見捨てられた男達

ぐう

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間違えた男達

ウィル

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 ウィルがレイチェルを初めて見たのは市場の春祭りの会場だった。
 春祭りで広場に花びらを撒かせるために市場に勤めている人の子供達を集めてた。
 集めた子供達の中で一番目を引くのはレイチェルだった。艶やかな赤毛をリボンで結び、簡素だけれど清潔なワンピースに身を包み嬉しそうに、花びらの籠を抱きしめていた。同じ市場で働く人の子供達と春祭りで出る山車に乗る女神役に対する憧れを話していた。

 そんなレイチェルをじっと見ていると、ウィルの腕を掴む人間がいた。ハッとして振り返ると金物屋のサラがレイチェル達よりずっと高級そうなワンピースを着て、ガラス細工の髪飾りをつけていた。

「ねぇ ウィル どう?これ似合う?」

「さあ 俺はそう言うのはわからないから」

「もう せっかくウィルに見せるために父さんに強請ったのにぃ」

「ところでさ あそこで集まってる子達見なれないけれど知ってるか?」

 ウィルが指差す先のレイチェル達をサラはちらりと見た。

「ああ あの子達 日雇いの娘よ。みんな貧乏だからあんな格好しかできないのよ。花びらを撒くとお菓子とお駄賃をもらえるから集まって来てるのよ」

「貧乏?」

 確かにサラより簡素な格好で髪飾りもリボンだけだけれども、誰よりも輝いてる。そう思ったウィルはレイチェルに近づいて行った。

「ちょっと ねぇ ウィルどこ行くの!」

 サラが後ろでヒステリックに喚いてるけれど無視をした。その日ウィルから話しかけられて、市場の日雇い労働者の娘のレイチェルは花の卸売りの店の跡取りのウィルと顔見知りになった。

 ウィルは花の卸売りの店の子供だから読み書き計算を教えてくれる私塾に通っていた。サラも同じ様に通っていた。私塾の塾長さんは元は貴族に仕えていたとかで結構厳しいから宿題がよく出る。空き時間に市場の片隅で果物の木箱の上で計算問題をしていたら、ノートに影がさした。顔を上げるとレイチェルがいた。
 レイチェル達は私塾に行く余裕もなく親が少しでも教養があったら教えるが無かったら無学なままだ。

「ウィル 私花売りをしたいの。計算ができないと困るから足し算引き算教えてくれないかな?でもノートも持ってないから地面に書いて教えてくれない?」

 レイチェル達は少しでも家計を助けようと早くから働き始める。ウィルももうそれを知っているので、レイチェルの気持ちに打たれて空いた時間にレイチェルに計算を教え始めた。レイチェルは飲み込みがいいので、すぐに覚えて暗算ができるようになった。

「花一つ5ペソで10ペソ硬貨渡されたらいくらお釣りだ?」

「5ペソよ」

「じゃあ三つ買ってくれたらいくらだ?」

「15ペソよ」

「よし 花売りにはそれぐらいできたら十分だよ」

「ありがとう!」

 レイチェルに抱きつかれたウィルはレイチェルから匂う甘い匂いにくらくらした。
 ウィルは自分がレイチェルに恋をしていることを自覚した。
 ウィルがレイチェルに打ち明けようとしたある日市場で荷崩れの事故が起きてレイチェルの父親が亡くなった。日雇いの労働者には見舞金しか出ない。レイチェルは家計の助けではなく、病がちな母親を抱えて大黒柱になるしかなかった。

 レイチェルは身体の具合がいい時に母親も一緒に花売りを始めた。古くて汚いアパートでも女二人の花売りの稼ぎでは家賃ですら大変だ。周りの大人達は母親のアンもレイチェルもこの辺ではちょっと見ないほど綺麗だから売春すればいいのにと笑っていた。
 ウィルは周りの大人達が許せなかった。レイチェルが誰かのものになる前になんとかしなければと思いプロポーズをした。


