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時給は千円。
当時のアルバイト時給は、楽勝で千円を超えていた。
バブル期の面白い事情である。
千円でも「安い」レベルなのだ。
キャンペーンガールと呼んでいたが、学生から社会人までいた。
評判がいいと、時給も上がるから頭の良い子は必死に働いた。
ある面接日。
伸一は風邪をひいて3日ほど休んだ。
代わりに所長が面接した。
土曜日は募集の熱い日だ。
伸一は直行で店に向かった。
体がまだ本調子ではないが、仕事には耐えられる。
朝の準備で早めに店に入った。
今日から新人二名がやってくる。
伸一含めた三名で一日中募集だ。
「おはようございます」
「おは…あぁぁっ!」
「あっ…」
目の前に…あのアバズレがいた。
目の前に…あの田舎者がいた。
そして、1人だけ状況を呑み込めない者が。
固まった。
(えっ……?)
伸一は、風邪気の残る頭で考えた。
休んだ面接日に、彼女が来たのだろう。
人手が足りないから、よほどおかしくない限り採用になる。
もちろん、所長は二人のやりとりを知らない。
「え…あ…山咲 伸一です。よろしく」
「尾美 悦子です」
そして、アバズレが目を伏せながら挨拶する。
「下田 晴美です…よろしく…」
伸一は、募集業務を淡々と説明した。
二人も真剣に聞いていた。
「では、これから始めます」
その日はセールもあり、いつもより申し込みが多かった。
それほど難しくもないので、二人はすぐに覚え、接客も良く店のスタッフ受けも良い。
交代で昼休憩。
伸一は二人を先に昼へ行かせた。
「悦子…最悪なんだけど」
「どしたの?」
「あの山咲よ、東京駅でケンカしたヤツ」
「マジで?」
「顔見て倒れそうだったわ」
「どーするのよ?」
「もう、辞めるわよ。あんなコト言われて続けられないもの」
「そっか…」
「悦子は気にしないでね」
「でもさ、感じは悪くないと思うんだけど…」
悦子には、それほどの嫌悪感が無い。
食堂でも二人は目立った。
タイプは違うが、モデルっぽいスタイルに色気が満載だ。
店のサービスマネージャーが近づく。
「やぁ、ずいぶんとキレイなアルバイトさんだね。今日から?」
「あっ、はい…」
「いやぁ、これは楽しみだよ。是非、続けて店に来てよね!」
「はぁ…」
午後もそれなりに人が来た。
夕方の終わりになって、片付けた後、伸一は晴美と悦子に話しかけた。
「二人ともお疲れ様でした。不慣れで大変でしたか?」
「いえ、大丈夫です」と悦子。
晴美は「いえ」とだけ返した。
伸一は晴美だけ呼んだ。
「ちょっといいですか?」
「…はい」
「この間の事は謝ります。まさか、こんな形で再開するとは思わなかった」
「ということは、山咲さんに非があると認めるのですね」
「ぶつかったのはワザとじゃない。ただ言葉が乱暴過ぎた事はお詫びします」
「私はあんな事言われて、許せない気持ちなんですけど…」
それなら、オマエはどうなんだよ!と思ったが我慢した。
「それはそうだと思います。だが、今日の仕事ぶりを見てお二人が必要だと感じました。わだかまりを抱えたままでは、仕事にも影響が出るから、水に流して…とは言わないけど続いてもらえませんか?」
晴美は即答しなかった。と、言うより出来なかった。
「考えておきます。失礼します」
晴美はそのままロッカーに向かった。
伸一は悦子に「聞いてます?」と尋ねたら、無言で頷かれた。
「仕事自体合わないですか?」
「いえ、そんなことありません…ただ晴美は…」
「ですよね、負担かけて申し訳ないですが、お二人の仕事ぶりを見てて、私も続いて欲しいと思いました。店のスタッフにも評判がいいと言われてます。尾美さんからも、下田さんにお願いしてくれませんか?」
「はい…言ってみますね」
翌週。
晴美の部屋の電話が鳴った。
「はい、下田です」
「ファイオスの山咲です」
「あぁ…どうも…」
「またアルバイトお願い出来ないかと…」
「……いつですか?」
「今週の土日です。尾美さんはオーケー貰ってます」
