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間違えた男達
フリッツ
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「フリッツ何か言い訳はあるか」
「あなた、そんなにきつい言い方しなくても」
フリッツは今長期休みの帰省で自領に戻ってきている。戻って荷物を解く間も無く両親に呼び出されて詰問されている。父は厳しいが母は優しいので母もいるのを確認して、ホッとした。母ならごまかせるだろう。
「フリッツ!この婚約はお前が是非にと強請るから結んだ縁だ。それをお前の不貞で格下の男爵家から解消を求められるなんて我が家の恥だ!」
「まあ フリッツ 座りなさい。話は長くなりそうよ」
怒鳴る父の腕を押さえて、母がフリッツに着席を勧めてくれた。やはり母がいればレイチェルの醜聞を誤魔化せる。マルガと婚約を解消してすぐに学院中に広がった第二王子とレイチェルの醜聞を親に知られたくなかった。あんな女に夢中になってマルガに婚約破棄を告げたなどと知られたくないのだ。
「フリッツ お前の不貞のせいで男爵家に慰謝料を支払った。これについて何か弁明はあるのかと聞いている」
父にギロリと睨まれた。どちらかと言うと熱血の父より穏やかで優しい母に似たフリッツは父の怒鳴り声が苦手だった。それでも男爵家に慰謝料を支払らわさせて父に損害を与えたのだ。弁明をしないわけにはいかない。
「他の女性と必要以上に親しくしてマルガに誤解を与えた事は認めます。ですが同級生としての一線は越えておりません。噂を真に受けたマルガと拗れたので男爵に訴えたのだと思います」
「という事はその女生徒とあなたの噂が学院であったと言うことね」
フリッツは母から問い詰められると思っていなかったので驚きつつ答えた。
「そうです。不本意ですが妙に勘ぐる輩が多いと言うことです。真相は勉学に遅れがあって困っていた同級生に手を差し伸べただけです。それをマルガが誤解したのです。
「あら だったらなぜあなたからも婚約を破棄してくれって手紙が来たの?マルガと上手く行ってたら誤解は言葉を尽くせば解けるでしょう?それもしないでいきなり手紙でマルガと婚約破棄したいと言ってくるのはおかしいわ。お父様が詳しく調べないで婚約破棄に応じたのは、あなたのたっての願いだからよ。私はちゃんと調べてからと言ったのよ。本当にお父様はあなたに甘い」
父がフリッツに甘いなどと思ってみたことも無かったが、確かに強く強請ってかなわなかった事はなかった。それにしてもこの件についてはなぜ母はこんなにこだわるのかわからなかった。
「認めなさい。フリッツ あなたはその女生徒に心を移したと言うことを」
「お母様 そんな事はありません。マルガが誤解して……」
母は手に持っていた紙をばさりとテーブルに投げた。淑女の誉高き母にしては珍しい所作だった。
「恥を忍んで学院に子供がいるお友達に聞いてもらえるように頼んで情報集めたわ」
フリッツの顔色がさっと悪くなった。
「レイチェル・ヒューゲルト子爵令嬢 元平民 あなたと図書館で知り合ってマルガを置き去りにして休み時間や放課後は二人でずっと過ごしていたそうね。マルガがどう思うか考えなかったのね。マルガと婚約破棄してこの女と婚約したかったみたいだけれど、この女には本命がいたみたいね」
そこまで知っているなんてとフリッツは自分が不利な事を悟った。
「あなたは私の血が入ってるから誠実だと思っていたけれど、やっぱりお父様の子ね。がっかりだわ」
母が吐き捨てるように言って出て行った。残された父が誤魔化すように咳払いをした。
「……とにかくお前の信用は無くなった。これからお前の婚約者を探すがお前の拒否権はない。家の都合のいい相手を探すから。これからは軽い女の誘いに乗るなよ。無くして初めて手元にあったものの大事さがわかるのだ」
マルガを手放して初めてマルガの有り難みが身にしみているフリッツには染みる言葉だった。
