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#4:宿泊研修~準備編
#4-5①.「知る」事は友達の第一歩
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「あれ?マリナちゃん、お買い物?」
朝食を食べたばかりで大してお腹も空いてないのに、昨日とは別の店から漂う甘い香りに「美味しそうだなあ」と通りにあるショーケースを覗き込んでいた時だった。
声を掛けられて振り向けば、「おはよう」とこちらに手を振りながら近付いてくるマシューとドールの姿があった。
「朝食、食べなかったのですか?」
「いえ、そんな事は」
誤解を招いてはいけないと、ドールに少し悲しそうな顔をされ慌ててきっぱり否定した。
食べなかったどころか、ショッピングするためにいつもよりしっかり食べてきた。
昨日お昼を食いっぱぐれ、夕食までかなりお腹が空いてしまったことへの反省点を踏まえてだ。
(マズいわ……この言い方じゃ、お腹も空いていないのにケースに寄ってくる食いしん坊認定されてしまう)
確かに生徒会室では、いつも美味しいお茶とお菓子をたっぷり頂いてしまっている自覚はあるが。
「お腹が空いているとかではなく、いい匂いだなーと思っただけで……」
正直に言わなくてもと思いつつ、つい口を滑らせてしまったがもう遅い。
「マリナちゃんはもっとお肉付けてもいいのにー」
「ひゃあ!」
尻すぼみになるマリナの言い訳を遮るように、マシューに後ろから腰を抱かれ、驚いて変な声が出てしまった。
(恥ずかしい……)
「マシュー、必要以上にマリナにくっつかないで下さい」
「えーこんなに抱き心地いいのにー」
「あの……恥ずかしいので……」
やんわりとそう言うと、マシューは頭の天辺にちゅっと軽いキスを落としてマリナを開放した。
姉が多くスキンシップ過多な先輩は、これが通常運転らしい。大分慣れたけど。
「ところで、さっきも聞いたけど、マリナちゃんお買い物?」
「はい、宿泊研修の用意をしようと思って」
「そうなんだー」
(あれ?わたし達1年生は今日臨時休校だけど、先輩たちもそうだっけ?)
「じゃあねえ、僕たちも付いて行っていい?」
「え?先輩たち、授業は?」
「僕たちのことはいいじゃない、それよりマリナちゃんとお買い物したいなー」
「でも」
「特別にードールがいないと入れないお店も案内してあげるー」
(なにそれ、気になる。ドール先輩が関わってるってなんだろう)
「遠慮はなしですよ」
「ふふ、わかりました。ありがとうございます」
「どこから行こうかなー。マリナちゃん、なに見たい?」
「そうですね……」
考えてる最中にも、どこからか甘い匂いが漂ってきて鼻孔を擽る。
(あ、あのショーウィンドウに飾られてる靴が素敵。うわ、可愛い。ふわふわのぬいぐるみが店頭に並んでる)
あっちへウロウロ。
(あのコーディネート、マルセルに似合いそう。アカデミーじゃ私服を着ることはほとんどないけど、宿泊研修で着てくれないかなー。あの色合いはマルセルの薄茶の髪と合うと思うんだよね)
こっちへフラフラ。
「マリナちゃん、楽しそうだね」
あちらこちらへ移動するマリナに、マシューが笑みを浮かべながら声を掛ける。
(そうだった、わたし今一人じゃないんだった)
「あ、ご、ごめんなさい……」
「いいんですよ。マリナが楽しいなら私たちも楽しいんですから」
「そうだよ、僕たちが勝手に付いて行ってるだけだから気にしないで」
「でも……」
昨日、ヒイロに連れられていたせいで、自分が見たいところが満足に見られなかった鬱憤が溜まっていたのかもしれない。
つい、マシューたちのことを考えずに、思う様ウロウロしてしまっていたことに気付き二人を見ると、わたしに怒るでもなく、逆ににこにこと見守られているような。
「それに……僕たちもマリナちゃんがどんなものに興味があって、どんなものが好きなのか、知ることが出来るいい機会だと思ってるしねー」
「えっと……」
(ふふっと微笑まれながらそんな事を面と向かって言われると、なんだかすごく恥ずかしい事のような……?)