「分かりました」
晴美は何故か断れなかった。
悦子の援護射撃もあるが、キチンと詫びてきた伸一の姿に好感を持てたのが大きい。
ボォーッとしてると、また電話が鳴った。
野上 明からだ。
いわゆるセフレみたいな存在だ。
ディスコで知り合い、時々体を重ねる。
「何してんの?」
「別に、ヒマしてる」
「出てこいよ!いつもの所にいる」
「うん、わかった」
バー「ストレンジ」が会う場所だ。
野上はスマートな遊び人だ。
結婚向きではない。
スタイルも顔もいい。
DCブランドのスーツも似合う。
軽く飲んでホテルに向かう。
「あん…あっ、はぁぁぁっ…」
乳首を舐められ、野上は晴美のパンティの上からクリを刺激した。
「ここだよな」
「いやぁ…あっ、ヤダ…あん!」
晴美の股間は、否定しようないぐらい濡れていた。
「こんなに濡らして…」
「あっ、あぁっ…ばかぁ…アン、あっ」
野上のペニスを咥え、何度も行き来させる。
「晴美は口が小さいから今一つだなぁ」
フェラもそこそこに挿入に移る。
野上自身が晴美を貫く。
「はぁぁぁっ!あっあっ」
腰が動く。
時間にして十分ぐらいで野上が果てた。
晴美はイッてない。
いつもそうだった。
「良かったろ?」
「……うん」
ホントのことは言えない。
不機嫌になる。
野上は自分が「最上の男」というプライドがある。
終わったら、先にシャワー浴びてタバコを吸う。抱きしめて「愛してる」なんて事はしない。
晴美は何故、野上と寝るのか分からなかった。
ただスマートさはカッコいいと思う。
しかし、それだけだった。
「なんか美味いもんでも食うか?」
「………うん」
悦子の紹介で知り合いになった。
会って二回目でカラダを許した。
そのディスコでは、晴美と悦子はそこそこに知られていて、黙っていても男たちが群がる。
悦子は愉悦に浸っていたが、晴美は空虚みたいな感覚が取れなかった。
「そういえば、新しいバイト始めたんだって?」
「うん…」
「悦子に聞いたけど、なんか田舎者と再開して険悪だって聞いたぞ」
「別に…険悪じゃないけど…」
「どんな奴だ?」
「まぁ…普通かな…背も高くないし、あか抜けてない感じかな…」
「ハハハッ!まぁ、田舎から出てきたんだから仕方ないな!」
そういう野上も栃木県の出だ。
本人は嫌がるから言わないが。
「どうする?泊まるか?」
「……いいよ」
地元の道楽息子だから金はある。
高級マンションに住んでて、晴美以外のオンナも数人いる。
その晩も抱かれた。
また野上だけが果てた。
土曜日。
「おはようございます」
悦子と晴美は、仕事に専念した。
山咲も受付しながら審査とやりとりしてる。
まだ、晴美と伸一の間にはぎこちなさが残っていた。
その日は晴美と伸一が食事に出た。
食堂で向かい合わせに座った。
(何話せばいいんだろう…)
戸惑う晴美の顔を伸一は察した。
「下田さんて東京生まれですか?」
「えっ?…はい」
「どちらですか?」
「実家は王子です」
「あー王子製紙発祥の地ですよね?」
「はい?」
晴美はよく知らなかった。
「いや、王子製紙って会社ですよ」
「あー…そうなんですか?」
「知りませんでしたか?」
「はぁ…興味無いので…」
「私は北海道の旭川市なんですよ」
晴美には北海道は知ってても、旭川なんて地名を初めて聞いた。
「すいません、知らなくて…」
「まぁ、東京の人はそうですよね…」
ラーメン啜りながら、伸一が続けた。
「でも、東京って独特な雰囲気があるなぁ」
「独特?…」
「こんなに人いるのに、他人には干渉しないし、狭いし、水も美味しくないけど集まる場所でしょ?そこに都会の魅力があるのかなぁ…」
「私には分かりませんケド…」
「ハハハッ…地元だから分かんないですよね。でも、下田さんてまさに東京の女性って感じですよ」
「へっ?…どこがですか?」
「美人だし、スタイルもいい。何よりオレの地元にはいないあか抜けた美人て感じ…」
「私なんて…悦子の方がモテます」
「確かに、尾美さんもキレイですよね」
(ナンパしてんのかな?)
