21 / 36
ー 8 -
(8-1) 少しだけ残酷な現実
しおりを挟む
― 8 ―
「やあ、少し見ないうちに随分と大人になったみたいだね」
開口一番冬華さんはそう言って笑って手に持っていた日記帳を布団の中に隠した。
相変わらず4人部屋に独り。カーテンは開かれていてベットの上はなんだか綺麗に片付いている。
贈った日記帳をちゃんと使ってくれている事について触れようかと思ったけど、あまりにもその隠し方が触れてほしくなさそうだったのでそっとしておく。
別に書かれている内容に興味なんてないし。
「てか、……何処行くつもりだったんですか」
珍しくベットから降りている冬華さんはスリッパではなくサンダルに指を通し、少し厚手のカーディガンを羽織っていた。僕が入って来た時の反応なんて、まるで脱走を図ろうとしている囚人のようだ。
「ん……? んぅー……、……きぶんてんかん?」
そう言って冬華さんは軽く上を指さす。――屋上か。
はぁ、と一つため息をつきつつ、前回倒れたのが舞花と一緒にそこに行った後だったことを、この人はもう忘れているらしいと後ろ手で扉を閉める。ようやく三月になり、気温も戻ってきたとは言うけれどそれでも風はまだまだ冷たい。寒い所に行ったからどうという問題でもないのだろうけど、体に良くないのは確かだ。
「寒いのは嫌です」
無駄だとは思うものの個人的な要望を持ち出して抵抗してみる。
「じゃ、ここで待ってればいいさ」
言って冬華さんは軽い足取りで僕の隣をすり抜けた冬華さんは廊下へと踊り出る。
分かっちゃいたけれど何を言ったところで聞いてもらえる訳がなかった。
病室に残された所で目的の人物がいないのでは何をしに来たのか分からない。この先何度着くことになるかもわからないため息を再びこぼし、後を追った。
廊下に顔を出せば僕が来ることを待っていた冬華さんがいて、久しぶりに会ったというのに完全に主導権を持っていかれてしまっている。
ていうか、本当に久しぶりなんだからもっと言う事とかあると思うんだけど、冬華さんはいつも通り、以前と何も変わらない。
それが良いことなのか悪いことなのか。
ワザと以前からこういう風に振舞い続けているのだと思うと息が詰まりそうになる。
「せめて上着ぐらい着てくださいよ」
言って自分のものを脱ぐと肩にかける。いらないと言われるかもしれないけどせめてもの抵抗だった。
しかし冬華さんは思いのほか素直に「あらら、ありがとう?」だなんて両手で襟を掴んで受け入れられてしまう。なんなら「葉流君のぬくもりに感謝ですねぇ」だなんて、なんだかそれはそれでムズムズして、そんな僕のことをすら冬華さんはお見通しのようで、本当にこの人はーー、……扱いづらいなぁって苦笑する。
「なんですかー?」
笑う僕に冬華さんが唇を尖らせる。
「なんでもありませんよ。相変わらずで安心しました」
「どういう意味かは聞かないであげましょーねぇー? そりゃどーもー」
なんだかんだで、冬華さんと話すのは楽しかった。楽しいと思えた。
その事実が、少しだけ残酷だ。
「やあ、少し見ないうちに随分と大人になったみたいだね」
開口一番冬華さんはそう言って笑って手に持っていた日記帳を布団の中に隠した。
相変わらず4人部屋に独り。カーテンは開かれていてベットの上はなんだか綺麗に片付いている。
贈った日記帳をちゃんと使ってくれている事について触れようかと思ったけど、あまりにもその隠し方が触れてほしくなさそうだったのでそっとしておく。
別に書かれている内容に興味なんてないし。
「てか、……何処行くつもりだったんですか」
珍しくベットから降りている冬華さんはスリッパではなくサンダルに指を通し、少し厚手のカーディガンを羽織っていた。僕が入って来た時の反応なんて、まるで脱走を図ろうとしている囚人のようだ。
「ん……? んぅー……、……きぶんてんかん?」
そう言って冬華さんは軽く上を指さす。――屋上か。
はぁ、と一つため息をつきつつ、前回倒れたのが舞花と一緒にそこに行った後だったことを、この人はもう忘れているらしいと後ろ手で扉を閉める。ようやく三月になり、気温も戻ってきたとは言うけれどそれでも風はまだまだ冷たい。寒い所に行ったからどうという問題でもないのだろうけど、体に良くないのは確かだ。
「寒いのは嫌です」
無駄だとは思うものの個人的な要望を持ち出して抵抗してみる。
「じゃ、ここで待ってればいいさ」
言って冬華さんは軽い足取りで僕の隣をすり抜けた冬華さんは廊下へと踊り出る。
分かっちゃいたけれど何を言ったところで聞いてもらえる訳がなかった。
病室に残された所で目的の人物がいないのでは何をしに来たのか分からない。この先何度着くことになるかもわからないため息を再びこぼし、後を追った。
廊下に顔を出せば僕が来ることを待っていた冬華さんがいて、久しぶりに会ったというのに完全に主導権を持っていかれてしまっている。
ていうか、本当に久しぶりなんだからもっと言う事とかあると思うんだけど、冬華さんはいつも通り、以前と何も変わらない。
それが良いことなのか悪いことなのか。
ワザと以前からこういう風に振舞い続けているのだと思うと息が詰まりそうになる。
「せめて上着ぐらい着てくださいよ」
言って自分のものを脱ぐと肩にかける。いらないと言われるかもしれないけどせめてもの抵抗だった。
しかし冬華さんは思いのほか素直に「あらら、ありがとう?」だなんて両手で襟を掴んで受け入れられてしまう。なんなら「葉流君のぬくもりに感謝ですねぇ」だなんて、なんだかそれはそれでムズムズして、そんな僕のことをすら冬華さんはお見通しのようで、本当にこの人はーー、……扱いづらいなぁって苦笑する。
「なんですかー?」
笑う僕に冬華さんが唇を尖らせる。
「なんでもありませんよ。相変わらずで安心しました」
「どういう意味かは聞かないであげましょーねぇー? そりゃどーもー」
なんだかんだで、冬華さんと話すのは楽しかった。楽しいと思えた。
その事実が、少しだけ残酷だ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる