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見捨てた女達
侯爵令嬢
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カイとは家同士の利害が一致した政略での婚約だった。幼い頃引き合わされて、仲良く遊んだ。そんな幼馴染で婚約者のカイを好きだと自覚したのはいつだったろう。
カイは一見冷たそうだったが、ライラが躓けば手を伸ばしてくれるし、一緒に本を読んで、ライラが理解できてなければ、初歩の本を贈ってくれる。そんな優しさが好きだった。
でもそれは置いてきぼりにせず、一緒に歩いてくれれば、躓いても腕にすがれて転ぶ事はない。理解が出来てないライラと一緒に本を読む行為を嫌がって、自分で初歩まで遡って勉強をしろと言う意味での贈り物。そう言う事だったと今ならわかる。ライラがカイの美点だと捉えていた事は違っていたのだと。
カイに言われた。
「君との結婚は家同士決めたことだ。簡単には解消はできないよ。君とは絶対に結婚するから安心して。学院では弁えて欲しいだけだから」
と言う言葉はライラは積み重ねて来たつもりの愛がカイに取っては政略それだけだったのだ。そんな言い方されて心が冷えない女はいないと思った。
カイに絶対はないのだと思い知らせるにはどうするべきか考えた。
そんな時に伯母の王妃に王城に招かれた。渡されたのはカイが第二王子の愛人と男女の仲になっていることの詳細な報告書だった。
「あなたはどうしたい?これを読むと騎士団長の息子は本気らしいけれど、第二王子は卒業までの遊びで、カイはこの女を愛人にするつもりよ。結婚前から愛人のいる夫と耐え忍んで結婚するかそれとも今婚約を解消するか」
父侯爵に見せる前にライラに見せて意志を確認してくれてるのは、王妃がライラを娘のように可愛がってくれているからだろう。
「カイは私に学院に入学後は弁えろと言いに来ました。どうして愛人に気を使わないといけないのでしょうか」
「そうね。不条理よ」
伯母は伯爵家以上の園遊会で王太子に、見初められた。伯母も一目惚れだった。当時公爵家に王太子にふさわしい年頃の令嬢が三人いた。王家としてはこの三人の中からと言うつもりだったので反対された。それを押し切ったのが王太子だった。伯母も婚姻後に何かと侯爵令嬢程度ではと嫌味を言う周りを跳ね除けるため、公務に励み、王子を二人産んで盤石の地位を築いた人だ。自分で自分の居場所を作った伯母は強い。
「婚約は解消してもらえるように、父に頼みます」
王妃は満足そうに微笑んだ。
「私からも弟と陛下に口添えするわ」
「ありがとうございます。もう一つお願いがあるのですが」
「言ってごらんなさい」
「学院に入学したくありません。学園都市で有名なユール王国に留学して、この国に必要な人間になって帰って来ます」
「賛成よ。女を差別しない国らしいわ。私もこれからのための腹心が欲しいと思っていたわ。勉強して帰ってらっしゃい」
それからすぐ婚約は解消された。宰相も国王からの要望があっては拒否できない。息子のしていることの調査書を渡された宰相は辞任を申し出るほどショックを受けていた。
ライラはユール王国に旅立って行った。
ユール王国は君主制ではあるが、研究機関を持つ学園都市が王都になっている。
女性でも功績を認められれば、長の付く役職に付ける。結婚して子供が生まれても仕事が続けられる。
王妃は女性の地位を上げたい。能力を活用したいと思っている。姪のライラは有望だからバカな男に縛られない様に先兵として旅立たせた。
****
それから十年後
ライラは国立大学を卒業した。高等部を優秀な成績で卒業して教育を専門に選んで学び、人脈を作った。
母国も十年経ったら変化があった。王妃と王太子妃になった公爵令嬢ソフィアとが協力して教育機関を再編成している。
平民も入れる騎士養成学校に女性の入学を認めて女騎士科を作った。また騎士養成学校に戦術科を設けて三年の養成学校を経て二年戦術科に進める様にした。上に立つものは剣の腕だけでなく戦略も大切なためだ。
