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伯爵様サイド
その1
しおりを挟む※ 伯爵様サイドの名の通り、このお話は途中から本編と全く同じ内容の伯爵様視点になります。
本編でも伯爵様の性格はバレていますが、本編の雰囲気が好きな人はもしかしたら読まない方がいいかも。
それでも良い方は、どうぞです。
俺が前世を思い出したのは、十歳の時だった。詳しい事は忘れたが、何かの悪戯が見つかって垣根を越えて逃げようとした時に、バランスを崩して転んでしこたま頭を打ったのだ。
前世の俺は、いわゆるアニメオタクだった。新作は必ずチェックして、一度は見ることにしてたし、気に入ったアニメに関してはグッズその他おしみなく金をつぎ込んでいた。
そして運命のアニメに出会った。いやまあ、アニメ自体はとてもじゃないが良作とは言えなかったが。
主人公のデイジーマリーに敵対するサンローズ。
彼女が初登場した時、俺は「おしいっ」と思った。顔とかスタイルとかめちゃくちゃ好みのキャラだったから。ただ、惜しいことにカラーリングが好みと外れていた。
主人公のデイジーマリーがピンクの髪に水色の瞳で、その相手役の王子が金髪で青い瞳だったからだろう、サンローズはそれとは全く違う、黒髪黒目のカラーだった。
俺の好みはぶっちゃけ金髪碧眼だ。これまでもそういうキャラばかり好きになってた。
けどなんでだろう、サンローズの事は何故か目が離せなかった。
前世を思い出し、今の自分を思い返し、俺の頭の中はパニックになった。
待て待て待て。今の俺のいる国と『デジ・スト』の舞台の名前、一緒だよな?
そして更に思い出す。
ていうかお祖父様、ユーギル侯爵じゃん? サンローズ、ユーギル侯爵令嬢だよな?
血の気が引いた。
もしかして、ラノベでよく見る異世界転生ってやつ?
ドドドドッと心臓が鳴る。
ちょっと待て。落ち着こう俺。
深呼吸をして心臓を鎮め、それから考える。
お祖父様がユーギル侯爵で、サンローズがユーギル侯爵令嬢ってことは、サンローズは俺の叔母様?
けどそんな名前の叔母様がいるなんて聞いたことない。
いや待て。サンローズは悪役で、最後には断罪され処罰されてしまう。あ、いや。処罰と言ってもどんな刑罰が与えられたのかは物語には出てこなかったけど。最悪サンローズはこの世にいなくて、身内から罪人が出たなんて恥だから隠しているのか……?
ショックだった。好きなキャラが自分の叔母様ってのもショックだけど、もう亡くなっているかもしれないなんて。
でもすぐにそれは間違いだと気づいた。何故って今いる王族の中にデイジーマリーもその相手役の王子、シャイニーも存在しないのだから。
よくよく考えてみれば肝心の『デジ・スト』の舞台であるミルジャーナ学園の存在さえない。
という事は、『デジ・スト』は未来のお話なのか?
そこでふと、鏡に映った自分の姿に気づき、二度見した。
この顔って、もしかしてサンローズの父親っ?
もちろんその時の俺はまだ十歳だったから、記憶にあるアニメのユーギル侯爵と違い幼い顔立ちをしている。けど、大人になった自分を想像すると、どう見ても俺がユーギル侯爵だ。
マジかよ!
そういえばサンローズは父親に溺愛されて育ったって設定があったような。もし娘がサンローズだったとしたら……。うん、溺愛する自信ある。
俺の娘がサンローズ。
一瞬喜びが湧き上がる。けど、それはすぐに絶望へと変わる。
まだ見ぬ愛娘の未来があんなだなんて、あんまりだ! あんなふうになるサンローズの姿なんて絶対に見たくはない。それならいっそ……!
絶望のあまり十歳の俺は、極端な発想に取り憑かれた。
それならいっそ、俺が子供を作らなければいい。そうすればサンローズは産まれないし、不幸な目にも合わない……!
それから俺は、モテないために太ることにした。
お祖父様が亡くなり、父上がユーギル侯爵に、俺がダントン伯爵になった頃には裏で皆が俺の事を黒豚と呼ぶようになっていた。
何度か父上から「そろそろ婚約者を決めなさい」と見合いを持ちかけられたが、何かと理由をつけて断った。
それでもこの歳ですでに伯爵位、そして将来侯爵となる事を約束されている俺は魅力的だったんだろう。パーティーに出るたび様々な令嬢が俺の周りをウロウロし、アプローチしてきた。
だから俺は、引きこもることにした。紳士の集まりには顔を出したが、女性も参加するパーティーは、断れないもの以外は全て行かなかった。どうしても参加しなければならないパーティーも、挨拶にだけ顔を出してすぐに帰った。
陰で皆、特に女性達が俺の事を「ひきこもり黒豚伯爵」と呼んでいるのも知っていた。だけどそのくらいの陰口でサンローズの不幸を回避出来るなら、なんともなかった。
あんまりにも俺が女性を寄せ付けないから、一時ホモじゃないかと疑われた事もあった。当時そちらで有名な男に言い寄られたが、コテンパンに返り討ちにしてやった。
そこからホモ疑惑も消えた。
色恋沙汰は俺の周りからほぼなくなった。思い出したように縁談が舞い込むこともあったが、すぐに断った。
ありがたいことに友人には恵まれていたので、退屈な毎日を過ごさなければならないという事はなかった。
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・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
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