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第三章
死の真相
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(え…………?今なんて言ったの?)
胸がギシギシと嫌な音を立てて鳴る。そして思い出すのはカイルの優しい微笑み。
(嘘だ。そんなの嘘に決まってる!)
「カイルは真実を知らない。知る必要も無いが」
「どういう事だ?シンシアは病気で亡くなったと言っただろ」
「そういう事にしているだけだ。真実では無い」
「何があったんだ」
クラークの悲痛を訴えるような重い声が聞こえる。
「あれは二十二年前の事────
その日カイルはメディウム城の中庭で魔法の練習をしていた。傍らにはそれを見守るシンシアがいた。当時のカイルは魔力が安定せず、岩に向けて闇雲に火を繰り出すばかり。しかし魔力が安定していないと思ってもみない方角に魔法が出てしまう事がある。それが…まさか……」
部屋の中で何が起きているのかミルディリアには分からない。クラークの表情でさえも。
それでも声色から手に取るように分かった。この話しがクラークにとって辛く苦しいものだと。
「カイルが出した望まぬ炎は……シンシアを襲ったんだ………炎に覆われ、のたうち回るシンシアにカイルは成す術もなくただ呆然としていた。私は知らせを聞いてその場についてすぐに火を消した。
……しかし遅すぎた。
助けることはできなかった……
カイルはショックでその時の記憶を失っている。だからシンシアの死を『病死』と告げ、この先何も思い出す事が無いようイグニスへ行かせたんだ」
「そんな事が……だが、それは事故だろ」
「ああ。だがアデラはこの事実を知っている。兼ねてからフレドリックに継がせたいと言っているのに、カイルが継ぐとなればこの事をカイルに言うだろう」
「それを懸念してるのか」
「もうやめよう。この話しは私とアデラしか知らないんだ。誰にも言わないでくれ」
この後二人はお互いの子供自慢を始めた。ミルディリアは力無くその場を離れシンシアのお墓へ向かった。お墓には今日も沢山の花が供えられている。
(カイル様が呆然としてただけ?そんなはずがない……)
「ねえ、シンシア様。あの話しは嘘ですよね?」
風の吹かない日もシンシア様のお墓はカサブランカの香りがする。
ファーストキスの思い出の香り。
「嘘に決まってる!」
「あれー?おーい!お姉ちゃーん!」
ふと頭上からの声に顔をあげると孤児院の女の子が手を振っている。
「あそぼー!あそぼー!」
ミルディリアは微笑んで女の子の元へ向かった。今はお絵描きの時間のようで、手を振っていた子以外は熱心に絵を描いている。
「あなたは描かないの?」
「わたしすごくヘタなの!だからかかない!」
ぷいっとそっぽを向く女の子。
カイルの下手くそな絵を思い出すと無性に泣きたくなった。
「下手でも想いを込めればいいんだよ」
女の子の前には描きかけの絵がある。
「これはお花でしょ?とっても上手じゃない!」
(少女よ、カイル様より上手いぞ!)
「じょーずじゃない!わたしの絵はカイルさまと似てるっていつも言われるもん!」
女の子が指差した先には壁に貼られた絵があった。その中の一枚に見覚えがあった。
「こ、これはカイル様の描いた物ですか?」
ミルディリアは笑いを堪えて先生に聞いた。
「ええ。これはカイル様が幼少の頃に描かれた絵です」
(今と変わらないんですけども!)
女の子は今も駄々をこねている。先生はそれを宥めながらミルディリアに言った。
「カイル様がシンシア様を描かれた最後の絵なんです」
「へぇ……」
(あれ…?この絵と似た物をどこかで見たことが…)
ミルディリアの心臓はどくんどくんと大きな音を立て始めた。
「これは?」
恐らくシンシアと思われる人物の左手には緑色の棒ような物が描かれている。
「それはカサブランカじゃないですかね?シンシア様が好きだった花を描かれたのではないですか?」
確かによく見てみると緑色の先には白い花が描かれていた。紙が白いのでよく見えないが。
(あの時…一瞬だけ見た絵…あの絵の女性もカサブランカを持ってた?うぅ…どうだっただろう…もっとちゃんと見ておけば良かった)
「これは?」
シンシアの隣には赤いクレヨンの上から黒く塗られた何かが二つ描かれている。
「それは…クラーク国王様とカイル様だそうですよ。カイル様は人を描く時、何故か髪の毛から描かれるんです」
先生は「描いてる途中で飽きてしまったんでしょうね」と微笑んでいる。『真紅』を表す赤の上に塗られた黒の塊。
(あの絵にもこの変な塊はあった!
