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間違えた男達
アルベルト
しおりを挟む今 アルベルトは辺境の地ボルツマンにいる。身分は王子から伯爵になった。王位継承権は破棄をした。領地を代官が治めている間に辺境騎士団にて鍛えてこいと言う兄の国王の意向だ。辺境の地で逞しい配下も見つけられるものなら見つけて来いとも言われた。
ここで女と問題を起こすような軟弱な生活を送ったら。その時は元王族の血を利用させられないように離宮に蟄居だろう。
アルベルトは自分の子供の頃を思い出す。
物心が付いた時には母はいなかった。国王という名の父はあまりに遠かった。
側にいるのは乳母と侍従だけ。その者たちは仕えるもので親ではない。親の温かさからは遠かった。広くて豪華な王宮に住んでいても、美味な食事を摂っても他を知らなければ感動もない。
敬して遠ざける。そんな存在だった自分。一部の重臣達の先走りで一人の伯爵令嬢を犠牲にして生まれた王子。王太子に自分と同じ年の王子が生まれた時にその価値は無きに等しくなった。
王宮には兄の王太子の家族が住んでいた。広い庭園で王太子夫妻が王子達を遊ばせているのを目にする事があった。自分には無いものなので羨ましいのか、代わりたいのか、なんだかわからない感情がこみ上げて来る。それでも乳母が「おいたわしい」と泣くのは鬱陶しく感じた。
そんなある日乳母と侍従を供にしてブランデンブルク公爵家に連れて行かれた。
そこには天使がいた。金の髪に翠の目をした天使が。
「はじめまして。アルベルト様 私はソフィア・ブランデンブルクです」
と天使は自分に挨拶した。天使が口をきいた。思わず見惚れてしまった。見惚れた事が恥ずかしくて俯いて返事が出来なかった。
帰り道に乳母と侍従から天使が私の婚約者である事。私がブランデンブルク公爵家に婿養子として入ることを説明を受けた。
この二人は自分達が仕える王子が王族で無くなることに不満を持っていたと今なら思い当たる。たぶん人見知りな私がソフィアを嫌い婿養子に行くことを拒否したら、破談になるのではないかと企み、わざと出向く前に教えていくれなかったのだろう。そう考えると王宮で仕えてくれたものは自分に利用価値しか認めてなかったなと思う。
残念ながら意に反してアルベルトは天使に惚れ込み三日にあけずブランデンブルク公爵家に通うようになった。アルベルトはブランデンブルク公爵家では可哀想な王子ではなかった。公爵家を継ぐ子として厳しく教育された。アルベルトはわざとわがままを言って勉強を逃げてみた。ソフィアも家庭教師も嗜めてくれた。ちゃんと嗜めてくれる人のいる幸せを噛み締めた。
ソフィアは年下なのにいつもアルベルトに寄り添ってくれた。王城に妃教育のために上がる時もいつも帰りはアルベルトを誘いに来てくれた。
アルベルトはある日庭園で遊んでいると第一王子のオスカーが嫉しげに自分達を見ていることに気がついた。自分に持ってないものをたくさん持っているオスカー。そんなオスカーが持ってないソフィア。初めて自分は恵まれているのだと思った。ソフィアを大事にしようと思った。
それなのにそれなのに、王族の閨教育で二十歳過ぎの未亡人に手ほどきして貰った時に女の肌はなんと手触りがよく、女の乳房はなんと柔らかく、女の膣の中はなんと吸い付くように男を搾り取るものか知ってしまった。
その時に言われた。
「殿下は見目麗しく、お姿もよく、女達の憧れの存在でございます。後腐れのない女達の誘いに乗ったらいかがですか?婚約者様は婚姻までお抱きになれませんからね」
それまでソフィアが側にいれば、女達の誘いの視線など気にもしてなかったが、腕に胸を乗せて来たり、そっと手を取って乳房に手を入れさせる女達の誘いに乗ってみた。
どの女もソフィアではないから、長続きはしなかった。次から次へと女を漁る内に、あんなに通っていた公爵家に行かなくなった。
ソフィアに合わす顔がないと思うようになってソフィアとも距離を置いた。
女達を漁っても自分の妻はソフィアで、ソフィアを抱けるようになったらソフィアだけだと思っていた。最後はソフィア。だったらソフィアも許してくれるだろうと。
でも自分に抜けていたのは、ソフィアは天使でなく生身の女性だと自覚すると言うことだった。
蔑ろにされて嬉しいわけもない。愛想だって尽きるのだ。
そう自分は間違っていたのだ。愛情とは試すものではなく、大事に育むものだと言うことに気がついてなかった。
ここ辺境の地ボルツマンに来て、騎士団の見習いとして、公爵家に通わなくなって弛んだ身体を鍛え直した。
騎士団員には自分の事情など伝えてなく、伯爵家の色白坊ちゃんが親に叱られて鍛えに来たぐらいに思われている。団員に娼館に誘われ、酒場の娘にも誘いをかけられた。
兄に念を押されなくても、ソフィアを無くした自分はもう女を求める気にもなれない。レイチェルもどの女もソフィアの代わりでしかなかった。
そんなある日辺境騎士団の溜まり場が沸いていた。
「王太子殿下がご婚姻されたぞー」
「お相手はかねてからの婚約者ブランデンブルク公爵令嬢ソフィア様だー」
「乾杯するぞー」
世界から音が消えた。
自分がソフィアと結ばれる日は来ない事はわかっていた。わかっていたはずなのに、なぜこんなに辛い?
オスカーきみはなんでも持っているのに、ソフィアまで私から取り上げるのか。
私はどこで何を間違えなかったらソフィアと別れずに済んだのか?誰か教えてくれ。
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