「山咲さんには彼女さんいるんですか?」
「えっ?オレはいませんよ。まだ独身主義だから…」
(まぁ、こんなオトコなんてそんなもんだろう)
晴美は山咲をしげしげと眺めた。
どうみても不釣り合いな感じだ。
顔もカラダも全てが普通。
オンナから見れば魅了するものが無い。
「そろそろ時間ですね」
二人はカウンターに向かった。
その夜。
晴美は野上とベッドで戯れていた。
「…なぁ、晴美」
「ん?…」
「まだ家から抜け出したいのか?」
「……まぁ…ね」
裸にタオルケットを巻いて、晴美はタバコに火をつけて煙を吐いた。
「俺ん家に来るか?」
「何人もいるオンナ達とかち合う気は無いわ」
「気にするなよ、そんなことさぁ」
「アナタのオンナ連中に興味は無いけど、恨まれても困るから…」
「ハハッ…恨むようなヤツはいないよ」
「じゃあ結婚してくれる?」
「いやぁ…そんな気はないよ」
「ならダメね…私があの家を出るのは、お嫁さんとして出て行きたいの」
「晴美がお嫁さんねぇ…」
「あら、これでもいい妻になるわよ」
野上は答えずシャワーを浴びに部屋を出た。
晴美は窓の外の夜景を眺めた。
(何してるんだろ…)
翌週の土曜日。
晴美と悦子は、またカード募集をしていた。
「お二人とも今日は予定ありますか?」
「いいえ」悦子が返事した。
「良かったら晩御飯どうですか?」
「あっ、それ山咲さんの奢りですかぁ?」
悦子は笑顔で訪ねた。
「もちろん」
「行きます!ねっ、晴美もね?」
「えっ…うん」
晴美は戸惑った。
悦子がいなければ断っていた。
仕事終わりに三人はパスタ屋に入った。
「しかし、二人とも評判良いですよ。店のマネージャーから、二人を固定で入れてくれって言われました」
「ええっ?そうなんですか?」
悦子が喜んだ顔をしてる。
晴美は愛想笑いだ。
「二人が入ってくれてから、週間の申し込み件数がかなり上がってましてね。私からもお願いしたいですよ」
「へぇ~そうなんだ!晴美、良かったね」
「…うん」
ふと、晴美は伸一の首のキズが目に入った。
「あの…そのキズは?」
「あー、気になります?」
伸一は指で触りながら聞いた。
「いえ、目に留まったもので」
「これは昔、付き合ってた子が車に轢かれそうになりましてね、代わりにオレが轢かれてしまって…」
「えっ!大丈夫なんですか?」
悦子が身を乗り出した。
「飛ばされて転んだら、ガラスの破片が刺さってしまって」
晴美は驚いた。
よくある話かも知れないが、庇うなんてそう出来るものでもない。
(そうなんだ…)
「じゃあ、その子とは?」
「ハハッ…恥ずかしながら、他の男に取られてしまいました」
「どーして?そんな怪我までしたのに…」
「まぁ、高校生でしたからね。なんか、キズのあるのが耐えられなかったらしい…」
「おかしくない?守ってくれたのに!」
「それからギクシャクし出して、退院したら他の男と仲良くなってました…」
「ヒドイ!」
バン!とテーブルを悦子が叩いた。
晴美も伸一も驚いた。
大した反応の無い晴美が叫んだから、周りも動きが止まった。
「なんなの!その子は?人としておかしいです!」
「ちょ、ちょっと悦子…」
晴美の制止で我に帰った。
伸一も呆然とした。
「……ごめんなさい」
「でも、その子もヒドイわね」
「見舞いにも来なかったから、どうしたかな?って思ってたけど、とうとう退院まで来なかったですよー」
「ケガは酷かったんですか?」
「破片が少しあったからそれを取り出して終わりです。ただ、手術だったからキズは長くなりましたね」
「ところでお二人は彼氏は?」
「二人ともいないんですよ」
悦子が返した。
「こんなキレイなのに…そうか高嶺過ぎて声かけられないとか?」
「さぁ…とにかくいないのは事実ですよ」
帰り道。
晴美の中で伸一の印象が変わりつつあった。
具体的には分からないが、以前のような悪印象は消えていた。
あのキズが痛々しく見え、見舞いにも来ない彼女に苛立ちを感じていた。
(ありえないわ…)
悦子がボソッと話しかけた。
「ねぇ、山咲さんて男らしいね」
「えっ?」
「だって、彼女を庇ってヒドイ目にあったのに、笑って話すなんて出来ないことよ」
「…うん、そうだね」
「なんか、カッコよく見えちゃった!」
「悦子のタイプじゃないわよ…」
「あら、私は面食いじゃないわ」
「よく言えるわね、今までのオトコなんて皆んな2枚目じゃない!」
「そうだっけ?」
「そうよ」
「来週もバイトしようかな?晴美はどーするの?」
「……うん、私も…」
悦子の中で、伸一を見る目が変わっていた。
当時のアルバイト時給は、楽勝で千円を超えていた。
バブル期の面白い事情である。
千円でも「安い」レベルなのだ。
キャンペーンガールと呼んでいたが、学生から社会人までいた。
評判がいいと、時給も上がるから頭の良い子は必死に働いた。
ある面接日。
伸一は風邪をひいて3日ほど休んだ。
代わりに所長が面接した。
土曜日は募集の熱い日だ。
伸一は直行で店に向かった。
体がまだ本調子ではないが、仕事には耐えられる。
朝の準備で早めに店に入った。
今日から新人二名がやってくる。
伸一含めた三名で一日中募集だ。
「おはようございます」
「おは…あぁぁっ!」
「あっ…」
目の前に…あのアバズレがいた。
目の前に…あの田舎者がいた。
そして、1人だけ状況を呑み込めない者が。
固まった。
(えっ……?)
