不機嫌なヒーロー

でんし

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2.回想(永久編)

2.ヒーロー失格(永久視点)

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小学校に入学してから、俺と悠人が会う回数はぐっと減った。クラスが違うということもあるが、悠人が俺に泣きついてくることがなくなったことが大きかった。

たまに廊下ですれ違う時に会話をしていたが、悠人はいつも笑顔だった。だから、悠人はもう一人でも大丈夫なのだと俺は思っていた。


そして月日は流れ、俺たちは小学校高学年になっていた。そんなある日の朝、俺は母さんから自分の人生が変わることになる話を聞く。

永久母「ねえ、永久。あんたと仲良しの悠人君、昨日の夜、緊急入院したらしいわよ。同じクラスの子たちが池に捨てた大切なものを拾うために、池に飛び込んじゃったみたいなの。」

目の前が真っ暗になった気がした。
 
悠人がいじめられていた…?
俺は悠人を守れなかった…?

いろいろなことが頭をよぎったが、一番の気がかりは悠人の容態だった。悠人の身体が弱いことはよく知っている。そんな無茶をしたら、間違いなく体調を崩すだろう。


そこから、俺の記憶は曖昧なものになっている。後に母さんから聞いた話では、俺は悠人に会いたいと泣き続けたらしい。母さんが悠人の両親と連絡を取り、俺を悠人のいる病院まで連れていってくれたのだそうだ。


気づくと俺の目の前には、病室のベッドの上で眠っている悠人の姿があった。

永久「悠人!大丈夫か、悠人!!」

永久母「悠人君は眠っているのよ、静かにしなさい。」

母さんに諭され、多少落ち着きを取り戻した俺は、悠人のベッドの傍に座り込んだ。

ふと眠っている悠人の手を見ると、泥水でぐしゃぐしゃになった栞が握られていた。

悠人母「この子、卒園式で永久君がくれた栞をずっと大切にしていたのよ。友達に意地悪されても、永久君が一緒にいてくれるから平気!って、いつも私に言っていたわ。ここまでの意地悪をされているとは思っていなかったけれど。」

俺は、悠人が栞を大切にしてくれていた嬉しさと、悠人を守れなかった悔しさで、心の中がぐちゃぐちゃになっていた。

永久「悠人…。ごめん、悠人…。」

涙が止まらなかった。謝るしかなかった。ヒーローが聞いて呆れる。悠人を守れなかった。きっと悠人は、約束を守らなかった俺に怒りを覚えただろう。当然だ。俺は…ヒーロー失格だ。

悠人母「悠人、しばらくうなされてたのよ。だから大切にしていた栞を持たせてあげたの。そうしたら、静かに眠りはじめたわ。…きっと、悠人は永久君のことが大好きなのね。」

悠人「…とわくん?」

悠人の声を聞いて、俺は慌てて涙を拭いた。

永久「ごめん、悠人。起こしちゃったか?」

泣いているせいで、声が鼻声になる。悠人を不安な気持ちにさせないよう、俺が泣いていると気づかれる訳にはいかないのに。

悠人「…とわくんだ、」

悠人は嬉しそうに微笑んだ。

ああ、悠人は約束を守れなかった俺にも、その笑顔を見せてくれるんだな。

永久「ああ、永久だ。…ヒーロー失格の、な」

俺は決めた。悠人さえ守れないヒーローなんて必要ないと思った。だから。

永久「でも、これからはどんなことをしてでも、悠人のことは俺が守る。絶対に。」

この約束は、悠人を守るためならばヒーローにあるまじき行為さえ厭わないことを意味した。悠人を守るためとはいえ、自分の夢を諦める俺が悠人の傍にいていいわけがない。俺は誰にも悠人を傷つけさせないこと、そして、俺自身が必要以上に悠人に近づかないことを誓った。

悠人母「あなた。家から悠人の着替えを持ってきてくれないかしら。私たちは飲み物やお菓子を買ってくるから。永久くんのお母さん、付き合ってもらってもいい?」

悠人父「ああ、持ってこよう。」

永久母「ええ、付き合わせてもらうわ。永久、悠人君のことは任せたわよ。」

きっと、悠人のお母さんは俺に気を遣ってくれたのだろう。涙でぐちゃぐちゃの俺が、母さんたちに気を遣わずに悠人と話せるように。

悠人「永久くん…守ってくれてありがとう。」

永久「悠人…俺は守れなかったんだよ、ごめんな。」

悠人は意識が覚醒しきっていないのか、俺の声が聞こえていないようだった。そのまま、悠人は続けた。

悠人「永久くんがくれた栞…ずっと大切にしてたよ。いつも、永久くんが弱虫な僕の背中を押してくれた。だから…新しいお友だちも出来たんだよ。」

悠人は、さらに続けた。

悠人「意地悪をしてくる子もいるけど…。永久くんの栞があるから、平気だよ。だから…もう、守ってくれなくても大丈夫。心配しないで…。」

悠人は眠そうにしつつも、まだ話を続けようとした。

永久「俺に心配かけないように頑張ったんだな。きっと、悠人は俺より立派なヒーローになれる。」

悠人は俺の言葉が聞こえたのか、にこりと微笑むと、再びすうすうと寝息を立て始めた。

幼稚園の頃から、俺は悠人の笑顔を見ると胸が苦しくなることがあった。この時ようやく、この苦しさが恋なのだと気づいた。

(だから俺はヒーローに憧れたんだな。この笑顔を守るために。)

永久「悠人、好きだ。」

そっと悠人の頬にキスをした。

永久「唇じゃないから許してくれ。そして、さよならだ。何があっても俺は…悠人の味方だから。」

それからしばらくして、母さんたちが戻ってきた。

永久母「悠人君とはちゃんと話せた?」

永久「うん、ありがとう、母さん。悠人のお父さん、お母さんもありがとう。」

悠人父「こちらこそありがとう。悠人に永久君のような友達がいて、本当によかった。」

悠人母「…ええ。本当に。」

永久「母さん、謝っておきたいことがある。俺たちはこれから…学校に呼び出されることになるかもしれない。俺はもう、いい子でいられないかもしれない。」

永久母「………。」

悠人母「…だめよ、ここからは私たち、大人に任せて。その気持ちだけで充分だから。」

悠人父「…ああ、母さんの言う通りだ。少し落ち着いた方がいい。」

悠人の両親はそう言ってくれたが、俺はどうしても悠人をいじめた奴らを許せなかった。


病院から家へと帰る車の中で、母さんは半ば諦めたように言った。

永久母「さっきの話だけど…そんなことをしても、きっと悠人君は喜ばないわよ。まあ、今のあんたには何を言っても無駄でしょうけど。」

そして母さんの予想通り、その言葉は俺に届かなかった。
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