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犯行は計画的に
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とある日曜日の朝、探偵の藤村来栖(ふじむらくるす)は淹れたてのコーヒーのにおいを楽しんでいた。いつも仏頂面の彼にしては今日は珍しく気分が良いようで、鼻歌を口ずさんでいる。そんな朝のひと時は、ノックもせず事務所に入ってきた闖入者によってかき消された。
「おいっ、来栖大変なんだ!」
その闖入者の名前は琢磨(たくま)と言って来栖の小学校からの腐れ縁の悪友ともいうべき人物だった。来栖は始め、とても驚いたような顔をしていたが、いつも通りの仏頂面に戻ると
「こんな日曜日の朝っぱらからどうしたんだ?」
と来栖は不機嫌そうな声音を隠そうともせずに言った。
「実は俺の隣の家で昨日火事があったんだよ!」
琢磨はそんな彼の様子など気にも留めずに、大声で言った。
「火事?それは不幸なことだろうけれど、そんなに騒ぐことか?」
「いや実は火事にあったやつ——小鳥遊悠馬(たかなしゆうま)っていうんだけど、会社の同僚なんだ。それで悠馬は今、あいつの火の不始末が原因で火事が起きたんじゃないかって疑われてるんだよ!」
そう彼は一気呵成にそう言うと、事務所のソファーにどかっと座った。相当急いで走ってきたのだろう、額からは汗がにじんできていた。
「それで、探偵をやってる来栖に話をちょっと聞いてもらおうと思ってきたってわけだ。っとその前に、水もらっていいか?ここまで走ってきたせいで喉がカラカラなんだ」
来栖は無言で立ち上がると、戸棚からコップを取り出し、それに水道水を注いで渡した。琢磨はそのコップを受け取り、ごくごくとのどを鳴らしながら一気にその水を飲みほした。そして、息をふぅと吐くと続けて語りだした。
「悠馬は俺と同期で会社に入社したやつで、俺といろいろ似ているところもあったせいかすぐに意気投合して、仕事外で遊びに行ったりもよくしてたんだよ。昨日もあいつと駅の近くの居酒屋で夜中まで飲んでたんだ。それで、べろんべろんに酔っぱらったあいつを家まで運んで寝かせてやって、俺も自分の家に帰って寝たんだ。そうしたら明け方にお袋が火事だって俺を叩き起こしたんだよ」
そこまで話して琢磨はふぅと一度息を吐いた。彼の汗は一向に止まる様子はなく、彼の座っているソファーにぽたぽたと汗が落ち、シミを作っている。だが、琢磨はそんなことになど微塵も気が付かない様子で話をつづけた。
「それで、急いで表へ出たら悠馬の家が燃え上がっていて、消防車も数台止まって消火活動をしてたんだ」
「それで、その小鳥遊悠馬さんはどうなったんだ?」
来栖は少しだけ心配そう聞いた。
「あぁ、消防隊の人たちが助け出してくれて、火傷とかはあるけれど命に別状はないってよ。でも、あいつの家も俺の家と同じ木造の古い一軒家だから、消火活動の甲斐なくほぼ全焼しちまったんだよ。火災保険には入ってるらしいけど、それでもあいつは相当落ち込んでたよ」
それで、と琢磨は続けた。
「警察は悠馬の火の不始末が原因だろうって言ってたけど、そんなわけがないんだよ。あいつは昨日相当泥酔していて、とてもじゃないが今日の朝に起きてるはずがないんだよ。起きれなきゃ、火の不始末もくそもないだろう?そう警察に言ったんだけど、全然相手にされなかったんだ。だからお前のところに来たんだよ。……それでお前はどう思う?」
琢磨は縋るような目で来栖のことを見た。その表情から、来栖にも琢磨の説を支持してほしいという想いが嫌というほど伝わってきた。だが、来栖は腕組みをしながら難しい顔をしていた。
「どうといわれてもね、情報が如何せん少なすぎるよ。せめて火元がどこにあったかくらいは分からないのかい?」
「まだ調査中だって言って、警察は言ってたぜ」
「じゃあ、彼に対して恨みを持っている人物とかはいるのかい?」