伸一は、風邪気の残る頭で考えた。
休んだ面接日に、彼女が来たのだろう。
人手が足りないから、よほどおかしくない限り採用になる。
もちろん、所長は二人のやりとりを知らない。
「え…あ…山咲 伸一です。よろしく」
「尾美 悦子です」
そして、アバズレが目を伏せながら挨拶する。
「下田 晴美です…よろしく…」
伸一は、募集業務を淡々と説明した。
二人も真剣に聞いていた。
「では、これから始めます」
その日はセールもあり、いつもより申し込みが多かった。
それほど難しくもないので、二人はすぐに覚え、接客も良く店のスタッフ受けも良い。
交代で昼休憩。
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「悦子…最悪なんだけど」
「どしたの?」
「あの山咲よ、東京駅でケンカしたヤツ」
「マジで?」
「顔見て倒れそうだったわ」
「どーするのよ?」
「もう、辞めるわよ。あんなコト言われて続けられないもの」
「そっか…」
「悦子は気にしないでね」
「でもさ、感じは悪くないと思うんだけど…」
悦子には、それほどの嫌悪感が無い。
食堂でも二人は目立った。
タイプは違うが、モデルっぽいスタイルに色気が満載だ。
店のサービスマネージャーが近づく。
「やぁ、ずいぶんとキレイなアルバイトさんだね。今日から?」
「あっ、はい…」
「いやぁ、これは楽しみだよ。是非、続けて店に来てよね!」
「はぁ…」
午後もそれなりに人が来た。
夕方の終わりになって、片付けた後、伸一は晴美と悦子に話しかけた。
「二人ともお疲れ様でした。不慣れで大変でしたか?」
「いえ、大丈夫です」と悦子。
晴美は「いえ」とだけ返した。
伸一は晴美だけ呼んだ。
「ちょっといいですか?」
「…はい」
「この間の事は謝ります。まさか、こんな形で再開するとは思わなかった」
「ということは、山咲さんに非があると認めるのですね」
「ぶつかったのはワザとじゃない。ただ言葉が乱暴過ぎた事はお詫びします」
「私はあんな事言われて、許せない気持ちなんですけど…」
それなら、オマエはどうなんだよ!と思ったが我慢した。
「それはそうだと思います。だが、今日の仕事ぶりを見てお二人が必要だと感じました。わだかまりを抱えたままでは、仕事にも影響が出るから、水に流して…とは言わないけど続いてもらえませんか?」
晴美は即答しなかった。と、言うより出来なかった。
「考えておきます。失礼します」
晴美はそのままロッカーに向かった。
伸一は悦子に「聞いてます?」と尋ねたら、無言で頷かれた。
「仕事自体合わないですか?」
「いえ、そんなことありません…ただ晴美は…」
「ですよね、負担かけて申し訳ないですが、お二人の仕事ぶりを見てて、私も続いて欲しいと思いました。店のスタッフにも評判がいいと言われてます。尾美さんからも、下田さんにお願いしてくれませんか?」
「はい…言ってみますね」
翌週。
晴美の部屋の電話が鳴った。
「はい、下田です」
「ファイオスの山咲です」
「あぁ…どうも…」
「またアルバイトお願い出来ないかと…」
「……いつですか?」
「今週の土日です。尾美さんはオーケー貰ってます」
「分かりました」
晴美は何故か断れなかった。
悦子の援護射撃もあるが、キチンと詫びてきた伸一の姿に好感を持てたのが大きい。
ボォーッとしてると、また電話が鳴った。
野上 明からだ。
いわゆるセフレみたいな存在だ。
ディスコで知り合い、時々体を重ねる。
「何してんの?」
「別に、ヒマしてる」
「出てこいよ!いつもの所にいる」
「うん、わかった」