「友達なんだからこれくらい当然でしょ。ね、ドール」
「ええ勿論です」
「そっか……」
(そうだよね、相手の好きなものを知るのは友達なら当然だよね)
そう考えると、マリナはマシューのこともドールのこともあまり知らないなと気付き、わたしももっとお友達のことを知るようにしないと、と思った。
朝食を食べたばかりで大してお腹も空いてないのに、昨日とは別の店から漂う甘い香りに「美味しそうだなあ」と通りにあるショーケースを覗き込んでいた時だった。
声を掛けられて振り向けば、「おはよう」とこちらに手を振りながら近付いてくるマシューとドールの姿があった。
「朝食、食べなかったのですか?」
「いえ、そんな事は」
誤解を招いてはいけないと、ドールに少し悲しそうな顔をされ慌ててきっぱり否定した。
食べなかったどころか、ショッピングするためにいつもよりしっかり食べてきた。
昨日お昼を食いっぱぐれ、夕食までかなりお腹が空いてしまったことへの反省点を踏まえてだ。
(マズいわ……この言い方じゃ、お腹も空いていないのにケースに寄ってくる食いしん坊認定されてしまう)
確かに生徒会室では、いつも美味しいお茶とお菓子をたっぷり頂いてしまっている自覚はあるが。
「お腹が空いているとかではなく、いい匂いだなーと思っただけで……」
正直に言わなくてもと思いつつ、つい口を滑らせてしまったがもう遅い。
「マリナちゃんはもっとお肉付けてもいいのにー」
「ひゃあ!」
尻すぼみになるマリナの言い訳を遮るように、マシューに後ろから腰を抱かれ、驚いて変な声が出てしまった。
(恥ずかしい……)
「マシュー、必要以上にマリナにくっつかないで下さい」
「えーこんなに抱き心地いいのにー」
「あの……恥ずかしいので……」
やんわりとそう言うと、マシューは頭の天辺にちゅっと軽いキスを落としてマリナを開放した。
姉が多くスキンシップ過多な先輩は、これが通常運転らしい。大分慣れたけど。
「ところで、さっきも聞いたけど、マリナちゃんお買い物?」
「はい、宿泊研修の用意をしようと思って」
「そうなんだー」
(あれ?わたし達1年生は今日臨時休校だけど、先輩たちもそうだっけ?)
「じゃあねえ、僕たちも付いて行っていい?」
「え?先輩たち、授業は?」
「僕たちのことはいいじゃない、それよりマリナちゃんとお買い物したいなー」
「でも」
「特別にードールがいないと入れないお店も案内してあげるー」
(なにそれ、気になる。ドール先輩が関わってるってなんだろう)
「遠慮はなしですよ」
「ふふ、わかりました。ありがとうございます」
「どこから行こうかなー。マリナちゃん、なに見たい?」
「そうですね……」
考えてる最中にも、どこからか甘い匂いが漂ってきて鼻孔を擽る。
(あ、あのショーウィンドウに飾られてる靴が素敵。うわ、可愛い。ふわふわのぬいぐるみが店頭に並んでる)
あっちへウロウロ。
(あのコーディネート、マルセルに似合いそう。アカデミーじゃ私服を着ることはほとんどないけど、宿泊研修で着てくれないかなー。あの色合いはマルセルの薄茶の髪と合うと思うんだよね)
こっちへフラフラ。
「マリナちゃん、楽しそうだね」
あちらこちらへ移動するマリナに、マシューが笑みを浮かべながら声を掛ける。
(そうだった、わたし今一人じゃないんだった)
「あ、ご、ごめんなさい……」
「いいんですよ。マリナが楽しいなら私たちも楽しいんですから」
「そうだよ、僕たちが勝手に付いて行ってるだけだから気にしないで」
「でも……」
昨日、ヒイロに連れられていたせいで、自分が見たいところが満足に見られなかった鬱憤が溜まっていたのかもしれない。
つい、マシューたちのことを考えずに、思う様ウロウロしてしまっていたことに気付き二人を見ると、わたしに怒るでもなく、逆ににこにこと見守られているような。
「それに……僕たちもマリナちゃんがどんなものに興味があって、どんなものが好きなのか、知ることが出来るいい機会だと思ってるしねー」
「えっと……」
(ふふっと微笑まれながらそんな事を面と向かって言われると、なんだかすごく恥ずかしい事のような……?)
「友達なんだからこれくらい当然でしょ。ね、ドール」
「ええ勿論です」
「そっか……」
(そうだよね、相手の好きなものを知るのは友達なら当然だよね)
そう考えると、マリナはマシューのこともドールのこともあまり知らないなと気付き、わたしももっとお友達のことを知るようにしないと、と思った。
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