マルガのいない長期休暇は空虚でつまらなかった。それに母がフリッツに冷たいのも堪えた。
マルガとのウィットに富んだ会話が懐かしかった。マルガの優しい眼差しが好きだった。あって当たり前だったので有り難みを感じていなかったのだ。
****
学院に戻って来ると、レイチェルと第二王子の姿をよく見るようになったが、あんな女に騙されたと言う苦々しさだけで、レイチェルに対する恋慕はすでになかった。
マルガも同級生なので、姿はよく見かけた。フリッツを見るとそれとなく方向を変えて去って行ってしまい、マルガに近づく事はできなかった。
マルガはレイチェルに婚約者を取られたとひそひそと噂されているけれどいつも真っ直ぐ前を見て噂話など気にしていないようだった。また人望のあるマルガはいつも仲の良い女生徒に囲まれて悪意から守られているようでもあった。
父はフリッツの新しい婚約者を探しているようだったが、レイチェルが第二王子の愛人になってからは、そんな女に騙されて婚約破棄した馬鹿者として有名になっていたから受けてくれる家は簡単に見つからなかった。
針の筵の一年が過ぎて卒業パーティーの時期になったが、フリッツはまだ婚約者がいなかった。姉に頼んだが
「笑い者になりたくない」
と断られた。そのため母が渋々エスコートを受けてくれることになった。
卒業パーティーの当日。見知らぬ背の高い生徒達より年長の男性にエスコートされるマルガを見つけた。マルガには婚約者がいないはずだったから、親戚に頼んだのだろうかと思った。
「あら マルガ嬢 綺麗になったわね。あのドレスと髪飾りと首飾り全てあの男性の色ね。マルガ嬢は婚約者ができたのね」
母がお互い見つめ合い微笑むマルガのカップルを見ながらそう言った。
「親戚のものでしょう!」
つい強い言葉になってしまったが、母は馬鹿にしたように笑った。
「あの男性の色を纏い、美しくなったマルガ嬢をよく見なさい」
ショックを受けているフリッツを見て母はさらに言った。
「与えて貰った愛情にあぐらをかいた結果よ」
あんな事があったけれど、マルガはいつか許してくれるような気がしていたフリッツは己の間違いにようやく気が付いた。
「あなた、そんなにきつい言い方しなくても」
フリッツは今長期休みの帰省で自領に戻ってきている。戻って荷物を解く間も無く両親に呼び出されて詰問されている。父は厳しいが母は優しいので母もいるのを確認して、ホッとした。母ならごまかせるだろう。
「フリッツ!この婚約はお前が是非にと強請るから結んだ縁だ。それをお前の不貞で格下の男爵家から解消を求められるなんて我が家の恥だ!」
「まあ フリッツ 座りなさい。話は長くなりそうよ」
怒鳴る父の腕を押さえて、母がフリッツに着席を勧めてくれた。やはり母がいればレイチェルの醜聞を誤魔化せる。マルガと婚約を解消してすぐに学院中に広がった第二王子とレイチェルの醜聞を親に知られたくなかった。あんな女に夢中になってマルガに婚約破棄を告げたなどと知られたくないのだ。
「フリッツ お前の不貞のせいで男爵家に慰謝料を支払った。これについて何か弁明はあるのかと聞いている」
父にギロリと睨まれた。どちらかと言うと熱血の父より穏やかで優しい母に似たフリッツは父の怒鳴り声が苦手だった。それでも男爵家に慰謝料を支払らわさせて父に損害を与えたのだ。弁明をしないわけにはいかない。
「他の女性と必要以上に親しくしてマルガに誤解を与えた事は認めます。ですが同級生としての一線は越えておりません。噂を真に受けたマルガと拗れたので男爵に訴えたのだと思います」
「という事はその女生徒とあなたの噂が学院であったと言うことね」
フリッツは母から問い詰められると思っていなかったので驚きつつ答えた。
「そうです。不本意ですが妙に勘ぐる輩が多いと言うことです。真相は勉学に遅れがあって困っていた同級生に手を差し伸べただけです。それをマルガが誤解したのです。
