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episode3
王太子として
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本日のお妃教育を終えた私は、金の燭台やステンドグラスが等間隔に配置された王宮の廊下を歩いていた。
豊かな土地に恵まれ、一年を通して四季折々の花に彩られるローゼンシア国。
年中美しい景観を保つこの国は、精霊信仰も相まって他国から『精霊に守護される国』や『精霊に祝福される国』と称され、王宮内はステンドグラスやオーナメントなど、精霊を模した物が多い。
美しい乙女の姿で描かれる薔薇の精霊、そして初代国王パーシヴァルが宝剣を賜る様子なども描かれている。ステンドグラスや薔薇窓は芸術品としても素晴らしく、文字の読めない人々でもこの国の神話を知る事が出来るように、神話の一節をステンドグラスや薔薇窓に描いたという歴史がある。
「セシリア様」
廊下を歩いている最中、エドに呼び止められた。
「あらエド、殿下はお元気でいらっしゃるの?」
「はい、今は宮廷魔術師達と訓練をしています」
「訓練?」
「見に行かれますか?休憩中ならお話出来ると思いますよ」
「つ、連れて行って貰えるかしら?」
「勿論です」
にっこりと微笑みかけてくれたエドと共に、魔法壁に囲まれた、屋外の魔術訓練場へと向かった。
(ついエドに付いて来ちゃったものの、仕事場まで押し掛ける面倒くさい女だと思われたらどうしましょう…)
今更ながら不安になってきてしまった。
訓練所に着くと宮廷魔術師達が、殿下を取り囲むようにして円形に陣営を組んでいた。
そして殿下の体が空中へ浮かび上がると、地上にいる魔術師達へと順に魔法を放っていく。魔術師達は防御魔法で防ぎ、その後はそれぞれが攻撃魔法を殿下に仕掛ける。炎の魔法や雷、氷の魔法など、個々が得意とする魔法を使っているようだ。殿下は視覚から放たれた攻撃すら、魔法で防いだり回避したりしている。
何だか見ている方が肝を冷やしてしまう。
殿下が一人で多勢を相手にしている事にも驚いたが、それよりも気になった事があった。
(殿下……飛べたんだ……)
そういえばミスティカ様に階段から落とされた時、音もなく気配もなく私を抱き止めてくれたり、その後はミスティカ様を追って、三階の窓から飛び出していった。
あれらが可能な理由は、浮遊魔法を会得していたからだと、たった今理解出来た。
(殿下が浮遊魔法を使っている所なんて、初めて目にしたわ。幼少の頃からの婚約者のはずなのに、知らない事がまだまだあるのね…)
そもそも浮遊魔法を使える人間自体、見るのが初めてだった。
殿下といえば、変態だと発覚したのもほんの三ヶ月くらい前の事であり、大量に私の肖像画を所持している事を知ったのもつい最近の出来事だ。自分の知らない婚約者の一面何てきっとまだ沢山あるのだろう。
「殿下一人で相手をなさっているのね…」
「はい。実は辺境の方で最近魔獣の出現が増えているらしく、魔術師達を派遣する事を考えていまして、その前にこうやって殿下と訓練をしているんです」
前に殿下が王都には結界があるから、魔獣は入ってこれないと言っていた。それでも王都から離れた辺境の地にはごく稀にだが魔獣が現れると聞く。その出現率が増えているとは穏やかではない。
当たり前だが殿下はきちんと為政者として、王太子として役割を全うしている。魔獣の事以外に執務だってあるだろう。
それは分かりきった事なのに、ほんの少しでも私が変な事を口走ってしまったのが原因で、会えないのだったらどうしようなどと考えてしまうなんて。
「ありがとう、エド。戻るわ」
「え、休憩に入られたらお話出来ると思いますよ?」
「大丈夫よ」
彼は本来聡明な王太子だ。常に恋愛や私の事ばかりが頭の中を占めている訳ではない。
会いたかったけど、私は殿下の助けになりたいのであって、邪魔をする様な真似だけはしたくない。
次に会った時に幻滅されないように、私は私の出来る事をしておかないと。
殿下の母君である穏やかな王妃様は、魔力の高いリンデン家出身という以外に、外交の手腕も高く、そして国王陛下が不在の際には政務を取り仕切る才女と名高い。