ヘレンさんの家にあった絵……
あれがカイル様が描いたものだとしたら…)
ミルディリアは今だに駄々をこねる少女の頭を撫でた。
「お姉ちゃんはこの絵とっても好きだよ!だから下手だなんて思わないで描いてね!」
「お姉ちゃん?」
ミルディリアはその場を後にした。
すぐに向かったのは父の元。
扉の向こうからは笑い声が聞こえる。
────バァン!!
ノックもせずに扉を開けたミルディリアに驚くクラークと呆れるベルンハルド。
「ミルディリア、お前は…」
「クラーク様、大変申し訳ありません。席を外していただけませんか?ってゆーか外して下さい」
「あ、ああ…」
「ミルディリア!何てことを…!」
クラーク様が退室する間もベルンハルドはミルディリアに説教をしていたが、扉が閉まると同時に発したミルディリアの発言に項垂れた。
「防音の結界を張って下さい。護り手の結界ではなく」
「……クラークめ!間違えてたのか!」
「お父様、シンシア様は生きてます」
「何を言ってるんだ」
「ヘレンさんの家には子供が描いた絵が飾られていました。あれはカイル様が描いた絵です!」
「……………ヘレンがシンシアだと?」
「そうです!クラーク様かアデラ様がカイル様を陥れる為にシンシア様を殺した事にしているんです!」
「だが、お前はヘレンを『お婆さん』だと言ったよな?幾らなんでも…」
ヘレンの見た目から年齢を考えればフェリシア様の方が近い。孫の絵を持っている、とも考えられるがフェリシア様は魔法が使えなかったはず。強い火の魔力を持っていたのはシンシア様。そしてヘレンも同様に。
「それも仕組まれていたとしたら?」
既にスタンレーの時に話していた魔法陣の話しをもう一度した。代償の話しをするとベルンハルドの眉間の皺が更に深くなった。
「シンシア様を殺す事の代償を恐れ『老いる事』を願った誰かがいたとしたら?突然老いたシンシア様にカイル様は気付きませんよね?」
「だが、聞いていたんだろう?焼死したんだぞ?」
「焼死なんて顔がはっきりと分からないような死に方こそ怪しい!身代わりを立てていたと考えられませんか?そもそもシンシア様に防げないはずがないんです!シンシア様は魔法が使えた。だったら…たった六歳の子供の、しかも誤って出たような魔法を防げないはずがない!」
ミルディリアは身を持って知っていた。誤って出る魔法がどの程度の威力を持っているかを。それは勿論ベルンハルドも。
「それは確かに私もおかしいとは思ったが…シンシアは生まれつき体が弱かった。もしも発作が起きたタイミングと合ったとしたら有り得ない話しではない。……たかが絵一枚でヘレンがシンシアだと決めるのは早いだろう」
「でしたら確かめに行きましょう。ヘレンさんの元へ」
「ならん」
「何故ですか?!本人に聞くのが一番手っ取り早いじゃないですか!それにお父様がいればもしも護り手と出会しても…」
「私はその結界の中には入れん」
「え?!なんで?!だって護り手でしょ?!」
「他の護り手が張った結界には入れん」
「そんな………」
「ミルディリア。冷静になれ。感情的になるな」
「でも!カイル様の無実を晴らしたいんです!」
「一連の事件をカイルがやっているとしたら?」
「護り手の能力を知らないのに?」
「…………そうだったな。分かった。護り手について詳しく調べよう。他の誰かとも限らん」
「そんな悠長な事を言ってる場合ですか!クラーク様が護り手の話しから怪しんでシンシア様を殺すかもしれない!」
「ミルディリア、私にはそこも結びつかんのだよ。クラークはシンシアの事を心より愛していた。シンシアの死を誰よりも悲しんだのはクラークだ」
「じゃあ、じゃあ、アデラ様が護り手という可能性は無いんですか?!」
「それは無い」
「……………」
「シファから聞いたぞ。ヘレンの件に関して仙人にお前には時期尚早だと言われたんだろ?」
「……………」
「ミルディリア。落ち着くんだ。時期を待とう。必ず救える時が来るはずだ」
「ガオルは私と一緒に出てこれた…じゃあ入る事もできるはずです!」
「ずっと黙っていたのはその事を考えていたのか……」
ベルンハルドは項垂れるしかなかった。
「私と手を繋いでいればきっと入れますよ!」
「そんな簡単に行くはずないだろう!」
「やってみないと分かんない!いいんですか?このまま放っておいたら私一人で行きますよ!」
「ミルディリア!危険だと言われただろう!」
「それは十分わかっています!もしもお父様が入れなかったら直ぐに出てくるから!だからお願い!!」