バー「ストレンジ」が会う場所だ。
野上はスマートな遊び人だ。
結婚向きではない。
スタイルも顔もいい。
DCブランドのスーツも似合う。
軽く飲んでホテルに向かう。
「あん…あっ、はぁぁぁっ…」
乳首を舐められ、野上は晴美のパンティの上からクリを刺激した。
「ここだよな」
「いやぁ…あっ、ヤダ…あん!」
晴美の股間は、否定しようないぐらい濡れていた。
「こんなに濡らして…」
「あっ、あぁっ…ばかぁ…アン、あっ」
野上のペニスを咥え、何度も行き来させる。
「晴美は口が小さいから今一つだなぁ」
フェラもそこそこに挿入に移る。
野上自身が晴美を貫く。
「はぁぁぁっ!あっあっ」
腰が動く。
時間にして十分ぐらいで野上が果てた。
晴美はイッてない。
いつもそうだった。
「良かったろ?」
「……うん」
ホントのことは言えない。
不機嫌になる。
野上は自分が「最上の男」というプライドがある。
終わったら、先にシャワー浴びてタバコを吸う。抱きしめて「愛してる」なんて事はしない。
晴美は何故、野上と寝るのか分からなかった。
ただスマートさはカッコいいと思う。
しかし、それだけだった。
「なんか美味いもんでも食うか?」
「………うん」
悦子の紹介で知り合いになった。
会って二回目でカラダを許した。
そのディスコでは、晴美と悦子はそこそこに知られていて、黙っていても男たちが群がる。
悦子は愉悦に浸っていたが、晴美は空虚みたいな感覚が取れなかった。
「そういえば、新しいバイト始めたんだって?」
「うん…」
「悦子に聞いたけど、なんか田舎者と再開して険悪だって聞いたぞ」
「別に…険悪じゃないけど…」
「どんな奴だ?」
「まぁ…普通かな…背も高くないし、あか抜けてない感じかな…」
「ハハハッ!まぁ、田舎から出てきたんだから仕方ないな!」
そういう野上も栃木県の出だ。
本人は嫌がるから言わないが。
「どうする?泊まるか?」
「……いいよ」
地元の道楽息子だから金はある。
高級マンションに住んでて、晴美以外のオンナも数人いる。
その晩も抱かれた。
また野上だけが果てた。
土曜日。
「おはようございます」
悦子と晴美は、仕事に専念した。
山咲も受付しながら審査とやりとりしてる。
まだ、晴美と伸一の間にはぎこちなさが残っていた。
その日は晴美と伸一が食事に出た。
食堂で向かい合わせに座った。
(何話せばいいんだろう…)
戸惑う晴美の顔を伸一は察した。
「下田さんて東京生まれですか?」
「えっ?…はい」
「どちらですか?」
「実家は王子です」
「あー王子製紙発祥の地ですよね?」
「はい?」
晴美はよく知らなかった。
「いや、王子製紙って会社ですよ」
「あー…そうなんですか?」
「知りませんでしたか?」
「はぁ…興味無いので…」
「私は北海道の旭川市なんですよ」
晴美には北海道は知ってても、旭川なんて地名を初めて聞いた。
「すいません、知らなくて…」
「まぁ、東京の人はそうですよね…」
ラーメン啜りながら、伸一が続けた。
「でも、東京って独特な雰囲気があるなぁ」
「独特?…」
「こんなに人いるのに、他人には干渉しないし、狭いし、水も美味しくないけど集まる場所でしょ?そこに都会の魅力があるのかなぁ…」
「私には分かりませんケド…」
「ハハハッ…地元だから分かんないですよね。でも、下田さんてまさに東京の女性って感じですよ」
「へっ?…どこがですか?」
「美人だし、スタイルもいい。何よりオレの地元にはいないあか抜けた美人て感じ…」
「私なんて…悦子の方がモテます」
「確かに、尾美さんもキレイですよね」
(ナンパしてんのかな?)
