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1章:冒険の終わりと物語の始まり
食事
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竈に火をつけ、調理を始める。さて献立は何にするか・・・とクロウは腕組みをして考える。まぁ体が冷えていそうだしスープ系がベストだろうと結論を下し、クロウは獣肉を燻製にしたものをまず軽く鍋であぶり始めた。
「後30分くらいしたら、飯できるからもうちょい待ってろよー」
そう声をかけると、
「まぁ、着替えにあんなものをよこしたぐらいだからね、期待せずに待っているさ」
とかわいくない返事が返ってきた。
「うますぎてほっぺが落ちても知らねーからな」
それはたのしみだーというやる気のない返事が聞こえてきた。彼女のほうを向くと、わらのベッドに横になっていた。見ると彼女の翠色の瞳はどこか焦点があっておらず、瞼は今にも閉じそうになっていた。クロウは彼女のもとへ歩いていき、上から布団をかぶせた。まぁ、いろいろ疲れたのだろう、飯ができるまでは寝かせてやろうかなと考え、彼は再び調理に戻った。食材の下処理とスープのだしを取り終え、あとは煮込むだけというところになって、背後からどこか不安げな、そして悲し気な声が聞こえてきた。
「いやだ・・・いやだ・・・にはならない、私には無理だ。私は・・はやく・・たいんだ」
振り返って彼女を見ると、どうやらクロウに話しかけてきたのではなく寝言のようだ。彼女の眉間にはその幼い顔つきには似つかわしくない深いしわができており、彼女の見ている夢が決して良い夢ではないことが見て取れた。クロウは何となくいたたまれない気持ちになり、調理ももうすぐ終わるので彼女を起こすことにした。
「おい、起きろ、晩飯だぞ」
明るい声でそう言って、彼女の肩をゆする。彼女はうっすらと目を開けると、バッと飛び起きた。そしてきょろきょろとおびえた表情であたりを見まわし最後にこちらを見た。次第に目の焦点があってゆき、次第におびえた目ではなくなり先ほどまでの不遜ともとれる顔つきに戻った。そしてこちらを見るなり
「レディーの寝顔をじろじろ見るなんて礼儀知らずじゃないかな」
と憎まれ口をたたいてきた。
「そういうことはよだれを拭いてから言うんだな」
彼女は慌てた様子で袖で口元をぬぐい始めた。その時、鍋のふたがカタカタと揺れ始め、水蒸気が上がり始めた。
「おっ、ちょうどできたみたいだな。ちょっと待ってな、ついでやるから」
鍋の蓋を取ると、ぶわっと蒸気が上がるとともに、干し肉のうま味、野菜の甘みを凝縮した匂いが部屋中に広がった。それに呼応するように再び彼女の腹の虫が元気よく鳴いた。クロウはにやりと笑いながら彼女をからかうように
「今、注いでるからもうちょい待てよ」
といった。彼女は大変不本意そうな顔で
「・・・何も言ってないだろう」
と返した。クロウは器に熱々のスープを注ぎ、スプーンを添えて若干恥ずかしそうにしている彼女に渡した。彼女はそれを受け取ると、警戒するようにクンクンと匂いを嗅ぎ少しだけスープをすすった。彼女はハッとした顔をして、うま味のしみ込んだ野菜を口へと放り込んだ。そしてがつがつとスープを食べ始め一分足らずで完食した。そして器をこちらへ向け
「お代わり!」
と元気よく言ってきた。
「はいはい、ちょっと待っとけ」
クロウはそう言い、再び器になみなみとスープを注いで戻ってきて彼女に渡した。彼女はご苦労と偉そうに言い再び食べ始めた。半分ほど食べたところで彼女は食べるのをやめ、クロウを見ていった。
「そういえば、今更だけど君の名前はなんていうんだ?」
「ほんとに、今更だなぁ。・・・俺の名前はクロウだ、そっちは?」
とクロウは自分の分のスープをすすりながらそう言った。
「あぁ、私の名前はアリスだよ、よろしく魔王を討伐した英雄さん」
一瞬の空白、クロウは始め何を言われたか分からなかった。
「そんなに驚かないでくれよ。10年前のことで、確かに君の顔を知っているものは極めて少ないだろうが、ゼロではないんだよ」
