忘却の檻 〜あなたは誰〜

ぐう

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 目が覚めるとレオンハルトの美しい顔が目の前にあった。

「寝てないの?」

「少しうとうとしたけど、あまり寝ていない。寝たらいなくなってしまいそうで。もう絶対手放さない」

 なんだろう。甘い言葉でユリアは嬉しいはずなのに、心に染みない。こう言う甘い言葉を他の女にも言っていそうだ。信用できないなんて寂しい事だ。好きなのに信じられない。

「五年間も夫婦でいて夫婦でなかったのは、マリア嬢に未練があったのか、ほかに好きな人がいたの?」

 レオンハルトが起き上がって、ユリアを抱き上げた。お互い全裸だ。ユリアは慌てて上掛けを自分の身体に巻き付けた。その上掛けをレオンハルトは無理矢理引き剥がして全裸に戻して、自分の身体にぴったり密着させた。

「結婚式と言っても身内だけ、しかもあなたの兄は反対して出席しなかった。そんな結婚式だったけど、ウェディングドレスを着たあなたは綺麗だった。でも始終俯いて目を合わせてくれなかった。あなたに学園でのこと、卒業パーティーのこと謝ってこれから夫婦としてやっていきたいと話すつもりだった。ユリアの待つ夫婦の部屋にすぐ行きたいのに、母にユリアに頼めと金の話ばかりされて口論になって夫婦の部屋に行った時は真夜中だった。当然疲れてたあなたはもう寝ていた。寝ているあなたに手を出すわけにはいけないと隣で寝たのに、朝目が覚めたらあなたは居なかった」

 ユリアを抱きしめる力が強くなる。

「慌てて執事に聞くと、朝早くあなたは領地に旅立ったと言われた。慌てて追おうとしたら母が倒れた」

 レオンハルトがユリアの首に顔を埋めた。

「神経からと医師に言われたから、落ち着かせて領地へ行こうと思っていたが、母が私が王都から離れるのを許さなかった。病気の母を見捨てるのかと言われた。仮病なら手を振り払って領地に行った」

「仮病じゃなかったのね」

「そうだ。だんだん弱って来るので、看病せざる終えない。ユリアのことは気になって手紙は書いた。いつも返事はお気遣いなく。お大事にという簡単な内容だった。母に一度領地に戻ってユリアを連れて来たいと願った」

 レオンハルトは一瞬黙った。

「願ったらどうなったの」

 先を促すとレオンハルトは顔を上げた。

「母は弱って食事も取れないほどだったのに、ユリアはお飾りでいいと言い始めた。持参金が入ったからもうユリアはいらないと。愕然とした。自分の母がこんな人だったなんて。ユリアは母から暴言をかなり吐かれていたようなんだ。お前は所詮お飾りだと。それを聞いて今度こそ母を見捨てて領地に向かおうとしたら、危篤になった」



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