そう琢磨に聞くと、彼はとんでもないといいながら首を振った。
「あいつを恨むやつがいるなんて考えられないな。少しお調子者のきらいがあるけど、気のいいやつで困っている人がいるとほっておけないやつなんだよ。いわゆる、おせっかい焼きって感じだな」
そこまで聞いて、来栖は組んでいた腕をほどき琢磨をまっすぐに見て話し始めた。
「ふむ、今までの君の話が全て真実だとしたら、この火事の真相は大体わかったかな。その前に一つ質問していいかい?彼――小鳥遊悠馬君の部屋は相当散らかっていたんじゃないか?」
その質問に琢磨は目を見開いた。
「なんでわかったんだ?俺はそんなこと一言も言ってないぞ」
「順を追って説明しよう。まず放火であるか否かだけど、放火の場合2つのパターンがあげられる。通り魔的犯行と彼に恨みを持っていたものの犯行だ。でも、ここ最近放火事件があったという話は聞かないし、君の友人は人に恨まれる性格でもないという。これらによって放火である可能性は考えにくい。でも、当日彼は泥酔していたという。このことから導き出される答えは自然発火だよ。彼の家は散らかっているのだろう?大方、コンセントもさしっぱなしで掃除していないのだろうさ。きっとたまったほこりに漏電して発火が起こり、それが原因で火事が起きたんだろうな。この現象は湿度が高い時に起こりやすいから、昨日みたいな蒸し蒸しした夜はおあつらえ向きな条件だったしな」
そこまで話すと、琢磨は残念そうなっ顔を隠そうともせずに、そうかと言った。そして、他にもし何か思いついたら教えてくれと言い、礼も言わず肩を落として事務所から出て行ってしまった。
来栖はそんな彼の後姿を冷めた目で見送った。そして、琢磨が完全に事務所から出て行ったのを確認すると、おもむろに立ち上がった。そして、琢磨の使っていた硝子のコップを掴むと、無造作にゴミ箱へ放り投げた。だが、狙いを誤ったようで、そのコップは壁に激突し、粉々に砕けた。
しかし来栖は、砕けたコップなど目に入らないようで深く深くため息を吐き、頭を抱えてうずくまった。
「まちがえた」
来栖はソファーに染み付いた琢磨の——小鳥遊琢磨(たかなしたくま)の汗を恨めし気に、憎々し気に見ながらそう一言つぶやいた。
「おいっ、来栖大変なんだ!」
その闖入者の名前は琢磨(たくま)と言って来栖の小学校からの腐れ縁の悪友ともいうべき人物だった。来栖は始め、とても驚いたような顔をしていたが、いつも通りの仏頂面に戻ると
「こんな日曜日の朝っぱらからどうしたんだ?」
と来栖は不機嫌そうな声音を隠そうともせずに言った。
「実は俺の隣の家で昨日火事があったんだよ!」
琢磨はそんな彼の様子など気にも留めずに、大声で言った。
「火事?それは不幸なことだろうけれど、そんなに騒ぐことか?」
「いや実は火事にあったやつ——小鳥遊悠馬(たかなしゆうま)っていうんだけど、会社の同僚なんだ。それで悠馬は今、あいつの火の不始末が原因で火事が起きたんじゃないかって疑われてるんだよ!」
そう彼は一気呵成にそう言うと、事務所のソファーにどかっと座った。相当急いで走ってきたのだろう、額からは汗がにじんできていた。
「それで、探偵をやってる来栖に話をちょっと聞いてもらおうと思ってきたってわけだ。っとその前に、水もらっていいか?ここまで走ってきたせいで喉がカラカラなんだ」
来栖は無言で立ち上がると、戸棚からコップを取り出し、それに水道水を注いで渡した。琢磨はそのコップを受け取り、ごくごくとのどを鳴らしながら一気にその水を飲みほした。そして、息をふぅと吐くと続けて語りだした。
「悠馬は俺と同期で会社に入社したやつで、俺といろいろ似ているところもあったせいかすぐに意気投合して、仕事外で遊びに行ったりもよくしてたんだよ。昨日もあいつと駅の近くの居酒屋で夜中まで飲んでたんだ。それで、べろんべろんに酔っぱらったあいつを家まで運んで寝かせてやって、俺も自分の家に帰って寝たんだ。そうしたら明け方にお袋が火事だって俺を叩き起こしたんだよ」