王立学院も貴族のみの入学で成績が振るわない者も多い。しかし平民の入学を許可するのも頭の古いものの反対に合う。
それならいっそのこと新しく五年制の学校を作ることにした。貴族でも平民でも入学可だが、入学試験が大変難しい。優秀な成績のものには国から奨学金が出る。まだまだ改善する余地もたくさんあるが、ライラがあちらで知り合った教授を何人もスカウトして送ってくれたので、教える人材には恵まれている。
そしてライラもユール王国で知りあって共に学んだ男性と結婚して帰って来た。彼とライラは学校で教壇に立つ予定だ。
「ライラお帰りなさい!」
「王妃様 新しい学校に早速見学に行ってきました」
「早いわね。それにしても結婚相手も見つけてくるとは思わなかったわ。紹介して」
ライラの横には長身の穏やかそうな男性が立っている。その男性が進み出る。
「はじめまして。ユール王国の第五王子のライナーです。こちらの国に移住するにあたり王位継承権は放棄して来ました」
「まさか王子をスカウトしてくるとは思わなかったわ」
「ユール王国では王子と言っても学ぶ仲間ですから。それに私は王位から遠いので元々学問で身を立てるつもりでした」
「この国はまだまだ身分にうるさいの。要らないでしょうが爵位を受け取って貰える?教壇に立って、その後は二人に学校を任せたいから身分は必要なの」
ライナーとライラは顔を見合わせて苦笑した。
「はい。お受けします。新しい教育機関を作るなんてわくわくします!」
ライラは満面の笑みをたたえた。
「そういえばソフィア様は?」
「ソフィアは三人目の出産後で休養中なの。ソフィアを働かせすぎだってオスカーがうるさいから休養は長めに取ってもらってるわ。男・女・男だから今度の子がブランデンブルク公爵家を継ぐことになると思うわ」
「お幸せそうでよかった」
「そうね。あの時の被害者達はみんな幸せになってるわ。伯爵令嬢のマリー嬢はルドルフが騎士団の副団長から団長になって男爵を陞爵して仲良くやってるし、商会の後継と結婚した子爵令嬢のマルガ嬢もすっかり有能な商人の妻になって王城にも商品を納めに来るわ」
「見捨てて全て良しと言うことですね」
ライラが明るくライナーと見つめ合いながら言った。
カイは一見冷たそうだったが、ライラが躓けば手を伸ばしてくれるし、一緒に本を読んで、ライラが理解できてなければ、初歩の本を贈ってくれる。そんな優しさが好きだった。
でもそれは置いてきぼりにせず、一緒に歩いてくれれば、躓いても腕にすがれて転ぶ事はない。理解が出来てないライラと一緒に本を読む行為を嫌がって、自分で初歩まで遡って勉強をしろと言う意味での贈り物。そう言う事だったと今ならわかる。ライラがカイの美点だと捉えていた事は違っていたのだと。
カイに言われた。
「君との結婚は家同士決めたことだ。簡単には解消はできないよ。君とは絶対に結婚するから安心して。学院では弁えて欲しいだけだから」
と言う言葉はライラは積み重ねて来たつもりの愛がカイに取っては政略それだけだったのだ。そんな言い方されて心が冷えない女はいないと思った。
カイに絶対はないのだと思い知らせるにはどうするべきか考えた。
そんな時に伯母の王妃に王城に招かれた。渡されたのはカイが第二王子の愛人と男女の仲になっていることの詳細な報告書だった。
「あなたはどうしたい?これを読むと騎士団長の息子は本気らしいけれど、第二王子は卒業までの遊びで、カイはこの女を愛人にするつもりよ。結婚前から愛人のいる夫と耐え忍んで結婚するかそれとも今婚約を解消するか」
父侯爵に見せる前にライラに見せて意志を確認してくれてるのは、王妃がライラを娘のように可愛がってくれているからだろう。
「カイは私に学院に入学後は弁えろと言いに来ました。どうして愛人に気を使わないといけないのでしょうか」
「そうね。不条理よ」
