ボイス~常識外れの三人~

Yamato

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田舎者

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バブル期の真っ只中。

山咲 伸一は、旭川空港から羽田に向かっていた。天気は晴れ。風もなく新社会人の船出を祝ってるようだ。
「お飲み物は何になさいますか?」
「コーヒーを…」
スチュワーデスがソッと差し出す。

これから東京という想像もしえない場所での生活が始まる。
(高速に信号あるってホントかな…)
面接で二回ほど東京に行ったが、ビルと人の群れに異様さを感じた。

羽田に着くと、モノレール乗り場に向かう。
これも新鮮だ。
コンクリートのレール一本の上で、電車が走るなんて滑稽にも見える。
車内はスーツと旅行者で満タンだ。
ビルのスレスレを通る感覚は、内心ヒャッとするものがある。
慣れてる人は平然としてる。

浜松町で降りて山手線に乗り換え、東京駅で降りる。そこから徒歩で大手町駅から東西線で行徳に向かった。
(面倒くせぇなぁ…)
車社会の伸一は、微妙に繋がらない路線図を見ながら東京駅を歩いた。

(歩くの早いな…)
鞄だけを持って歩くサラリーマンのスピードが全然違う。
そして、迷路のような東京駅をウロウロしながら、やっと大手町駅に辿り着いた。
その時、一人の女性と肩がぶつかった。
「あっ、すいません」
「ちょっと!どこ見て歩いてんのよ!」
綺麗で派手な顔立ちだが、気が強いのは口調で分かる。
「一応、謝ってるんだけど…」
「こういう場合、男性が謝るものでしょ?」
「だから、謝ってんでしょ」
「その態度が気に入らない!」
「そっちこそなんだよ!謝ってるのにイチャモンつけるのが東京の人間か?」
「ハァッ⁉︎ アンタこそなによ、田舎者が東京ウロウロしてんじゃないわよ!」
「なるほどね、東京はアホの集まりなんだなぁ…謝っても大人の対応すら出来ない頭の悪いバカ女しかいないんだな」
「なんですって!アンタみたいな田舎臭い人間がいていいとこじゃないのよ。さっさと田舎に帰りなさいよ!」
「相手にしてらんね」
伸一はその場を立ち去ろうとした。
「待ちなさいよ!」
その女は追いかけて、鞄のヒモを引っ張った。
「なんだよ!バカ女の相手してるほどヒマじゃないの」
「謝りなさいよ」
「何がだよ、さっき謝ったろ?」
「違うわよ、侮辱したんだから謝りなさいよ」
伸一はため息を吐いた。
「ハイハイ、どーーも、すんません」
女の顔が真っ赤になる。
「…そんな謝り方ないわよ」
「えろう、スンマヘンなぁ!アバズレさん」
伸一はそのまま走り去った。
遠くで「バカヤロー!」と聞こえた。

ホームに降りて電車を待った。
(…たく、なんだあの女は?)
遠くから煩い音が近づいてきた。
車輪の摩擦音が聞こえた。
大学を札幌で過ごした伸一にとって、地下鉄は珍しくないが、鉄の車輪の煩さには耳を塞いだ。札幌の地下鉄はゴムタイヤなのだ。

車内も煩い。
だがみな平然としている。中には寝ている人もいた。
東西線は西葛西から地上に出る。
(あらら…地上に出たよ…地下鉄なのに)
終点二つ手前の行徳に着いた。
(寮は…どっちだ?)
案内図を見ながら交番で聞く。
「あの入船ってどっちですか?」
「あぁっ…入船なら海に向かって真っ直ぐ歩いて、レストランを左手に曲がって五分くらいだね。ここならコンビニが角にあるからそこを右に曲がれば着くよ」
ベテランらしき警官が少々、面倒くさそうに案内した。
(また歩くのかよ…)
だが風景は面白かった。
旭川の周辺の駅で、こんなに賑わってる所は無い。
商店街もパチンコ屋も、コンビニもそれなりにあってこの中で充分な生活が出来た。

歩く事15分。
やっと寮に着いた。
寮は借り上げのアパートだ。
二階建ての12人が住める規模で、人事部の先輩の話だと伸一の同期で満室とか。

届けられたカギで103号室を開けた。
1LDKで畳部屋だが、リビングは八畳ある。
風呂トイレも別でキッチンもそれなりに広い。使い勝手は良さそうだ。

(今日からここが根城か…)
窓には小さなベランダがあり南向きだ。
広いパーキングが向かいだから、ふんだんに日光がさしてくる。

午後には荷物がドカドカと入り、一日中整理に追われた。
歩いてすぐの所にコンビニと弁当屋がある。
独身には有難い存在だ。

寝場所と服の整理、そして日用品を揃えて買い物に出かけた。
「ヤマシン!」
コンビニ手前で聞き慣れた声がした。
大学同期の桑原 勉だ。
バブル期は売り手市場で、どこの企業も「青田買い」で新人を確保していた。
「遅いな」
「いや、寝坊して一便遅れたわ」
「そっか」
「荷物は?」
「もう届いたよ、ひと段落した」
「オレは明日だよ」
「今晩、どーするんだ?」
「駅前のホテルに泊まるよ。今日は下見みたいなもんだ」
「ふーん…」
「飲みに行かね?」
「あー、いいよ」

二人は駅前の居酒屋に入った。

焼き鳥、冷奴、ホッケの開き、お新香に
ビールを頼んだ。
「カンパァーイ」
「ヤマシン、津田沼営業所だって?」
「そう、クワは東京営業所だよな」
「津田沼ってデカイのかな」
「何にも分からんよ」

オーダーした食べ物が運ばれたが、二人は呆然とした。
冷奴とお新香はいいとして、焼き鳥の肉は小さく、ホッケに至っては「アジ?」と言いたくなる小ささで笑ってしまった。
「これ…ホッケだよな?」
「しかもさ、パサパサだぜ。間違えてるのかな?」
店員に聞くと、やはりホッケと言われた。
「しょっぱ!何だこれ?」
伸一も一口放り込む。
「うわぁ…しょっぱ!食えるかこんなもん!」
これで七百円も取られる。
「高いよな?」
「高すぎるだろう!」
「焼き魚で、このレベルなら刺身なんて…」
「魚系はやめとこか」

二人は無難なツマミを頼んで、小さな都会の事情を知った。
「やっぱ、オレらは田舎者だな」
「ハハッ…こんな狭い場所で暮らすのかぁ」
「まぁ、やるしかないよな」

二人はそこで別れた。

水も薬臭くて飲めない。

生活でもこんなに違うものか…と庶民の驚きを感じた。

この頃は物流も充実しておらず、鮮度のいいものは、特殊ルートが無ければ手に入らない。
当然、学生だった二人に分かるはずもなく都会の事情を知った。

津田沼営業所には、同期の今井 康之と篠原 浩二も配属になった。

小さな営業所に三人の新人が入り、所内の風は一気に変わった。

伸一は、簿記の資格があるので営業以外に出納業務、そしてアルバイト管理を任されることになった。

伸一の勤めるファイオスカードは、スーパーの一大チェーンであるファイオスのハウスカードとしてクレジットカード発行と企業融資を行なっている。

会員の新規募集は、ファイオスの店頭で募集し、即時審査でパスすれば、即座に30万円までのショッピングが可能になる。

そのカード募集に、女性のアルバイトを使う。
津田沼営業所は、千葉県全土を範囲として
店への派遣を行う。
常時30名以上を確保しなければならない。

そして、アルバイト募集を随時していた。
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