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第四歩 初めてのバイト

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「いらっしゃいませ、空いてる席にどうぞ」
と私は、笑顔で対応をしていた。そして、
「神崎さん、この料理を運んで!」
「はい」
「神崎さん、料理を運んだら厨房に入って」
「はい」
私は、フロアをしながら、楓さんから調理をある程度任されていた。
『バイトを始めて早3週間、だいぶ慣れてきたな。』
私は、週に3回楓さんの経営する『アネモネ』でバイトをしていた。バイト内容は、清掃やレジ、たまに厨房に入って調理をする等だった。結構大変だが、時給が結構いいというのと、楓さんがいるというのでここに決めた。
「楓さん、ハンバーグとナポリタン完成しました。」
「それじゃあ、盛り付けて運ばして、次のオーダーの準備を頼める?」
「はい」
と私は完成させた料理を盛り付けて、
「3番テーブルにお願いします。」
「了解」
と言って、運んでもらった。
 バイトが終わって、着替えていると、
「お疲れさま、言葉ちゃん」
「木下さん、お疲れさまです。」
と木下さんに声を掛けられた。木下さんは、大学二年生でシフトがほとんど一緒で仲良くなった。その上、小柄で茶髪ショートで凄く可愛い。
『初めて見た時は、同い年なのかと思っていたな~』
と思っていた。すると、木下さんが、
「いつも以上に大変だったね。」
「そうですね。」
「前から人気だったんだけど、ここ最近またさらにお客さんが増えたんだよね。」
「どうしてでしょうか?」
私と木下さんが、首を傾げていると、急に扉が開き、
「ふっふっふ、それは君たち二人の頑張りだよ。」
「店長!」
「どういう意味です?」
「これを見て」
とスマホの画面を見せてきた。画面には、『アネモネ』の評価とコメントが書いてあった。
11/21(月)12:57
Q115:最近また、旨さが増した。
11/21(月)12:57
Acer:店員がキレイな人が多い上に、メシも上手くてサイコー以外ない
11/21(月)12:58
天気屋:マジで行かないと損損
等とコメントがあった。でも、全く理解できなかったので、
「これがなにか?」
「このコメントの日付は、木下ちゃんと言葉ちゃんが働き始めてからだよ。」
「あ!確かに、私と言葉ちゃんが働き始めた時だ。」
「そうですね。でも、変わったことって何がありますかね?」
「それは、うちにもわかんないな~」
と私と木下さんが?マークを浮かべていると、楓さんが、
「二人が周りの人より頑張ってるからだと思うよ。」
と言いながら、私と木下さんの頭を撫でた。そして、
「さぁ、バイトも終わったんだし、帰りな」
「「は~い」」
そう言って、一緒に店を出た。
 私は、帰りに自販機で買ったジュースを飲みながら、
「今日も大変だったな~でも明日は、定休日で休みだしゆっくり本を書こうかな。」
そう独り言を呟きながら帰った。
 家に着いて、
「ただいま~」
「おかえり~バイトおつかれ」
「うん、お風呂入ってくる。」
「うん、ゆっくり浸かりな」
そう言って、母さんは私の持っていた荷物を取って、リビングに持っていってくれた。私は、お風呂場に行った。
 湯船に浸かって、
「ふぅ~疲れたな~」
と肩まで浸かっていた。3週間前からバイトを始めて、大分慣れてはきていた。しかし、運動をあまりしていなかったので、体力はまだまだ足りていなかった。
『明日からウォーキングでもしようかな。』
そう考えながらお風呂から上がった。
 自室に行って、本を読んでいた。たまに、本を読んで小説の参考にしていた。
『この言葉には、こういう使い方があったのか~』
そう思って、メモをしながら読んでいた。この時間が、一番リラックスできている時間だ。
『毎日勉強みたいなのに、リラックスできているって変かな?』
すると、電話がなった。
『木下さん?』
1週間ほど前に連絡先を交換していた。
「どうしましたか、木下さん」
「もしもし、言葉ちゃん?今何してるの?」
「今は、小説を読んでますよ。」
「へぇ、読書家なんだね。」
「いえ、それよりどうしたんです。こんな時間に」
「あっそうだ。来週の土曜日にさ一緒に遊びに行かない。バイトなかったよね。」
そう言われ、カレンダーを見た。確かに、カレンダーには何も記載されていなかった。
「えぇ、大丈夫ですよ。」
「本当に、やった~」
電話越しで凄くはしゃいでいたのがわかった。
『そんなに嬉しかったのかな?』
と思っていた。すると、
「いや~言葉ちゃんの私服姿を拝みたかったんだ。」
「へ?」
「じゃあ、また明後日」
そう言って、電話が切れた。私は、
「そんなに魅力なんて私にはないんだけどな~」
と独り言を呟いて、読書を再開した。