私も国王夫妻のように殿下と信頼し、助け合いながらこの国を守る夫婦になりたい。
一目元気そうな姿を見れただけでも嬉しかった。
豊かな土地に恵まれ、一年を通して四季折々の花に彩られるローゼンシア国。
年中美しい景観を保つこの国は、精霊信仰も相まって他国から『精霊に守護される国』や『精霊に祝福される国』と称され、王宮内はステンドグラスやオーナメントなど、精霊を模した物が多い。
美しい乙女の姿で描かれる薔薇の精霊、そして初代国王パーシヴァルが宝剣を賜る様子なども描かれている。ステンドグラスや薔薇窓は芸術品としても素晴らしく、文字の読めない人々でもこの国の神話を知る事が出来るように、神話の一節をステンドグラスや薔薇窓に描いたという歴史がある。
「セシリア様」
廊下を歩いている最中、エドに呼び止められた。
「あらエド、殿下はお元気でいらっしゃるの?」
「はい、今は宮廷魔術師達と訓練をしています」
「訓練?」
「見に行かれますか?休憩中ならお話出来ると思いますよ」
「つ、連れて行って貰えるかしら?」
「勿論です」
にっこりと微笑みかけてくれたエドと共に、魔法壁に囲まれた、屋外の魔術訓練場へと向かった。
(ついエドに付いて来ちゃったものの、仕事場まで押し掛ける面倒くさい女だと思われたらどうしましょう…)
今更ながら不安になってきてしまった。
訓練所に着くと宮廷魔術師達が、殿下を取り囲むようにして円形に陣営を組んでいた。
そして殿下の体が空中へ浮かび上がると、地上にいる魔術師達へと順に魔法を放っていく。魔術師達は防御魔法で防ぎ、その後はそれぞれが攻撃魔法を殿下に仕掛ける。炎の魔法や雷、氷の魔法など、個々が得意とする魔法を使っているようだ。殿下は視覚から放たれた攻撃すら、魔法で防いだり回避したりしている。
何だか見ている方が肝を冷やしてしまう。
殿下が一人で多勢を相手にしている事にも驚いたが、それよりも気になった事があった。
(殿下……飛べたんだ……)
そういえばミスティカ様に階段から落とされた時、音もなく気配もなく私を抱き止めてくれたり、その後はミスティカ様を追って、三階の窓から飛び出していった。
あれらが可能な理由は、浮遊魔法を会得していたからだと、たった今理解出来た。
(殿下が浮遊魔法を使っている所なんて、初めて目にしたわ。幼少の頃からの婚約者のはずなのに、知らない事がまだまだあるのね…)
そもそも浮遊魔法を使える人間自体、見るのが初めてだった。
殿下といえば、変態だと発覚したのもほんの三ヶ月くらい前の事であり、大量に私の肖像画を所持している事を知ったのもつい最近の出来事だ。自分の知らない婚約者の一面何てきっとまだ沢山あるのだろう。
「殿下一人で相手をなさっているのね…」
「はい。実は辺境の方で最近魔獣の出現が増えているらしく、魔術師達を派遣する事を考えていまして、その前にこうやって殿下と訓練をしているんです」
前に殿下が王都には結界があるから、魔獣は入ってこれないと言っていた。それでも王都から離れた辺境の地にはごく稀にだが魔獣が現れると聞く。その出現率が増えているとは穏やかではない。
当たり前だが殿下はきちんと為政者として、王太子として役割を全うしている。魔獣の事以外に執務だってあるだろう。
それは分かりきった事なのに、ほんの少しでも私が変な事を口走ってしまったのが原因で、会えないのだったらどうしようなどと考えてしまうなんて。
「ありがとう、エド。戻るわ」
「え、休憩に入られたらお話出来ると思いますよ?」
「大丈夫よ」
彼は本来聡明な王太子だ。常に恋愛や私の事ばかりが頭の中を占めている訳ではない。
会いたかったけど、私は殿下の助けになりたいのであって、邪魔をする様な真似だけはしたくない。
次に会った時に幻滅されないように、私は私の出来る事をしておかないと。
殿下の母君である穏やかな王妃様は、魔力の高いリンデン家出身という以外に、外交の手腕も高く、そして国王陛下が不在の際には政務を取り仕切る才女と名高い。
私も国王夫妻のように殿下と信頼し、助け合いながらこの国を守る夫婦になりたい。
一目元気そうな姿を見れただけでも嬉しかった。
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