「昔から好きだったんだ。俺は今十七だけど、頑張って親父の店継ぐから。おばさんも面倒見るから安心して」

 真剣にそう思っていた。レイチェルが他の男に取られる前に自分のものにしたかった。そしてレイチェルは断らないとわかっていた。今のレイチェルにはウィルしかいないのだから、ウィルに求められたら大人しく身体を任すだろうと。

 レイチェルの身体はどこもかしこも柔らかくいい匂いがした。流石に結婚前に子供は不味いと思い避妊薬を飲ませた。時間を作ってはレイチェルを休憩所に連れ込んでいた。
 レイチェルに渡す薬代に休憩所の使用料、レイチェルとのデート代はまだ店では見習いで跡取りとは言え手持ち金では賄えず、店の売り上げに手を出してしまった。父親に改めて呼ばれたときにはばれたと覚悟した。
 なんとか謝ってレイチェルを嫁に貰えるように頼み込もうと思っていた。

「ウィル ゴルド花園からお嬢さんとの婚約の申し出があったので受けたから」

「ちょ ちょっと待ってくれ。親父 いきなりなんなんだ」

「ゴルド花園のカミラお嬢さんだ。お前も会ったことあるだろう?カミラさんがお前と結婚したいと言ってくれているんだ。ゴルド花園ではこの婚姻を受けてくれるなら、卸の代金を割引いてくれ、引く手数多の開発した花を優先的に回してくれると言うのだ。こんなにいい条件はないぞ」

「親父!俺は好きな子がいてもう結婚の約束もしてあるんだ」

「レイチェルか お前がレイチェルに貢いだ金をレイチェルが返せるなら考えてやってもいいけれど、花売りには無理だな。カミラお嬢さんが王都に観光に来るそうだ。丁重に扱えよ」

 父親には全てばれていた。貢いだ金を返せるわけがない。なんとかレイチェルと結ばれる手はないかと思いながら、王都にやって来たカミラを王都の街を案内をした。
 カミラは容姿はレイチェルには及ばない。平凡で大人しめな印象だった。もうウィルと婚約は決まったと思っていて、ウィルに対して押しは強かった。だんだん外堀を埋められて、もう婚約どころか結婚も決まった様に扱われて焦っていたある日サラがやって来た。

「ウィル レイチェル親娘が夜逃げしたって。でも借金があった訳じゃないから夜逃げじゃないかなぁ」

「どう言うことだ」

 気色ばんでサラに詰め寄ると

「どうってそのままよ。ウィルが心変わりしてお嬢さんに乗り換えたって教えてあげたらいなくなったのよ。みんな娼館に身売りしたんじゃないかって言ってる」

 慌ててレイチェルのアパートに飛んで行った。既に誰か知らない人が住んでいて、ウィルの顔を見て訝しげにドアを乱暴に閉めた。


 その後のことはもう決められてしまい逆らえず、逆らおうとしないでカミラと結婚した。
 結婚したらカミラが豹変した。控えめだと思っていたのに、王都にいるんだからと遊び歩き店の手伝いや店の女主人としての修行も一切しなかった。苦情を言うと実家からの援助を打ち切られたいのかとおどす始末。
 この結婚の申し込みは田舎に置いておくと悪評しか立たない娘を惚れたと娘が騒ぐから取引先の息子にこれ幸いと押し付けたのが真相だった。
 店はカミラの実家からの好条件でうまく行っているがウィルの結婚生活は真っ暗だった。カミラはもう本性を隠しもせずに役者に入れ込んで家に引き込む事もしていた。

 ウィルとの身体の関係も新婚時代にあっただけだ。

「あなたってワンパターンよね。結婚前に遊んでたと聞いたから期待したのに」

 カミラは田舎で遊び歩いてとっくに処女ではなかったのだ。

 ウィルはどこで間違ってしまったのか考えても考えてもわからなかかった。

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