「山咲さんには彼女さんいるんですか?」
「えっ?オレはいませんよ。まだ独身主義だから…」
(まぁ、こんなオトコなんてそんなもんだろう)
晴美は山咲をしげしげと眺めた。
どうみても不釣り合いな感じだ。
顔もカラダも全てが普通。
オンナから見れば魅了するものが無い。
「そろそろ時間ですね」
二人はカウンターに向かった。
その夜。
晴美は野上とベッドで戯れていた。
「…なぁ、晴美」
「ん?…」
「まだ家から抜け出したいのか?」
「……まぁ…ね」
裸にタオルケットを巻いて、晴美はタバコに火をつけて煙を吐いた。
「俺ん家に来るか?」
「何人もいるオンナ達とかち合う気は無いわ」
「気にするなよ、そんなことさぁ」
「アナタのオンナ連中に興味は無いけど、恨まれても困るから…」
「ハハッ…恨むようなヤツはいないよ」
「じゃあ結婚してくれる?」
「いやぁ…そんな気はないよ」
「ならダメね…私があの家を出るのは、お嫁さんとして出て行きたいの」
「晴美がお嫁さんねぇ…」
「あら、これでもいい妻になるわよ」
野上は答えずシャワーを浴びに部屋を出た。
晴美は窓の外の夜景を眺めた。
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「お二人とも今日は予定ありますか?」
「いいえ」悦子が返事した。
「良かったら晩御飯どうですか?」
「あっ、それ山咲さんの奢りですかぁ?」
悦子は笑顔で訪ねた。
「もちろん」
「行きます!ねっ、晴美もね?」
「えっ…うん」
晴美は戸惑った。
悦子がいなければ断っていた。
仕事終わりに三人はパスタ屋に入った。
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「ええっ?そうなんですか?」
悦子が喜んだ顔をしてる。
晴美は愛想笑いだ。
「二人が入ってくれてから、週間の申し込み件数がかなり上がってましてね。私からもお願いしたいですよ」
「へぇ~そうなんだ!晴美、良かったね」
「…うん」
ふと、晴美は伸一の首のキズが目に入った。
「あの…そのキズは?」
「あー、気になります?」
伸一は指で触りながら聞いた。
「いえ、目に留まったもので」
「これは昔、付き合ってた子が車に轢かれそうになりましてね、代わりにオレが轢かれてしまって…」
「えっ!大丈夫なんですか?」
悦子が身を乗り出した。
「飛ばされて転んだら、ガラスの破片が刺さってしまって」
晴美は驚いた。
よくある話かも知れないが、庇うなんてそう出来るものでもない。
(そうなんだ…)
「じゃあ、その子とは?」
「ハハッ…恥ずかしながら、他の男に取られてしまいました」
「どーして?そんな怪我までしたのに…」
「まぁ、高校生でしたからね。なんか、キズのあるのが耐えられなかったらしい…」
「おかしくない?守ってくれたのに!」
「それからギクシャクし出して、退院したら他の男と仲良くなってました…」
「ヒドイ!」
バン!とテーブルを悦子が叩いた。
晴美も伸一も驚いた。
大した反応の無い晴美が叫んだから、周りも動きが止まった。
「なんなの!その子は?人としておかしいです!」
「ちょ、ちょっと悦子…」
晴美の制止で我に帰った。
伸一も呆然とした。
「……ごめんなさい」
「でも、その子もヒドイわね」
「見舞いにも来なかったから、どうしたかな?って思ってたけど、とうとう退院まで来なかったですよー」
「ケガは酷かったんですか?」
「破片が少しあったからそれを取り出して終わりです。ただ、手術だったからキズは長くなりましたね」
「ところでお二人は彼氏は?」
「二人ともいないんですよ」
悦子が返した。
「こんなキレイなのに…そうか高嶺過ぎて声かけられないとか?」
「さぁ…とにかくいないのは事実ですよ」
帰り道。
晴美の中で伸一の印象が変わりつつあった。
具体的には分からないが、以前のような悪印象は消えていた。
あのキズが痛々しく見え、見舞いにも来ない彼女に苛立ちを感じていた。
(ありえないわ…)
悦子がボソッと話しかけた。
「ねぇ、山咲さんて男らしいね」
「えっ?」
「だって、彼女を庇ってヒドイ目にあったのに、笑って話すなんて出来ないことよ」
「…うん、そうだね」
「なんか、カッコよく見えちゃった!」
「悦子のタイプじゃないわよ…」
「あら、私は面食いじゃないわ」
「よく言えるわね、今までのオトコなんて皆んな2枚目じゃない!」
「そうだっけ?」
「そうよ」
「来週もバイトしようかな?晴美はどーするの?」
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悦子の中で、伸一を見る目が変わっていた。
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