ミルディリアの脅しをベルンハルドは受け入れるしかなかった。
娘は一度言い出したら聞かない。一人で勝手に行かれるよりはマシだろうと渋々引き受ける事になった。
***
川辺から数分歩いた何でもない森の中、ミルディリアは万が一に備え片手に剣を、片手には父の手を握りしめていた。
「絶対にこの辺なんです!」
「ミルディリア……もう諦めよう。やはり無理なんだよ。ガオルの時は運が良かったのだろう」
もう何十分もそのままの状態で二人はただその周辺をうろうろしているだけだった。
ヘレンに会えず。ヘレンのいる小屋にすら辿り着けていないまま。
「拠点を変えたのかもしれないな…」
「何故?……もしかして!ガオルがここから抜け出した事を知って…?」
「そうかもしれんな」
「ガオルが危ない!」
「それは恐らく大丈夫だろう。ガオルが帰ってからシファはずっとガオルの行動を把握している。恐らく最初から警戒していたのだろう」
「さすがシファ……でもヘレンさんは…もしかしたらガオルを逃がした疑いをかけられてしまったかも…」
「あり得るな…ミルディリア。お前は誰も彼も助けようと考えすぎだ。ガオルが無事だっただけでも良かったと思おう。ヘレンがシンシアだと決まったわけではないんだ」
「お父様………」
ミルディリアは剣を収め唇を噛み締めた。
その姿にベルンハルドは胸を痛めた。だが今はどうにもならない。そして長くここに居るのは危険だ。
「さあ、帰ろう」
「………ごめんなさい」
ベルンハルドの背中に消え入りそうなミルディリアの声が聞こえた。
優しすぎる娘にベルンハルドは痛む胸を抑えて苦笑するしかなかった。
胸がギシギシと嫌な音を立てて鳴る。そして思い出すのはカイルの優しい微笑み。
(嘘だ。そんなの嘘に決まってる!)
「カイルは真実を知らない。知る必要も無いが」
「どういう事だ?シンシアは病気で亡くなったと言っただろ」
「そういう事にしているだけだ。真実では無い」
「何があったんだ」
クラークの悲痛を訴えるような重い声が聞こえる。
「あれは二十二年前の事────
その日カイルはメディウム城の中庭で魔法の練習をしていた。傍らにはそれを見守るシンシアがいた。当時のカイルは魔力が安定せず、岩に向けて闇雲に火を繰り出すばかり。しかし魔力が安定していないと思ってもみない方角に魔法が出てしまう事がある。それが…まさか……」
部屋の中で何が起きているのかミルディリアには分からない。クラークの表情でさえも。
それでも声色から手に取るように分かった。この話しがクラークにとって辛く苦しいものだと。
「カイルが出した望まぬ炎は……シンシアを襲ったんだ………炎に覆われ、のたうち回るシンシアにカイルは成す術もなくただ呆然としていた。私は知らせを聞いてその場についてすぐに火を消した。
……しかし遅すぎた。
助けることはできなかった……
カイルはショックでその時の記憶を失っている。だからシンシアの死を『病死』と告げ、この先何も思い出す事が無いようイグニスへ行かせたんだ」
「そんな事が……だが、それは事故だろ」
「ああ。だがアデラはこの事実を知っている。兼ねてからフレドリックに継がせたいと言っているのに、カイルが継ぐとなればこの事をカイルに言うだろう」
「それを懸念してるのか」
「もうやめよう。この話しは私とアデラしか知らないんだ。誰にも言わないでくれ」
この後二人はお互いの子供自慢を始めた。ミルディリアは力無くその場を離れシンシアのお墓へ向かった。お墓には今日も沢山の花が供えられている。
(カイル様が呆然としてただけ?そんなはずがない……)
「ねえ、シンシア様。あの話しは嘘ですよね?」
風の吹かない日もシンシア様のお墓はカサブランカの香りがする。
ファーストキスの思い出の香り。
「嘘に決まってる!」
「あれー?おーい!お姉ちゃーん!」
ふと頭上からの声に顔をあげると孤児院の女の子が手を振っている。
「あそぼー!あそぼー!」
ミルディリアは微笑んで女の子の元へ向かった。今はお絵描きの時間のようで、手を振っていた子以外は熱心に絵を描いている。
「あなたは描かないの?」
「わたしすごくヘタなの!だからかかない!」
ぷいっとそっぽを向く女の子。
カイルの下手くそな絵を思い出すと無性に泣きたくなった。
「下手でも想いを込めればいいんだよ」
女の子の前には描きかけの絵がある。
「これはお花でしょ?とっても上手じゃない!」
(少女よ、カイル様より上手いぞ!)