そこまで話して琢磨はふぅと一度息を吐いた。彼の汗は一向に止まる様子はなく、彼の座っているソファーにぽたぽたと汗が落ち、シミを作っている。だが、琢磨はそんなことになど微塵も気が付かない様子で話をつづけた。
「それで、急いで表へ出たら悠馬の家が燃え上がっていて、消防車も数台止まって消火活動をしてたんだ」
「それで、その小鳥遊悠馬さんはどうなったんだ?」
来栖は少しだけ心配そう聞いた。
「あぁ、消防隊の人たちが助け出してくれて、火傷とかはあるけれど命に別状はないってよ。でも、あいつの家も俺の家と同じ木造の古い一軒家だから、消火活動の甲斐なくほぼ全焼しちまったんだよ。火災保険には入ってるらしいけど、それでもあいつは相当落ち込んでたよ」
それで、と琢磨は続けた。
「警察は悠馬の火の不始末が原因だろうって言ってたけど、そんなわけがないんだよ。あいつは昨日相当泥酔していて、とてもじゃないが今日の朝に起きてるはずがないんだよ。起きれなきゃ、火の不始末もくそもないだろう?そう警察に言ったんだけど、全然相手にされなかったんだ。だからお前のところに来たんだよ。……それでお前はどう思う?」
琢磨は縋るような目で来栖のことを見た。その表情から、来栖にも琢磨の説を支持してほしいという想いが嫌というほど伝わってきた。だが、来栖は腕組みをしながら難しい顔をしていた。
「どうといわれてもね、情報が如何せん少なすぎるよ。せめて火元がどこにあったかくらいは分からないのかい?」
「まだ調査中だって言って、警察は言ってたぜ」
「じゃあ、彼に対して恨みを持っている人物とかはいるのかい?」
そう琢磨に聞くと、彼はとんでもないといいながら首を振った。
「あいつを恨むやつがいるなんて考えられないな。少しお調子者のきらいがあるけど、気のいいやつで困っている人がいるとほっておけないやつなんだよ。いわゆる、おせっかい焼きって感じだな」
そこまで聞いて、来栖は組んでいた腕をほどき琢磨をまっすぐに見て話し始めた。
「ふむ、今までの君の話が全て真実だとしたら、この火事の真相は大体わかったかな。その前に一つ質問していいかい?彼――小鳥遊悠馬君の部屋は相当散らかっていたんじゃないか?」
その質問に琢磨は目を見開いた。
「なんでわかったんだ?俺はそんなこと一言も言ってないぞ」
「順を追って説明しよう。まず放火であるか否かだけど、放火の場合2つのパターンがあげられる。通り魔的犯行と彼に恨みを持っていたものの犯行だ。でも、ここ最近放火事件があったという話は聞かないし、君の友人は人に恨まれる性格でもないという。これらによって放火である可能性は考えにくい。でも、当日彼は泥酔していたという。このことから導き出される答えは自然発火だよ。彼の家は散らかっているのだろう?大方、コンセントもさしっぱなしで掃除していないのだろうさ。きっとたまったほこりに漏電して発火が起こり、それが原因で火事が起きたんだろうな。この現象は湿度が高い時に起こりやすいから、昨日みたいな蒸し蒸しした夜はおあつらえ向きな条件だったしな」
そこまで話すと、琢磨は残念そうなっ顔を隠そうともせずに、そうかと言った。そして、他にもし何か思いついたら教えてくれと言い、礼も言わず肩を落として事務所から出て行ってしまった。
来栖はそんな彼の後姿を冷めた目で見送った。そして、琢磨が完全に事務所から出て行ったのを確認すると、おもむろに立ち上がった。そして、琢磨の使っていた硝子のコップを掴むと、無造作にゴミ箱へ放り投げた。だが、狙いを誤ったようで、そのコップは壁に激突し、粉々に砕けた。
しかし来栖は、砕けたコップなど目に入らないようで深く深くため息を吐き、頭を抱えてうずくまった。
「まちがえた」
来栖はソファーに染み付いた琢磨の——小鳥遊琢磨(たかなしたくま)の汗を恨めし気に、憎々し気に見ながらそう一言つぶやいた。
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