恋はかならず冷めるから

烏山川るう

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第二章

第十五話 七カ月の後

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 初めての経験をする中高生でもないのに、妙に恥ずかしかった。

 だって、最後にセックスをしたのは出産直前の怜の出張前夜。あの時はお腹も大きくて、今よりは脂肪もついていた。それでもデブとか言わずに抱いてくれていたから、一切触ってもらえなくなるなんて考えていなかった。

 今はもうお腹はぺったんこ。でも、こないだお風呂上がりに裸を見られた時は、見事な未反応だった。それが怖い。大きくなった胸、テニスと育児で付いた筋肉、全体的に取れた脂肪。触り心地は少し硬くなったかもしれない。怜の好みじゃなかったらどうしよう。

「嫌なら無理して触らなくていいよ」

 まだ言ってしまう。

「嫌な訳ない。なんで裸で待っててくれなかったの?」

 怜が隣に入ってきて、はははと笑う。

「脱がせたいかと思って」
「それはそうだけど」

 服に手をかける前に、ゆっくりたっぷりとしたキスをくれた。本当に久しぶり。舌で私の口の中をまんべんなく確かめて、舌を吸い、唇をじっとりと濡らして焦らされた。

「フッ……」

 息が漏れてしまった。

「好きじゃなかった?」
「ううん。キスもしてくれなかったから」
「……うん。だってすいとキスしたら俺こうなっちゃうんだもん」

 私の脇に置いた体を近づけて、脚の間をくっつける。怜のそれはもうしっかり硬くなっていて、パジャマの布越しに体温を感じるくらいだった。

「あの男はどうだったの?」
「男?」
「浮気したんでしょ?」
「もしかして佐田さん?してないよ」
「いいよ。許す」
「してないって」
「……」
「本当にしてない」
「はぁ……、良かった~~~~~」

 間の抜けた声を出して、隣にドサっと倒れこむ。

「佐田さんは一人でシエナと同じ乳児を育ててるの。ご両親も遠方らしくて行き詰まったら大変だから、知ってるお店とかサービスをいろいろ教えてあげてるの」
「シエナと同じって」
「奥さん、生まれたのが男の子じゃなかったから子供に興味が無くなって出て行っちゃったんだって」
「なんだよ、それ。ひどいな」
「うん。大きな家の人らしい」

 怜にも会ってほしいこと、困った時は子供を預かったりといった面で協力したいことを話したら、快諾してくれた。

「会計士さんなんだって。だから私も起業のこととか聞きたくて」
「ん?それは俺に相談してほしかったな。端くれでも一応経営者だぞ」
「うん……」
「でも、俺に余裕がなかったね。翠に甘えてた」
「ううん」
「それでも信じてほしかったよ」
「今回は難しかった」
「俺さ、結構勉強したんだよ。父親向けの本をいっぱい読んだ。だけどテンパった。俺には結局何もわからないしできないだろ。こっそりじゃなくて、一緒に勉強してもらえばよかったって反省した」
「私も。入院した時とか、もっとちゃんと説明するべきだったと思った。男と女じゃ理解度が全然感じ方が違うんだね。でもね、男の人は血や痛みに弱いって聞いたから言わないでいたの」
「翠は俺の愛を見くびってる」
「そんなの変わってしまうものだもの」
「もういい。翠がほしい。飢えてるから全部もらうよ」

 急にシャツをめくられて貪られる。無意識にビクッとしてしまった。それに反応して、怜が動きを止める。

「平気?具合が悪くなったら言って」
「具合は平気。少し恥ずかしいだけ。久しぶりだし」
「なんかエロい」

 マジマジと見られると恥ずかしくて、顔を手で覆って顔を背けた。

「私、太った?」
「体重増えてないって自分で言ったのに?」
「だって」
「胸やばい」
「触って」
「きれい。柔らかい。すべすべ。大好き」
「本当に太ったところない?」
「太っても、翠ならかわいいよ」
「それじゃ嫌だ。変なところは?」
「ここはどうかな?」

