リンバース公爵領の教会で

聖 りんご

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危険な執事

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よく晴れた夏空が眩しい日、教会の懺悔室の扉は開かれました。

司祭は迷える子羊の為に小窓を開けます。

「改心を呼びかけておられる神の声に心を開いてください。神のいつくしみに信頼して、貴方の罪を告白してください。」

「はい。私はとても罪深き愛の奴隷です。」

今日の懺悔は恋愛に関するもののようで、あまり経験豊富とは言えない司祭は、良いアドバイスができるのか少し不安に思っていた。

「私は仕える主に恋心を抱き、抑える事ができません。」

(身分差ですか……。それは何とも難儀なものですね。)
司祭は叶う見込みの少ない恋に同情した。

「主は天使のような御方で、愛おしくて愛おしくて狂ってしまいそうです。力いっぱい抱きしめてその唇を奪い、私の檻に閉じ込めたい!
罪深い私は、主より先に起きて寝顔を拝み、主より遅くに寝て寝顔を愛でる生活をしているのです。」

(狂ってしまいそうでは無くて狂っていると言って良いでしょう。あぁ……アドバイスとか言うレベルではないようですね。犯罪の匂いしかしません。これは放っておいて大丈夫でしょうか。)
司祭は悩みました。どうみても危ない思考の持ち主を普通に対応してしまって良いのか、しかし彼は神に許しを乞いにきた子羊。
救うべき存在です。

「どうか、私に許しをお願いします。」

(許し……これを許したらダメですよね……しかし私は神の遣いたる司祭………)
許しを求める子羊に司祭は迷いました。

「迷える子羊よ……神が貴方を許すには貴方の行動を改めなくてはなりません。心を清める為にミサにも参加されてはいかがでしょう。そして、貴方の主の安息の為にも主の寝顔を観察するのは控えてはどうでしょうか。」

「ミサですか。そうですね……今度、参加させていただきます。寝顔についてはすでに日課で……大丈夫です。気づかれてないので安心して下さい。」

(安心できません。)
司祭は更生が不可能な事を悟りました。

「それでは、神のゆるしを求め、祈りを唱えてください。」

「神よ、慈しみ深くわたしを顧み、豊かな哀れみによって私のとがをお許し下さい。そして、罪深いわたしをお清めください。」

「神が教会の奉仕の務めを通してあなたに許しと平和を与えてくださいますように。わたしは父と子と聖霊の御名によって、あなたの罪を許しましょう。」

「アーメン」

また懺悔室の扉が開かれ、迷える子羊は帰っていきました。

彼はきっとまた来る、司祭には予感がありました。
次はもっと過激な存在になっているのか、心が穏やかになっているのかは不明でしたが、そう簡単に禊は出来ないなという確信はありました。

司祭は神に祈りました。
彼が、少しずつその身と心を清めてくれるように。
願わくば、彼の主に奇行がバレないように。






そしてまた、次の迷える子羊の手によって懺悔室の扉は開かれました。

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