伯母は伯爵家以上の園遊会で王太子に、見初められた。伯母も一目惚れだった。当時公爵家に王太子にふさわしい年頃の令嬢が三人いた。王家としてはこの三人の中からと言うつもりだったので反対された。それを押し切ったのが王太子だった。伯母も婚姻後に何かと侯爵令嬢程度ではと嫌味を言う周りを跳ね除けるため、公務に励み、王子を二人産んで盤石の地位を築いた人だ。自分で自分の居場所を作った伯母は強い。
「婚約は解消してもらえるように、父に頼みます」
王妃は満足そうに微笑んだ。
「私からも弟と陛下に口添えするわ」
「ありがとうございます。もう一つお願いがあるのですが」
「言ってごらんなさい」
「学院に入学したくありません。学園都市で有名なユール王国に留学して、この国に必要な人間になって帰って来ます」
「賛成よ。女を差別しない国らしいわ。私もこれからのための腹心が欲しいと思っていたわ。勉強して帰ってらっしゃい」
それからすぐ婚約は解消された。宰相も国王からの要望があっては拒否できない。息子のしていることの調査書を渡された宰相は辞任を申し出るほどショックを受けていた。
ライラはユール王国に旅立って行った。
ユール王国は君主制ではあるが、研究機関を持つ学園都市が王都になっている。
女性でも功績を認められれば、長の付く役職に付ける。結婚して子供が生まれても仕事が続けられる。
王妃は女性の地位を上げたい。能力を活用したいと思っている。姪のライラは有望だからバカな男に縛られない様に先兵として旅立たせた。
****
それから十年後
ライラは国立大学を卒業した。高等部を優秀な成績で卒業して教育を専門に選んで学び、人脈を作った。
母国も十年経ったら変化があった。王妃と王太子妃になった公爵令嬢ソフィアとが協力して教育機関を再編成している。
平民も入れる騎士養成学校に女性の入学を認めて女騎士科を作った。また騎士養成学校に戦術科を設けて三年の養成学校を経て二年戦術科に進める様にした。上に立つものは剣の腕だけでなく戦略も大切なためだ。
王立学院も貴族のみの入学で成績が振るわない者も多い。しかし平民の入学を許可するのも頭の古いものの反対に合う。
それならいっそのこと新しく五年制の学校を作ることにした。貴族でも平民でも入学可だが、入学試験が大変難しい。優秀な成績のものには国から奨学金が出る。まだまだ改善する余地もたくさんあるが、ライラがあちらで知り合った教授を何人もスカウトして送ってくれたので、教える人材には恵まれている。
そしてライラもユール王国で知りあって共に学んだ男性と結婚して帰って来た。彼とライラは学校で教壇に立つ予定だ。
「ライラお帰りなさい!」
「王妃様 新しい学校に早速見学に行ってきました」
「早いわね。それにしても結婚相手も見つけてくるとは思わなかったわ。紹介して」
ライラの横には長身の穏やかそうな男性が立っている。その男性が進み出る。
「はじめまして。ユール王国の第五王子のライナーです。こちらの国に移住するにあたり王位継承権は放棄して来ました」
「まさか王子をスカウトしてくるとは思わなかったわ」
「ユール王国では王子と言っても学ぶ仲間ですから。それに私は王位から遠いので元々学問で身を立てるつもりでした」
「この国はまだまだ身分にうるさいの。要らないでしょうが爵位を受け取って貰える?教壇に立って、その後は二人に学校を任せたいから身分は必要なの」
ライナーとライラは顔を見合わせて苦笑した。
「はい。お受けします。新しい教育機関を作るなんてわくわくします!」
ライラは満面の笑みをたたえた。
「そういえばソフィア様は?」
「ソフィアは三人目の出産後で休養中なの。ソフィアを働かせすぎだってオスカーがうるさいから休養は長めに取ってもらってるわ。男・女・男だから今度の子がブランデンブルク公爵家を継ぐことになると思うわ」
「お幸せそうでよかった」
「そうね。あの時の被害者達はみんな幸せになってるわ。伯爵令嬢のマリー嬢はルドルフが騎士団の副団長から団長になって男爵を陞爵して仲良くやってるし、商会の後継と結婚した子爵令嬢のマルガ嬢もすっかり有能な商人の妻になって王城にも商品を納めに来るわ」
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