたのはマリナが作り出した魔道具。
魔道具を起点として魔術を放つその魔道具を中継することで、セレスタ全土とまではいかないもののかなりの範囲を含められた。
今日は王子の結婚式で各地で祭が開かれている。
その時に起こった魔術と空から降るセレスタの色をした花びら。
きっと各地でも歓喜の声が上がるだろう。
祝福にこれ以上ふさわしい演出はない。
おふたりの旅立ちを彩る花の祝福の話はセレスタ全土で広まるだろう。
『この花びらがセレスタ全土に届けばよいのですが』
『流石にそれは無理だって。 でも、いつかそんな魔術ができたらいいな』
「ふたりともお疲れ様です」
大役を終えても普段通りの二人に声をかける。
この魔術の為に二人は御前で魔術を披露する役目を辞退してくれた。
メルヒオールはこっちの方が楽しいに決まってると二つ返事だったけれど、フィルさんはどうだったかわからない。
打診したときはすぐに了承してくれたけど、この役目は裏方で目に留まることはない。華々しい場を人に譲ってこちらを選んでくれたフィルさんには当分頭が上がらない。
でもまずは感謝を伝えるよりも喜びを分かち合いたかった。
「やりましたね、大成功です!」
弾んだ声を届けると通信機の向こうからも喜びの声が伝わってきた。
『ええ! 歴史に残る最高の魔術ですよ!』
『こんな使い方が体験できるとは思わなかったよ。 大成功だね』
フィルさんもメルヒオールもそれぞれに興奮している。
無理もない。セレスタ史上でもこんな魔術を使ったのは初めてだ。
自分たちが作り出した魔術の最高の結果に興奮しないわけがない。
そういうマリナも高揚している。
震える手で魔道具を握りしめると一礼して下がる。
立ち去る前に見上げた王子は感動に顔を赤くしていた。
レイフェミア様も国王陛下も喜びを顔一面に表して手を叩いていた。
他国の使者たちの反応も上々だ。危機感よりも感動の方が勝っているのは顔を見ればわかる。
マールアの王子たちの反応も含めて最高の演出ができたと、安堵と喜びと様々な感情が胸一杯に満たされた。
落ちる沈黙。
次いで拍手が庭園を満たした。
興奮した様子で口々に王宮魔術師を褒め称える人々に、マリナは薄らと口元を笑ませる。
感嘆するのはまだ早い。
手の平に握りこんだ魔道具の感触を確かめ、一歩踏み出す。
王宮魔術師たちはマリナに場所を譲り、庭園の端に移動する。
庭園に一人立つマリナの姿に、徐々に拍手が鳴り止み静かになっていく。
完全に囁きが止んだその瞬間、マリナは右手を高く上げた。
空に無数の魔力陣が浮かび、明滅を繰り返す。
一定の間隔を保って並ぶ魔力陣はそれだけで美しい。
精緻な文様が魔力の光のみで描かれる様は言葉にできない美しさがある。
魔術を使うための実用的な陣は、複雑に編み上げられた透かし模様のように繊細で、見惚れてしまいそうだ。
余計なことを考えないように意識を集中させる。
魔力陣から火花か雷のような光が生まれ、空を彩る。
小さな魔力陣が光をまき散らす横に新たな魔力陣が生まれ、感嘆の息を漏らす観衆。
花火のような効果の魔力陣が消え去り、わずかな静寂が落ちる。
余韻の残る静寂が消える直前、マリナは大きく魔力を解放した。
迸る魔力に複数の息を呑む音が聞こえる。
『天に光を』
合言葉を通信機に乗せ、空を覆い尽くすような魔力陣を作り出す。
王宮どころか王都すら飲み込む規模の魔力陣に見上げた者たちの表情が凍る。
上空から自分たちを見下ろす魔力陣に騒然とした気配が漂う。
幾人かは魔力陣の文様を見、使われる魔術自体は危険のないものだと安堵しかけ……、暴発の危険に身を硬くした。
また幾人かは魔力陣から生まれる魔術が自分たちに降ってくるのではないかと恐慌に陥る。
冷静な部類の人間は表情を変えず、余裕の笑みを保とうとしていたが、その頬は引き攣っている。
そして大部分の人間は思考が止まってしまったように、ただ魔力陣を見上げるのみだった。
度を越した規格外の魔力陣を保ちつつ、魔力を探る。手の中の魔道具がフィルさん、そしてメルヒオールの居場所を教えてくれる。
彼らの持つ魔道具を目印に、魔力を広げ魔力陣を起動させた。
空一面を覆う魔力陣から光が溢れ、花びらとなって地上に降る。
黄緑と黄色。セレスタの色をした花弁が空に広がり、風に煽られて人々の元へ飛んで行く。
風に乗り、ゆっくりと舞い落ちる花びらは幻想的な美しさを持っていた。
わあっと巻き起こる歓声は、王宮のみならず外からも聞こえる。
王宮、王都、それだけでなく魔力陣の届く範囲すべてに花びらは舞っていた。
『成功。 すごい景色だよ』
『こちらも同様です。 素晴らしい……」
通信機からメルヒオールとフィルさんの声が聞こえる。
二人は王都から離れた場所にいる。
王宮を中心とした大規模魔術。本来一人では到底使えない魔術を可能にしたのはマリナが作り出した魔道具。
魔道具を起点として魔術を放つその魔道具を中継することで、セレスタ全土とまではいかないもののかなりの範囲を含められた。
今日は王子の結婚式で各地で祭が開かれている。
その時に起こった魔術と空から降るセレスタの色をした花びら。
きっと各地でも歓喜の声が上がるだろう。
祝福にこれ以上ふさわしい演出はない。
おふたりの旅立ちを彩る花の祝福の話はセレスタ全土で広まるだろう。
『この花びらがセレスタ全土に届けばよいのですが』
『流石にそれは無理だって。 でも、いつかそんな魔術ができたらいいな』
「ふたりともお疲れ様です」
大役を終えても普段通りの二人に声をかける。
この魔術の為に二人は御前で魔術を披露する役目を辞退してくれた。
メルヒオールはこっちの方が楽しいに決まってると二つ返事だったけれど、フィルさんはどうだったかわからない。
打診したときはすぐに了承してくれたけど、この役目は裏方で目に留まることはない。華々しい場を人に譲ってこちらを選んでくれたフィルさんには当分頭が上がらない。
でもまずは感謝を伝えるよりも喜びを分かち合いたかった。
「やりましたね、大成功です!」
弾んだ声を届けると通信機の向こうからも喜びの声が伝わってきた。
『ええ! 歴史に残る最高の魔術ですよ!』
『こんな使い方が体験できるとは思わなかったよ。 大成功だね』
フィルさんもメルヒオールもそれぞれに興奮している。
無理もない。セレスタ史上でもこんな魔術を使ったのは初めてだ。
自分たちが作り出した魔術の最高の結果に興奮しないわけがない。
そういうマリナも高揚している。
震える手で魔道具を握りしめると一礼して下がる。
立ち去る前に見上げた王子は感動に顔を赤くしていた。
レイフェミア様も国王陛下も喜びを顔一面に表して手を叩いていた。
他国の使者たちの反応も上々だ。危機感よりも感動の方が勝っているのは顔を見ればわかる。
マールアの王子たちの反応も含めて最高の演出ができたと、安堵と喜びと様々な感情が胸一杯に満たされた。
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