魔王を倒した直後に仲間に裏切られ、殺されかけた勇者は、復讐なんてせず、のんびり旅に出た

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序章/裏切られた勇者は…

1.勇者は魔王を倒しました。でも…

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この『物語の始まり』は、『物語の終わり』から始まった。

それは誰もが憧れる英雄譚の最後の一幕。

『伝説の勇者』が『悪の魔王』を倒した瞬間から…





それは『伝説の勇者』の『聖剣』が『悪の魔王』の体を貫いた時から…

「げほっ…負けちゃったわね…」

心臓を聖剣で貫かれた『魔王』が『勇者』に笑って話しかける

「あーあ、楽しかったのになぁ…終わりかぁ…『勇者』ちゃんは本当に強いかったわ。なんてったてこの『魔王わたしを倒しちゃうんだもの」

致命傷を負った『魔王』の顔は悲痛の表情ではなく、日が暮れたから遊ぶのをやめて家に帰る子供のような表情だった。

「………」

「…ちょっとぉ、ノリ悪いわよ。『勇者』ちゃん」

今度は優しい…本当に優しい微笑みを浮かべて、魔王は『勇者』の両頬に手を当てる。

「あなたはこの『魔王』様を倒したのよ。これから世界中に語り継がれる大英雄。そんな『勇者』ちゃんが、なんで泣きそうな顔をしてるの」

「…ごめん」

『勇者』が本当に泣き始めた。

「僕は…『魔王きみ』を…『魔族きみたち』を…」

「何言ってるの…人間が人間を選ぶのは当然じゃない」

『魔王』は『勇者』を見る。

今まで何人もの『勇者』が歴代の魔王の元にやってきた。

しかし、この『勇者』は『歴代の勇者まぞくごろし』の中において、最も勇者らしくなかった・・・・・・・・・・・

魔族を虐殺する者ゆうしゃ』…容赦無く魔族を襲い、犯し、殺す人間。

しかし、彼は違った。

理不尽なわざわいから人間も、異種族も、魔族も…彼は分け隔てなく、救った。

それを良しとしない仲間に咎められても、彼は救い続けた。

それを『魔王』はずっと『千里眼』で見ていた。

だから魔王は『予言』する。

「だけどね、あなたの絶望は…これからよ」

彼のこの先に起こる事を、

「英雄の末路なんて碌なものじゃないわ。地獄まで届くあなたの憎悪と怨嗟の声を楽しみにしてるわ」

聖母のような優しい笑みを浮かべて告げた。





(絶望…か。セレスティア様とクローディア様も同じような事を言ってたなぁ)

自分の腕の中で事切れ、砂金のような砂になっていく『魔王』を優しく抱きとめて、『ジーク』は、自分を認めてくれた白と黒の双子のエルフ女王の事を思い出す。

『このままでは優しいあなたには相応しくない未来が待っています』

『そうだ。『勇者』なぞやめて己の心配をしろ』

そう言って、ジークにエルフの国で平和に暮らさないかと誘ってもくれた。

女王達の誘いをジークはやんわりと断った。理由は…

「ジーク!」

「無事かジーク!」

「勇者様!」

後ろから仲間の声がする。

人間を襲う『悪魔ダーク』を操る『魔王』を倒す為に、共に旅をしてきた大切な仲間…

エクセリアの姫騎士・セルフィリス。

同じくエクセリアの聖騎士・リュート。

弓の申し子・リッカ。

この3人の他にも増援部隊を防ぐ為に別行動を取っている仲間…

格闘王・グラム。

流浪の女戦士・エルス。

セルフィの姉である魔術師・ギネヴィア。

ジークが『勇者』でいた理由は、『救いを求めている人を救いたい』という事もあったが、女王達の預言めいた忠告を聞いた時、自分はどうなってもいいが、仲間を『絶望』から護られなければならないと思ったからだ。

しかし、もし、自分が『絶望』の原因になるのなら…

(僕はここで消えよう…勇者の凱旋なんて興味ないし。また、皆が大変になったらひっそりと現れよう)