「あら だったらなぜあなたからも婚約を破棄してくれって手紙が来たの?マルガと上手く行ってたら誤解は言葉を尽くせば解けるでしょう?それもしないでいきなり手紙でマルガと婚約破棄したいと言ってくるのはおかしいわ。お父様が詳しく調べないで婚約破棄に応じたのは、あなたのたっての願いだからよ。私はちゃんと調べてからと言ったのよ。本当にお父様はあなたに甘い」
父がフリッツに甘いなどと思ってみたことも無かったが、確かに強く強請ってかなわなかった事はなかった。それにしてもこの件についてはなぜ母はこんなにこだわるのかわからなかった。
「認めなさい。フリッツ あなたはその女生徒に心を移したと言うことを」
「お母様 そんな事はありません。マルガが誤解して……」
母は手に持っていた紙をばさりとテーブルに投げた。淑女の誉高き母にしては珍しい所作だった。
「恥を忍んで学院に子供がいるお友達に聞いてもらえるように頼んで情報集めたわ」
フリッツの顔色がさっと悪くなった。
「レイチェル・ヒューゲルト子爵令嬢 元平民 あなたと図書館で知り合ってマルガを置き去りにして休み時間や放課後は二人でずっと過ごしていたそうね。マルガがどう思うか考えなかったのね。マルガと婚約破棄してこの女と婚約したかったみたいだけれど、この女には本命がいたみたいね」
そこまで知っているなんてとフリッツは自分が不利な事を悟った。
「あなたは私の血が入ってるから誠実だと思っていたけれど、やっぱりお父様の子ね。がっかりだわ」
母が吐き捨てるように言って出て行った。残された父が誤魔化すように咳払いをした。
「……とにかくお前の信用は無くなった。これからお前の婚約者を探すがお前の拒否権はない。家の都合のいい相手を探すから。これからは軽い女の誘いに乗るなよ。無くして初めて手元にあったものの大事さがわかるのだ」
マルガを手放して初めてマルガの有り難みが身にしみているフリッツには染みる言葉だった。
マルガのいない長期休暇は空虚でつまらなかった。それに母がフリッツに冷たいのも堪えた。
マルガとのウィットに富んだ会話が懐かしかった。マルガの優しい眼差しが好きだった。あって当たり前だったので有り難みを感じていなかったのだ。
****
学院に戻って来ると、レイチェルと第二王子の姿をよく見るようになったが、あんな女に騙されたと言う苦々しさだけで、レイチェルに対する恋慕はすでになかった。
マルガも同級生なので、姿はよく見かけた。フリッツを見るとそれとなく方向を変えて去って行ってしまい、マルガに近づく事はできなかった。
マルガはレイチェルに婚約者を取られたとひそひそと噂されているけれどいつも真っ直ぐ前を見て噂話など気にしていないようだった。また人望のあるマルガはいつも仲の良い女生徒に囲まれて悪意から守られているようでもあった。
父はフリッツの新しい婚約者を探しているようだったが、レイチェルが第二王子の愛人になってからは、そんな女に騙されて婚約破棄した馬鹿者として有名になっていたから受けてくれる家は簡単に見つからなかった。
針の筵の一年が過ぎて卒業パーティーの時期になったが、フリッツはまだ婚約者がいなかった。姉に頼んだが
「笑い者になりたくない」
と断られた。そのため母が渋々エスコートを受けてくれることになった。
卒業パーティーの当日。見知らぬ背の高い生徒達より年長の男性にエスコートされるマルガを見つけた。マルガには婚約者がいないはずだったから、親戚に頼んだのだろうかと思った。
「あら マルガ嬢 綺麗になったわね。あのドレスと髪飾りと首飾り全てあの男性の色ね。マルガ嬢は婚約者ができたのね」
母がお互い見つめ合い微笑むマルガのカップルを見ながらそう言った。
「親戚のものでしょう!」
つい強い言葉になってしまったが、母は馬鹿にしたように笑った。
「あの男性の色を纏い、美しくなったマルガ嬢をよく見なさい」
ショックを受けているフリッツを見て母はさらに言った。
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