「じょーずじゃない!わたしの絵はカイルさまと似てるっていつも言われるもん!」
女の子が指差した先には壁に貼られた絵があった。その中の一枚に見覚えがあった。
「こ、これはカイル様の描いた物ですか?」
ミルディリアは笑いを堪えて先生に聞いた。
「ええ。これはカイル様が幼少の頃に描かれた絵です」
(今と変わらないんですけども!)
女の子は今も駄々をこねている。先生はそれを宥めながらミルディリアに言った。
「カイル様がシンシア様を描かれた最後の絵なんです」
「へぇ……」
(あれ…?この絵と似た物をどこかで見たことが…)
ミルディリアの心臓はどくんどくんと大きな音を立て始めた。
「これは?」
恐らくシンシアと思われる人物の左手には緑色の棒ような物が描かれている。
「それはカサブランカじゃないですかね?シンシア様が好きだった花を描かれたのではないですか?」
確かによく見てみると緑色の先には白い花が描かれていた。紙が白いのでよく見えないが。
(あの時…一瞬だけ見た絵…あの絵の女性もカサブランカを持ってた?うぅ…どうだっただろう…もっとちゃんと見ておけば良かった)
「これは?」
シンシアの隣には赤いクレヨンの上から黒く塗られた何かが二つ描かれている。
「それは…クラーク国王様とカイル様だそうですよ。カイル様は人を描く時、何故か髪の毛から描かれるんです」
先生は「描いてる途中で飽きてしまったんでしょうね」と微笑んでいる。『真紅』を表す赤の上に塗られた黒の塊。
(あの絵にもこの変な塊はあった!
ヘレンさんの家にあった絵……
あれがカイル様が描いたものだとしたら…)
ミルディリアは今だに駄々をこねる少女の頭を撫でた。
「お姉ちゃんはこの絵とっても好きだよ!だから下手だなんて思わないで描いてね!」
「お姉ちゃん?」
ミルディリアはその場を後にした。
すぐに向かったのは父の元。
扉の向こうからは笑い声が聞こえる。
────バァン!!
ノックもせずに扉を開けたミルディリアに驚くクラークと呆れるベルンハルド。
「ミルディリア、お前は…」
「クラーク様、大変申し訳ありません。席を外していただけませんか?ってゆーか外して下さい」
「あ、ああ…」
「ミルディリア!何てことを…!」
クラーク様が退室する間もベルンハルドはミルディリアに説教をしていたが、扉が閉まると同時に発したミルディリアの発言に項垂れた。
「防音の結界を張って下さい。護り手の結界ではなく」
「……クラークめ!間違えてたのか!」
「お父様、シンシア様は生きてます」
「何を言ってるんだ」
「ヘレンさんの家には子供が描いた絵が飾られていました。あれはカイル様が描いた絵です!」
「……………ヘレンがシンシアだと?」
「そうです!クラーク様かアデラ様がカイル様を陥れる為にシンシア様を殺した事にしているんです!」
「だが、お前はヘレンを『お婆さん』だと言ったよな?幾らなんでも…」
ヘレンの見た目から年齢を考えればフェリシア様の方が近い。孫の絵を持っている、とも考えられるがフェリシア様は魔法が使えなかったはず。強い火の魔力を持っていたのはシンシア様。そしてヘレンも同様に。
「それも仕組まれていたとしたら?」
既にスタンレーの時に話していた魔法陣の話しをもう一度した。代償の話しをするとベルンハルドの眉間の皺が更に深くなった。
「シンシア様を殺す事の代償を恐れ『老いる事』を願った誰かがいたとしたら?突然老いたシンシア様にカイル様は気付きませんよね?」
「だが、聞いていたんだろう?焼死したんだぞ?」
「焼死なんて顔がはっきりと分からないような死に方こそ怪しい!身代わりを立てていたと考えられませんか?そもそもシンシア様に防げないはずがないんです!シンシア様は魔法が使えた。だったら…たった六歳の子供の、しかも誤って出たような魔法を防げないはずがない!」
ミルディリアは身を持って知っていた。誤って出る魔法がどの程度の威力を持っているかを。それは勿論ベルンハルドも。
