僕の考えた最強ホラー

昭和五十三年、消された記録

この映像資料は、国立民俗文化研究所の倉庫で見つかった。
8ミリフィルムで、ラベルにはこう書かれていた。

『■■県■■村　御贄神事　昭和五十三年記録』
返却厳守　外部持ち出し禁止

映像は、夏祭りの様子から始まる。
赤い幟（のぼり）と、拍子木の音。
画面は古く荒れているが、人々の顔ははっきり映っていた。

ただ、違和感がある。
誰一人として、目を開けていない。

フィルムの後半で、神事の様子が記録されていた。
画面中央に、木製の“柩”のような箱。
周囲を囲む白装束の男女。そして、読経のような唸り声。

やがて、箱の蓋が開けられる。
中から現れたのは――真っ赤な布を巻かれた何か。
人かどうかすら判別できなかった。

次の瞬間、画面が乱れ、音が歪む。

「いけにえは……まだ、見ている……」

その言葉のあと、カメラを構えていた者の首が、コクリと傾いたまま止まった。

映像を調べていた職員が、翌週から行方不明になった。
捜索願が出され、部屋を調べたところ、PCの前に一枚のメモが残されていた。

「映像を巻き戻すな。あの瞬間をもう一度見たら、連れていかれる。
目を閉じていても、見てしまうから」

メモの裏には、黒インクで何かが塗り潰されていた。
赤外線処理で読み取った結果、こう記されていた。

「供物は昭和五十三年から変わらない。見た者が、次になる。
お前の番だ」

この映像、国会図書館の収蔵記録からも消えている。
だが、一部が誰かによってデジタル化され、ネットに流出していた。

再生数は2件。
うち1件は削除済み。
もう1件は――あなたが今、再生しているものだ。

……目、ちゃんと閉じた？