見捨てられた男達

ぐう

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騎士団長令息と伯爵令嬢

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 それからグスタフはレイチェルとの情事に溺れた。第二王子の目を盗んでなので、回数は多くない事にさらに燃えた。

 ある日実家に帰ると嫁いだ姉が大きなお腹で実家に遊びに来ていた。それを見て今更ながら避妊をしていない事に気がついた。
 慌てて学院に戻り、レイチェルに会った。

「レイチェル その…子供は大丈夫なのか?」

「心配してくれてるの?」

「レイチェルとの間に子供は欲しいけど…今は…」

「そうよね。アルベルト様とどっちの子かわからないから」

 レイチェルは俯く。グスタフは慌ててレイチェルを抱きしめる。

「俺はレイチェルの子なら俺の子でなくても可愛がれる。ただまだ学生だから…」

「うん。ありがとう。私の身体を心配してくれるのはグスタフだけよ。でもね。アルベルト様が最初の時から避妊薬を飲み続けろって渡して来たの。王族だから子供は困るって」

 襲われたはずなのになぜ事前に避妊薬を渡されているんだとグスタフは疑問に思ったが、レイチェルに微笑まれて

「私にはグスタフだけよ」

 と言われると聞き出せなかった。

 そんな爛れた月日が過ぎて、グスタフが三学年に上がる時すっかり忘れていた二つ違いの婚約者のマリーが入学する年だと気がついた。もしマリーがレイチェルとの仲に気がついたら困ると強く思った。
 それまではなんとなく第二王子には公爵令嬢と言う婚約者がいるから、卒業までにレイチェルを捨てるだろう。そしたらレイチェルを娶ろうと思っていた。
 なのにマリーに浮気がばれたら困ると思う自分がいる。マリーを愛していた気持ちは無くなってはいない事に気がついた。
 マリーは騎士団で人気だ。自分と婚約解消したらいくらでも代わりになりたい男はいるだろう。
 そんなことはだめだ。清楚で無垢なマリーを抱くのは自分だ。

 それにあの厳しい父親が第二王子の慰み者だったレイチェルを嫡子の妻として迎え入れてくれるだろうか?しかもそれには伯爵令嬢のマリーとの婚約解消が必要だ。騎士団長とは言え貴族としては下位貴族だ。こちらから申し出ることなどできない。

 自惚れているわけではないが、マリーは自分に惚れている。例え今浮気をしていても謝って今後はマリーだけだと誓えば許してくれるはずだ。

 そんな風にマリーの事を考えているから、第二王子の目を盗んでのレイチェルとの密会を断るようになった。断るとレイチェルは執着してきて、行為は段々と淫になって立っての行為や背後からの行為を強請るようになった。


「アルベルト…は…前からしかしないの。もの…足りないの。もっとめちゃくちゃにされたい。あ あ あ~ん グスタフ! 深い グスタフのはおおっきいから そこ気持ち…いい」


 レイチェルが嬌声をあげる。興奮して自分が何を言ってるのかわかってないのだろう。
 今までなら誤魔化されたが、冷静になるとレイチェルには矛盾が多い。だいたいアルベルトとは嫌々だったのではないのか?
 グスタフはレイチェルを疑い蔑むようになった。
 貴族の娘らしくないところが良かったはずなのに娼婦のようになると白けて来たのだ。やはり明るく活発で清楚なマリーがいいと思うようになった。

 グスタフは伯爵家には不義理を重ねた以上会いに行きづらいので、なんとか学院でマリーに会いたいと思った。さすがに女子寮に訪ねて行けない。教室でも見つけることができなくて恋しさが募って来た。

 