「それは確かに私もおかしいとは思ったが…シンシアは生まれつき体が弱かった。もしも発作が起きたタイミングと合ったとしたら有り得ない話しではない。……たかが絵一枚でヘレンがシンシアだと決めるのは早いだろう」
「でしたら確かめに行きましょう。ヘレンさんの元へ」
「ならん」
「何故ですか?!本人に聞くのが一番手っ取り早いじゃないですか!それにお父様がいればもしも護り手と出会しても…」
「私はその結界の中には入れん」
「え?!なんで?!だって護り手でしょ?!」
「他の護り手が張った結界には入れん」
「そんな………」
「ミルディリア。冷静になれ。感情的になるな」
「でも!カイル様の無実を晴らしたいんです!」
「一連の事件をカイルがやっているとしたら?」
「護り手の能力を知らないのに?」
「…………そうだったな。分かった。護り手について詳しく調べよう。他の誰かとも限らん」
「そんな悠長な事を言ってる場合ですか!クラーク様が護り手の話しから怪しんでシンシア様を殺すかもしれない!」
「ミルディリア、私にはそこも結びつかんのだよ。クラークはシンシアの事を心より愛していた。シンシアの死を誰よりも悲しんだのはクラークだ」
「じゃあ、じゃあ、アデラ様が護り手という可能性は無いんですか?!」
「それは無い」
「……………」
「シファから聞いたぞ。ヘレンの件に関して仙人にお前には時期尚早だと言われたんだろ?」
「……………」
「ミルディリア。落ち着くんだ。時期を待とう。必ず救える時が来るはずだ」
「ガオルは私と一緒に出てこれた…じゃあ入る事もできるはずです!」
「ずっと黙っていたのはその事を考えていたのか……」
ベルンハルドは項垂れるしかなかった。
「私と手を繋いでいればきっと入れますよ!」
「そんな簡単に行くはずないだろう!」
「やってみないと分かんない!いいんですか?このまま放っておいたら私一人で行きますよ!」
「ミルディリア!危険だと言われただろう!」
「それは十分わかっています!もしもお父様が入れなかったら直ぐに出てくるから!だからお願い!!」
ミルディリアの脅しをベルンハルドは受け入れるしかなかった。
娘は一度言い出したら聞かない。一人で勝手に行かれるよりはマシだろうと渋々引き受ける事になった。
***
川辺から数分歩いた何でもない森の中、ミルディリアは万が一に備え片手に剣を、片手には父の手を握りしめていた。
「絶対にこの辺なんです!」
「ミルディリア……もう諦めよう。やはり無理なんだよ。ガオルの時は運が良かったのだろう」
もう何十分もそのままの状態で二人はただその周辺をうろうろしているだけだった。
ヘレンに会えず。ヘレンのいる小屋にすら辿り着けていないまま。
「拠点を変えたのかもしれないな…」
「何故?……もしかして!ガオルがここから抜け出した事を知って…?」
「そうかもしれんな」
「ガオルが危ない!」
「それは恐らく大丈夫だろう。ガオルが帰ってからシファはずっとガオルの行動を把握している。恐らく最初から警戒していたのだろう」
「さすがシファ……でもヘレンさんは…もしかしたらガオルを逃がした疑いをかけられてしまったかも…」
「あり得るな…ミルディリア。お前は誰も彼も助けようと考えすぎだ。ガオルが無事だっただけでも良かったと思おう。ヘレンがシンシアだと決まったわけではないんだ」
「お父様………」
ミルディリアは剣を収め唇を噛み締めた。
その姿にベルンハルドは胸を痛めた。だが今はどうにもならない。そして長くここに居るのは危険だ。
「さあ、帰ろう」
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ベルンハルドの背中に消え入りそうなミルディリアの声が聞こえた。
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