 脚の間に怜のひんやりとした手が下りてくる。初めはそっと確かめるように。

「キスだけでこんなに感じてるの?」
「自分だって」
「ははは。どこも変じゃないよ」

 そして指の動きはためらいなく大胆になって、入り口に触れた。

「あっ」
「痛い?」
「ううん。子供産んでから初めてだから少し怖い」

 切った、縫った、抜糸したといった詳細は省く。きっと彼は今から自分が入っていく場所が、そんな術後だとは思っていない。知ったら貧血を起こしてしまうかもしれない。大変だ。先生はもう元どおりと言っていたけれど、実は自分でもどうなっているわからない。ドキドキする。

「わかった。様子見よう」

 ゆっくりと中に指を入れ、私の反応を見ながらまさぐり指を増やす。部屋の中でだんだんとクチュクチュといういやらしい音が大きくなる。

「どう?平気そう?」
「うん。気持ちいい……」
「挿れたいな。いいかな?」
「うん」
「ゆっくりする」
「うん」

 期待と不安でいっぱいで、やっとのことで深呼吸している自分に気づく。これではまな板の鯉だ。彼の腕にしがみつくことしかできない。でも、ゆっくり入ってくる怜を感じながら、幸せな気分になる。まだ少しなのに、熱くて硬くて胸がいっぱいで顔を歪めてしまった。

「痛い?」
「ううん。うれしくて苦しい」
「うん」
「怜は?私、何か変?」
「ううん。少しキツイ気がするけど気持ちいいよ」
「よかった」
「全部挿れていい?」
「うん」

 ググッと貫かれて奥まで達すると、フワフワした気持ちになった。

「翠の初めてもらった」
「え?」
「子供を産んでから初めてのセックス」
「ははっ。またそれ?こだわるね」
「うん」
「怜の子供しか産んでないんだから、当たり前なのに」
「そうだね」
「動いてみて」

 いっぱい感じたいし、気持ちよくしてあげたい。けれど何もできなくて、怜がくれる甘い振動のなかで意識を保つのが精一杯だった。「平気?」「痛くない?」「大丈夫?」を何回言われたことだろう?加減が不要であることをきちんと告げないと。

「大丈夫だから、昔みたいにもっとして」

 怜は一度も避妊をしなかった。だいたいゴムを持っているのだろうか。でも彼に言われたとおり、私は私の中で果てる彼が好き。安心するし愛されてると感じる。間違っているのかもしれないけど、その瞬間はいつも甘酸っぱい気持ちになれるから。

 妊娠と出産のリスクを心配してくれるのはうれしかった。けれど、人間死ぬ時はいつどこでだって死ぬ。私たちがまずかったのは、考え方と対処方法について共通認識をもっていなかったこと。私にとっては社会活動を中断しないとならないことがストレスだったけど、怜にとっては私に何が起こるのがわからないことが恐怖だったのだ。これからは考えをわかちあっていこう。

「今度は絶対ずっと側にいる」
「今度があるかわからないよ」
「そうだけど」
「あったとしても、出産には立ち会ってほしくないな」

 思い切って言ってみた。期待させるのは良くない。

「なんで?」
「だって出産は女の仕事だから」
「手握ってほしくないの?」
「立ち会ったお父さんの経験談は読んだ?」
「もちろん」
「支えて励ましてるのに、『うるさい』『何がわかる』って暴言吐かれるんだよ」

 やや脚色。

「そういうのも読んだ」
「産まれたては血だらけなことも知ってる?」
「知ってるよ。絵が描いてあった」
「グロテスクさだからトラウマになる人もいるみたいだよ」

 怜が耐えられるとは思えない。

「セックスレスになったら嫌。あっ、ああ!や、あん!怜、ねぇ」
「ああっ……はぁはぁはぁはぁ」
「うっ、んんん。はぁはぁはぁ、あああぁ!れい~~~~」

 ベタベタと抱き合ってイチャイチャしながら話していたのに、急に激しく私を突き上げ始めた。

「見せて。繋がってるとこ」

 怜の額に汗が見える。リクエストに応えたくて、私はできる限り体をのけぞらせて後ろ手で支え、脚を広げてみせた。怜の動きで体はバウンドさせられて、その度に愛液が太ももを伝って怜の脚に滴る。

「ひゃっ」

 真っ赤になって隆起した蕾に、怜の指が伸びる。

「あああああ。んんんんーーーーー。あっあっあ……」
「中と外一緒が好きでしょ?」
「うっうっあっあっ……はぁ…あぁ」
「もっとしっかり擦ろう」
「いっ、痛っ。痛い」
「え!?」