まぁ、私たちの国はごたごたしてて勇者どころじゃなかったってのもあるがね、と彼女はひとりごちた。クロウはそんな彼女を鋭い目つきで睨んで
「・・・それで俺の身分を知ってて、魔人さんが何のようだ?」
彼女は敵意を向けられて、慌てたように
「おいおい、魔人だからってそんなに邪険にしないでくれよ。人と魔人の違いなんてほとんどないんだしさ。私はねクロウ、君にお礼を言いに来たんだよ」
お礼?とクロウは眉をひそめた。自国の王を殺されたのだ、恨みこそすれ感謝されるいわれはないだろう。
「私はね、魔王――あいつのことが大嫌いだったのさ。私の大切な人があいつにひどい目にあわされたからね、それこそ殺したいくらい憎かった。だけど、私はどうしようもなく無力だったからね、どうすることもできなかった。」
彼女はふぅと一息はくと、続けて
「そんな時に、魔王を討ちとってくれたものが現れた――—それが君だよ、クロウ。一言君に礼が言いたかったんだが、君は人で私は魔人だ。まさか国に帰ってしまった君を訪ねていくわけにもいかないだろう?最近は落ち着いているとはいえ、人と魔人は敵対しているのだからね。」
そう言って、アリスは少し悲しそうな翳りのある顔をした。しかし次の瞬間には笑顔に戻って
「しかし、最近“迷いの森”付近で危険な魔獣を人里に下りないよう森へ帰している男がいると聞いてね。詳しく話を聞いてみると、特徴が驚くほど一致しているときた。そこで私は君だと確信して、訪ねてきたわけさ」
なるほど、と納得しかけてクロウは
「いや、待てよ。お前川で最初に会ったとき『君は誰だ?』って言ってたじゃないか?」
あぁ、あれねと彼女は何でもないように
「あれは魔人ジョークだ」
といった。とてつもなく嘘くさい気がしたが、追及したところでのらりくらりとかわされる予感がしたのでクロウは別の質問をした。
「それで、用事は礼だけか?それだったら、明日には出て行ってくれよ。俺は忙しいんだ」
クロウはできるだけ淡白に、冷たく言い放った。万が一にでも呪いが発動してほしくなかった。彼女が、人ではなく魔人だとしても――。
「まぁまぁ、そう冷たくしないでくれよ。本題は別にあるんだ」
そう言って彼女は先ほどまでの明るい表情からうって変わって、真剣な表情で端的に言い放った。
「君にかけられた呪いに関してだよ」
「後30分くらいしたら、飯できるからもうちょい待ってろよー」
そう声をかけると、
「まぁ、着替えにあんなものをよこしたぐらいだからね、期待せずに待っているさ」
とかわいくない返事が返ってきた。
「うますぎてほっぺが落ちても知らねーからな」
それはたのしみだーというやる気のない返事が聞こえてきた。彼女のほうを向くと、わらのベッドに横になっていた。見ると彼女の翠色の瞳はどこか焦点があっておらず、瞼は今にも閉じそうになっていた。クロウは彼女のもとへ歩いていき、上から布団をかぶせた。まぁ、いろいろ疲れたのだろう、飯ができるまでは寝かせてやろうかなと考え、彼は再び調理に戻った。食材の下処理とスープのだしを取り終え、あとは煮込むだけというところになって、背後からどこか不安げな、そして悲し気な声が聞こえてきた。
「いやだ・・・いやだ・・・にはならない、私には無理だ。私は・・はやく・・たいんだ」
振り返って彼女を見ると、どうやらクロウに話しかけてきたのではなく寝言のようだ。彼女の眉間にはその幼い顔つきには似つかわしくない深いしわができており、彼女の見ている夢が決して良い夢ではないことが見て取れた。クロウは何となくいたたまれない気持ちになり、調理ももうすぐ終わるので彼女を起こすことにした。
「おい、起きろ、晩飯だぞ」
明るい声でそう言って、彼女の肩をゆする。彼女はうっすらと目を開けると、バッと飛び起きた。そしてきょろきょろとおびえた表情であたりを見まわし最後にこちらを見た。次第に目の焦点があってゆき、次第におびえた目ではなくなり先ほどまでの不遜ともとれる顔つきに戻った。そしてこちらを見るなり
「レディーの寝顔をじろじろ見るなんて礼儀知らずじゃないかな」
と憎まれ口をたたいてきた。
「そういうことはよだれを拭いてから言うんだな」
