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第三章 際限なき悪意

帝都の死霊魔術師

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「死霊魔導師…………ですか……?」

 何とか、王国と帝国の国境線まで、退避した俺達は、帝国から逃げて来た人々を騎士達に任せて、国境警備隊の宿舎へ訪れていた。

 勇者が皆から聞いた情報を共有するためだ。

 勇者が話した内容だと、帝国王都にいきなり、あの男--------アレクセイが、人や魔物の屍を使って襲撃。

 王都は半壊滅状態。

 何とか、逃げ出せた者達は、家族や友人と散り散りになりながら、その屍達に追われていた。

 さっき、俺が倒したあいつらの事だ。

「まあ、あいつなら、それくらい出来るよねぇ~…………」

 俺は寝台に寝かされながら、そうぼやく。

「死霊魔導師って言うのはぁ~…………?

 言うなればぁ~、死体を用いた従属魔法だねぇ~」

「よく知っていますよね…………」

 感心したように、瞠目する大賢者にある事実をぶち込んだ。

「だってぇ~…………彼を殺したのだしねぇ~」


「「「「っ!?」」」」


 俺の発言で、この場の雰囲気が凍った。


「今、何て言いましたの……?」

「だからぁ~…………私は、あの男------------アレクセイを一度、殺しているんだよねぇ~」

 大賢者の問いに、何気ない感じで答えると、大賢者は難しい顔で口元を覆う。

「それはつまり……………………あの男は一度、あなたに殺されて、生き返った、という事ですか……?」

「そうなりますねぇ~」


「……………………可笑しいですわ…………」


 お…………?

 流石は大賢者様。

 もうに気付いたのか…………。

 勇者と聖女も、僅かに遅かったが、違和感に気付いた。


「何が可笑しいんだ……?」

 だが、予想通りというか、脳筋剣聖様は状況を理解出来ていないらしい。

「あのね…………。

 まず第一に、死者を蘇らせる。

 そんな魔法はこの世界に存在しないのよ」


「死者の魂は、死した後、今、こちらにおられる死と狂気の女神デリヘラ様の管理下に置かれます。


 その際、私達が住む下界とは隔絶され、二度と降り立つ事はありません」

 そんな剣聖に、勇者と聖女が分かるように説明し出した。

 と言っても、その内容では伝わらないとは思う。


「つまり、一度、死んでしまったら、女神様の御力によって、生き返る事が出来ないようになっていますの」

「なるほど…………」


 大賢者の要約で、剣聖も何とか、理解したらしい。

「ん……? なら、何で、こいつが殺した奴が生き返っているんだ……?」

「だから、それが問題だと、言っているのですわ」

 剣聖の発言に、頭を抱える大賢者。

 脳筋の相手は、やはり大賢者も悩みの種の一つらしい。

 大賢者のレベルが一つ上がった!

 いや、レベルが下がった…………というべきかな……?


 まあ、御ふざけはここまでにして…………。


「簡単にいえば、女神様の力すら及ばない方法で、生き返ったのか。

 それとも、アレクセイにのか…………。

 どちらか、という事になります」


「ちなみぃ~、私は後者だと考えているよぉ~」

 聖女の答えに、俺は付け足した。

 そして----------------


「それでねぇ~…………。

 私の可愛い娘ぇ~…………《サキネ》ちゃんに質問でぇ~すぅ~…………」


『私がいつあなたの娘になったのか分かりませんが…………一体、何でしょうか……?』


 聖女の指に嵌められた指輪の本体から声が発せられる。

 私はニヤリと怪しく微笑み、答えた。

「《サキネ》ちゃんは、さっきの男…………に見えた……?」

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