         翌日
 私が登校していると、後ろから、
「おはよう、神崎さん」
「おはようございます。伊吹さん」
と伊吹さんから声をかけられた。伊吹さんは、私の顔を見て、
「バイトには慣れた?結構大変でしょう。」
「まぁ、大変ですけど、充実してますね。」
「それは良かった。俺の手伝っている日とは被んないからわかんないけど、母さんはぶち評価してたよ。」
「本当ですか。良かったです。」
「あぁ、昨日なんか酒飲みながら『言葉ちゃんがね~』とか言いながら三時間ぐらい喋ってたよ。」
「そうでしたか。」
と喋っていると、昨日言われたことを思い出し尋ねてみた。
「そういえば、一つ聞きたいんですけど」
「何?」
「私の私服って、変ですかね。」
「どうしてそう思ったの?」
「昨日、『私服姿を拝みたかったんだ』って言われたので、変だったかな~と思いまして」
と私は、伊吹さんに聞いた。すると、
「いや、全然変じゃなかったよ。むしろ!」
と肩を掴まれてから言われた。伊吹さんは、「はっ」として、
「ご、ごめん」
「いえ、むしろ何です?」
「いや、忘れてくれ。兎に角、全く変じゃないから安心して」
「そうですか、それなら良かったです。」
そう笑顔で言うと、伊吹さんは、
「あっ、今日朝練いかなきゃ、じゃ」
「はい頑張って下さい。」
そうして、伊吹さんと分かれた私は、教室に向かった。

 神崎さんと分かれて、部室に行った。
「あっぶねぇ、ぶち好みだったとか言えるわけ無いじゃん。」
すると、
「な~にブツブツ言ってんだよ。」
とひとつ上の宮田先輩に言われた。宮田先輩は、一年の頃インターハイでベスト4に入るぐらいの実力者だ。そして、俺と同じく100メートルの選手だった。
『全国トップを取るには、この人には勝たねぇとな』
と闘争心に火がついていた。なので、
「いえ、『先輩は越えないと話にならないな。』と思っていただけですよ。」
「なら今日勝負するか?今日は、自主練だしな。」
「良いんですか?」
「まっ、俺に勝つなんて不可能だからいいんだよ。」
と言いながら、荷物を置いてグラウンドに行った。俺もそれを追いかけるように行った。

 私は、小説を書いていた。
『この時間は、誰もいないから集中してかけるんだよな~』
そう思っていた。でも、
「おはよう、神崎ちゃん」
「お、おはようございます。中井さん」
「小説書いてるの?」
「はい」
「どんなジャンルなの?」
そう、最近は中井さんが妙に話しかけてくるようになった。中井さんは、バレー部に所属していて、長身でスタイルもよく皆から羨ましがられていた。そんな人とどうして話すようになったのかというと、

           2週間程前
 私はバイトをしていた。この日は、いつもに比べて人が少なかった。
「ありがとうございました。またのご来店を」
そう言って、机を片付けていた。その時、長身の女性が勉強をしているのが目に入った。その女性は、凄く悩んでいたので、
「お客様、どうかなさいましたか?」
「あっ、いや~ここの問題が分かんなくて」
そう言いながら、耳をかいていた。私は、その問題をみて、
「この問題はですね。本文をちゃんと読めば解けるはずですよ。おそらく、注目するところがわからないだけですよ。」
「ん~あっここか、ありがとう店員さん」
「いえ、では私は戻ります。」
「あのさ、店員さん」
「ご注文でしょうか?」
「いや、名前教えて」
私は、また会うかどうかもわからない他人だと思ったので、
「神崎言葉といいます。」
「私は、中井歩だよ。」
「では、私は戻りますね。」
そう一礼をして、厨房の方に戻った。
 次の日、教室に行って荷物をおろした。すると、珍しく誰がすぐにやってきた。そして扉が開き、
「あれ?神崎ちゃん?」
「えっと…中井さん?」
とすぐに出会うことになった。

 その日から、中井さんは私に話しかけてくるようになった。
「それで妹がさ~って聞いちょる?」
「はい、妹さんが何です?」
「そうそう妹が、来週から友達の家に泊まりに行くんだよ。羨ましいな~と思ってさ」
「どうしてです?」
「私さ、そこまでする友達も時間も無いけんね。」
「そうなんですね。」
そう喋っていると、チャイムが鳴った。