 怜が動きを止めて、これ以上ない真剣な顔で私を見ている。

「どこ?どこが痛い?」
「違うの」
「今痛いって」
「痛いのは胸。今、大きくなってるから、いっぱい揺らされると痛いの」
「おっぱいって痛いの!?」
「痛いよ。二、三キロあるんだよ」
「そんなあるの!?」

 珍しい物を見つけた時のように、私の胸を指で突いてプニプニしている。

「どうしたらいいの?俺、おっぱい揺れてるの好きなんだけど」
「たまに手で支えてほしいかな」
「それでいいの?」
「うん」
「揉んでもいい?」
「うん」
「なんだ。お安い御用だ」

 体を起こした怜は腰をぶつけながら、私の脚をキツく屈曲させて上になった。奥の奥まで自身を沈めて、私の敏感な部分が擦れるようにロックする。胸は怜の胸に押し付けれているから、まったく痛くない。

「それダメ……。もうイク……」
「まだダメ」
「無理無理無理、怜……」
「うううっ……」

 果てた怜がドサっと覆い被さった。荒げた息を整えながら、首筋や鎖骨にキスをしてくれる。彼の胸が息を吸うたびに隆起して、吐くとなだらかになる。ずいぶん見ていなかった。うれしくて涙がこぼれて、申し訳なくなった。

「ごめん。辛かった?」
「ううん。私ごめん」
「何が?」
「何もしてあげてない」

 フッと柔らかく笑って、長い指が涙の筋をぬぐう。

「されるがままってのもソソるものだよ」

 満たされた。私の頬を撫でていた怜の手に自分の手を重ねる。

 どうして、こんなに優しい人を疑ったりしたんだろ。私の唇をとらえて目を閉じている怜の長いまつ毛を見ていたら、こらえられなくなって泣いてしまった。体勢を変えたいのか、怜が私から下りようとする。

「あっ、嫌」
「俺重いでしょ」
「ううん。このままがいいの」

 彼の背中に回した手にグッと力を込める。すると、彼も私を包み込んでぴったりくっついてくれた。私が一番好きで、安心するかたち。

「ははは。うれしいなぁ。翠がこんなに求めてくれるなんて」

 嘘。怜は違ったんだ。顔を背け、掛け布団を引っ張ってかぶる。 

「どした?」
「私だけだった」
「何が?」
「寂しかったの」
「俺もずっと抱きたかったよ」
「嘘ばっかり」
「夢で抱いてた」
「夢?」
「いろんな翠がいたよ。俺のこと嫌いとか高校生とか。ずっとイチャイチャしてた」
「なにそれ」

 また涙が出てきた。

「泣きすぎ。翠はさ、いつから俺のこと、そんなに好きになったの?」
「いつって?」
「だってさ、最初の頃なんてすることしたら、さっさと帰ろうとしてたじゃない?セフレ扱いされてた時だって、そんな風に甘えてこなかった」
「だって」
「わかってる。でもさ、もう少し信じてくれてもいいんじゃない?」

 おでこに張り付いた髪を整えてくれる。

「怜はモテるから」
「よくそう言うけど、俺、絶対翠よりモテない」
「いつも若くてきれいな人といるんだもん」
「仕事で会ってるだけだよ。それに俺はちゃんと指輪してるからね。浮気なんてできない」
「指輪なんて外せるし、既婚者が好きな女はたくさんいる」
「翠だって、髪切っちゃってさ。モテようとする気満々だったでしょ」
「だって、怜に嫌われたみたいだったから」
「指輪もはずしてひどいよ。浮気するって言われた俺の気持ちわかる?」

 怜が指輪をはめていない私の左手を取ってニヤニヤした。指輪をはずしたのは、本当にシエナが遊んでしまうからなのに。答えようと口を開いた時、怜はベッドから出て本棚の引き出しから油性マジックを持ってきた。

「ほら。俺の指輪はずして」
「なんで?ひどい」

 嫌だから無視をしていたら、怜は自分で指の周りをマジックでなぞって輪を描き、指輪をいつもの位置に戻した。

「これではずせない」
「洗えば消えるよ」

 突然のおかしな行動にうまい答えが返せない。

「翠が毎朝描いて」

 また私を包み込んで、キスをしてくれた。
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