彼女は慌てた様子で袖で口元をぬぐい始めた。その時、鍋のふたがカタカタと揺れ始め、水蒸気が上がり始めた。
「おっ、ちょうどできたみたいだな。ちょっと待ってな、ついでやるから」
鍋の蓋を取ると、ぶわっと蒸気が上がるとともに、干し肉のうま味、野菜の甘みを凝縮した匂いが部屋中に広がった。それに呼応するように再び彼女の腹の虫が元気よく鳴いた。クロウはにやりと笑いながら彼女をからかうように
「今、注いでるからもうちょい待てよ」
といった。彼女は大変不本意そうな顔で
「・・・何も言ってないだろう」
と返した。クロウは器に熱々のスープを注ぎ、スプーンを添えて若干恥ずかしそうにしている彼女に渡した。彼女はそれを受け取ると、警戒するようにクンクンと匂いを嗅ぎ少しだけスープをすすった。彼女はハッとした顔をして、うま味のしみ込んだ野菜を口へと放り込んだ。そしてがつがつとスープを食べ始め一分足らずで完食した。そして器をこちらへ向け
「お代わり!」
と元気よく言ってきた。
「はいはい、ちょっと待っとけ」
クロウはそう言い、再び器になみなみとスープを注いで戻ってきて彼女に渡した。彼女はご苦労と偉そうに言い再び食べ始めた。半分ほど食べたところで彼女は食べるのをやめ、クロウを見ていった。
「そういえば、今更だけど君の名前はなんていうんだ?」
「ほんとに、今更だなぁ。・・・俺の名前はクロウだ、そっちは?」
とクロウは自分の分のスープをすすりながらそう言った。
「あぁ、私の名前はアリスだよ、よろしく魔王を討伐した英雄さん」
一瞬の空白、クロウは始め何を言われたか分からなかった。
「そんなに驚かないでくれよ。10年前のことで、確かに君の顔を知っているものは極めて少ないだろうが、ゼロではないんだよ」
まぁ、私たちの国はごたごたしてて勇者どころじゃなかったってのもあるがね、と彼女はひとりごちた。クロウはそんな彼女を鋭い目つきで睨んで
「・・・それで俺の身分を知ってて、魔人さんが何のようだ?」
彼女は敵意を向けられて、慌てたように
「おいおい、魔人だからってそんなに邪険にしないでくれよ。人と魔人の違いなんてほとんどないんだしさ。私はねクロウ、君にお礼を言いに来たんだよ」
お礼?とクロウは眉をひそめた。自国の王を殺されたのだ、恨みこそすれ感謝されるいわれはないだろう。
「私はね、魔王――あいつのことが大嫌いだったのさ。私の大切な人があいつにひどい目にあわされたからね、それこそ殺したいくらい憎かった。だけど、私はどうしようもなく無力だったからね、どうすることもできなかった。」
彼女はふぅと一息はくと、続けて
「そんな時に、魔王を討ちとってくれたものが現れた――—それが君だよ、クロウ。一言君に礼が言いたかったんだが、君は人で私は魔人だ。まさか国に帰ってしまった君を訪ねていくわけにもいかないだろう?最近は落ち着いているとはいえ、人と魔人は敵対しているのだからね。」
そう言って、アリスは少し悲しそうな翳りのある顔をした。しかし次の瞬間には笑顔に戻って
「しかし、最近“迷いの森”付近で危険な魔獣を人里に下りないよう森へ帰している男がいると聞いてね。詳しく話を聞いてみると、特徴が驚くほど一致しているときた。そこで私は君だと確信して、訪ねてきたわけさ」
なるほど、と納得しかけてクロウは
「いや、待てよ。お前川で最初に会ったとき『君は誰だ?』って言ってたじゃないか?」
あぁ、あれねと彼女は何でもないように
「あれは魔人ジョークだ」
といった。とてつもなく嘘くさい気がしたが、追及したところでのらりくらりとかわされる予感がしたのでクロウは別の質問をした。
「それで、用事は礼だけか?それだったら、明日には出て行ってくれよ。俺は忙しいんだ」
クロウはできるだけ淡白に、冷たく言い放った。万が一にでも呪いが発動してほしくなかった。彼女が、人ではなく魔人だとしても――。
「まぁまぁ、そう冷たくしないでくれよ。本題は別にあるんだ」
そう言って彼女は先ほどまでの明るい表情からうって変わって、真剣な表情で端的に言い放った。
「君にかけられた呪いに関してだよ」
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