「ああ、大丈夫だよ。みんなも無事でよかった」

仲間が大きな怪我も無く、ジークはホッとする。

「グラム達は大丈夫かな…でも、あの2人にギネヴィアの魔法がついてれば鬼に金棒だし…」

(そういえば、グラムとエルスの結婚式の仲人頼まれてたっけ…それ終わってからにしようかな)

「ああ、ジーク。本当に無事なのね」

セルフィは潤んだ瞳でジークを見て、ジークはドキリッとなる。

「あ、うん。僕は大丈夫だよ…」

(勝手にいなくなったら、セルフィは怒るかなぁ。い、一応、僕達…)

ブスッ…

(こい、びと…えっ…?)

腹部に熱く鈍い痛みが走る。

原因はセルフィが自分の腹に刺している禍々しい形の短剣・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だった。

「…あの『魔王』と真正面から戦って無事だなんて、相討ちになってくれれば手間がかからなかったのに」

セルフィは感情を殺した眼でジークを見つめている。

「あ、うあぁ…」

波のように少しずつ打ち寄せる激痛にジークは気が狂いそうになる。

「こ、これは…考えて、なかったぁ…」

ジークの腹部に刺さっているのは『蠱毒のナイフ』。

旅の途中で見つけた手に入れたもので、かすり傷で全身に激痛を起こす毒が身体に行き渡る恐ろしい武器。

「危ないけど、壊せないから、捨てたはず、なんだ、けど、なぁ」

「拾ったの」

セルフィはジークから『蠱毒のナイフ』を引き抜く。

刺された事による痛みと脱力感、猛毒による激痛に苦しむジークをリュートが首を掴みあげる。

「ぐうぅぅ…」

「…これで私が最強の騎士だな」

いつもの爽やかかつ、高潔な表情しか浮かべなかったリュートが邪悪な欲に塗れ、嘲りを混ぜた笑みを浮かべている。

そんなリュートにジークは精一杯太々しい顔をして、

「せ、セコイこと言いなさんな…まだ僕は死んで、ないし…グラ、ムもいるよ」

「貴様…」

リュートの歪んだ顔が怒りに染まるのを見た瞬間、胸に鈍い感触が走る。

「うぐっ…」

リュートの剣が正確に肺の片方を貫き、呼吸も儘ならない。

「何故、減らず口を叩ける。ここで死ぬというのに」

どうやらリュートはジークの命乞いを望んでいたようだが、

「実は嬉しんだよ…なか、まの意外な、一面を見れて…その顔、いつもより、カッコいい」

ジークには命乞いをする気はサラサラなかった。

なぜなら…

ついさっき減らず口を叩きながら死んだ『魔王もの』がいたからだった。

「ちっ…おい」

「ぐがぇ…!?いったぁ、もっと、優しく…」

リュートはジークを投げ放す。

毒に侵された身体はそれだけで声もあげられない痛みが走る。

「ご、ごめんなさい…」

大型のナイフを持った涙目で震えながら、リッカはジークに謝罪する。

「こ、こうするしかないんです!…ごめんなさいごめんなさい…うらまないで…ごめんなさい…!」

(そんなに謝るなら、やらなきゃいいのに…)

意識が遠のいて行くと同時に、激痛が引いて行く。

何かされているみたいだが、わからない。

(ああ、これはもうだめだ…もう、めをつぶってらくになりたい…)

リュートは再びジークを立たせる。

霞む視界の前に愛しい人セルフィがいた。

「…さよなら、用済みの勇者様…●●●●●…」

その言葉にジークは最後の力を振り絞って、心からの言葉を返す。

「僕も…●●●●」

言い終わった瞬間、セルフィはジークが何を言っているのか理解できず、うろたえ、絶望に満ちた顔で、ドランの心臓にもう一度『蠱毒のナイフ』を突き刺した。






――勇者は魔王を倒しました。でも…死んでしまいました。
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