          放課後
 私は、放課後になってすぐに家に帰った。そして、学校の体操服に着替えて、ウォーキングに行った。
『ウォーキングってどの位の時間すればいいのかな?』
と思いながら、学校近くまで来た。
『なんだろう?』
とグラウンドの方を見た。そこには、周りを覆い隠すぐらいの人集りができていた。そして、私に気づいた中井さんが、
「神崎ちゃ~んこっち来なよ。」
「中井さん?何です?この人集りは」
「今から伊吹と宮田先輩が100メートル走で勝負するんだって」
「そうなんですね。」
「というか、なんでジャージ姿?でも、これもこれで可愛いね。」
と言い、中井さんはまじまじと見てきた。私は、
「ウォーキングをしてたんで」
「ヘェ~そろそろ始まるみたいだよ。」
と中井さんが、グラウンドの方を見た。私もつられてグラウンドの方を見た。

 俺は、朝に言ったことを少しばかし後悔した。先輩と戦うことでなく、話した相手にだ。俺は、片井にこの勝負のことをついつい話してしまった。その結果、先生を含めて、ほぼ全校生徒が集まってしまった。
『すんげぇプレッシャー感じるんじゃけど!』
と心のなかで叫んでいた。すると先輩が、
「こりゃ、思ったより人が集まったな。お前ぶち緊張してんな。」
「まぁ、アップをきつめにして体を温めてきます。」
「ああ、十分後に勝負するか。」
「はい!」
そう言って、早速走り込んだ。そして、柔軟をしたりしていた。

          十分後
「ふぅ~負けませんからね。宮田先輩」
「負けても問題ないぞ。俺に勝てるやつなんて、そうそう居ないからな。」
そう言って、握手をしたあとコーチが、
「それじゃあ、位置につけ!」
と言われ、それぞれ位置について、
「オンユアマーク、セット」
そう言って、パーンッという音がなったのと同時に、一勢に走り始めた。走り出しは、ほぼ同時で先輩の少し後に俺はついていた。それでもなかなか距離が詰められないでいた。
『クソッ後ちょっとなのに、なかなか埋まらたさねぇ』
残り50メートルの地点に来て、先輩が更に加速した。俺との距離がどんどんひらいていく。
『もう追いつけない。負け…』
そう思った。しかし、
「伊吹さん、頑張って!」
と聞き覚えのある声が、届いてきた。そして、俺も更に加速した。
『何だ、この筋肉全てが高鳴っている感覚は!』
そう思っているうちに、先輩と並ぶまでに追いついた。
あと10メートル…5…4…3…2…1
とほぼ同時にゴールした。
「ハァハァ…」
「ハァハァ…」
と俺も宮田先輩もその場に倒れ込んだ。そして、タイムを測っていたマネージャーが、
「宮田先輩、9.98」
「「「「「おぉ~」」」」」
高校生最高記録を宮田先輩は出した。大会であれば、確実に勝つタイムだった。
『流石に、負けたか』
そう思った。
「伊吹、9.96」
「え?」
「「「「「オォーー!!」」」」」
「この勝負は、伊吹加恵流の勝利です。」
そう言われ、俺もすべての力が抜けた。宮田先輩は、笑顔で、
「はぁ~お前に負けるとはな。本番では、こうは行かないからな。」
と手を差し伸べてくれた。そして手を取り、立ち上がった。すると周りから、特大の拍手喝采が鳴り響いた。俺は、辺りを見渡した。他の人の顔は霞んで見えた。俺には、一人しか見えなかった。
『やっぱり、神崎さんが居たのか。』
そう思いながら、この奇跡は、あの人が呼んでくれたのだと思った。

 伊吹さんの勝負をみて、私は改めて感動した。
『どんな強敵にも、果敢に挑むなんて…』
「なんか主人公みたいだな~」
「誰が主人公みたいなの?」
「ウワッ、伊吹さん」
「神崎さん、さっきはありがとう。」
「へ?」
私は、何のことだろうと分からなかった。でも、伊吹さんは、
「俺のこと応援してくれたんじゃないの?勘違いだった。」
「いえ、一度だけ大きな声で言いましたよ。」
「やっぱり…あのさ!」
と伊吹さんは、珍しくもじもじしながら、
「来月の15日に大会があるんだけど、応援しに来てくれないかな?」
「え?」
「いや、何か用事があるならいいんだけど、駄目かな?」
そう言って、伊吹さんは頭を下げた。なので、
「何も用事はないはずなので、構いませんよ。」
「本当に!ありがとう」
と笑顔で言われた。その笑顔は、とても私には眩しすぎた。
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