 そしてグスタフがレイチェルを見捨てる決定的な事が起きた。


 卒業生の卒業パーティーにエスコートするのは婚約者のみ。まだ婚約者が決まっていないものは親族がエスコートする。
 その卒業パーティーにレイチェルはアルベルトにエスコートしてもらえると思い込み、衣装と装身具の希望を伝えた。アルベルトはエスコートするのは公爵令嬢だと冷たく切り捨てた。レイチェルは私と結婚してくれるのではないかと泣き喚いた。純潔を捧げたのにと。アルベルトはお前は最初から男慣れしていたな。とっくの昔に処女は捨てて来たのだろう。嘘をつくなと言った。私に自分から抱いてくれと迫って来たくせに何を言うと笑った。お前のような女を王子妃にはできない。教養も身分も足りないと突き放した。レイチェルはグスタフ達もいるのに気にもせずアルベルトにすがりつき、結婚してくれと泣き喚いた。


 その茶番劇を目の当たりにして、ああやっぱりなとグスタフは思った。レイチェルはアルベルト狙いだったのだと。それなのになぜ自分と関係を持ったかは疑問だが、淫売なのだろうと思った。確かな証拠はないがもう一人の側近候補とも身体の関係があった筈だ。

 アルベルトともう一人の側近候補が控室から出て行った後レイチェルはグスタフを思い出したようだ。

「グスタフ グスタフは私をエスコートしてくれるんでしょう?この際男爵家でもいいわ。グスタフは上手いし満足させてくれるもの」

 この淫売はなに戯言を言ってるのだろうと思った。

「アルベルト様に捨てられて残念だったな。俺は婚約者のマリーをエスコートするから」

「何ですって!あんなに私を抱いたじゃないの。ちゃんと結婚して頂戴。男爵家でもいいわ」

「あり得ないな」

「あんなに私に夢中だったじゃないの!」

「淫売だと知る前のことだろう」

 言うだけ言うと、マリーに会いに行かねばと急いで馬を走らせた。伯爵家の前で馬を馬丁に任せて、執事にマリーに取り次いでもらえるように頼んだ。

「バーデル男爵令息様 先触れもなく、旦那様の許可もなく、お嬢様にお取り次ぎはできません」

 冷たい声でそう言われた。

「マリーと俺は婚約者だ。二人で会ってもおかしくないだろう」

「これは異な事をお聞きいたしました。マリー様には婚約者はおられません。お引き取り下さい」

 バタンと扉が閉まった。
 何を言われたのだろう。マリーに婚約者がいない?そんなわけはない。自分は婚約を解消した覚えは無いのだ。慌てて実家に戻って父親が居ないか執事に聞いた。そこに母親が出て来て、グスタフに話があると言う。

「マリー様のところにおめおめと行ったんですって?」

 グスタフの母親はマリーを可愛がっていた。よく遊びに来ていたマリーをマリーと呼んでいたはずだ。なぜマリー様などと言うのか。訝しげに思った表情を見て母親は言った。

「マリー様はもうあなたの婚約者じゃない。伯爵家の御令嬢には様をつけないと。我が家は男爵家でしかないのよ」

 なぜと思う気持ちが強い。

「その事ですが、俺は婚約を解消した覚えありません」

「ふふふ なに言ってるの。学院で淫売に捕まって、マリー様の最後のお情けの手を振り払ったと聞いてるわ」

 あの時たしかにマリーが鬱陶しくて、マリーが伸ばした手を振り払った。あれが最後だと誰が予想できよう。グスタフは膝から崩れ落ちた。

「お前が淫売と何をしていたか、陛下から調査書が来ているわ。護衛が護衛対象の慰み者と何をしていたのかとね。親は情けなくて涙も出ない。伯爵家から婚約解消を求められても弁明できなかった。あとでお父様から伝えられるけれど、お前は卒業後は辺境伯の騎士団の見習いに行くのよ。家の後継は弟になったから平民として行くのよ」

 母親はそう言いながら泣いていた。出来が良いと言われた嫡子に裏切られたのが悲しいのだろう。だがグスタフは二度とマリーに会うことができないことの方に絶望し、マリーの明るい快活な声を聴く権利さえ無くなった自分の愚かさを呪った。
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