世界で一番幸せな呪い

一字句

文字の大きさ
7 / 54
1章:冒険の終わりと物語の始まり

蒼龍

しおりを挟む
そして再び敵めがけて走り出した。ようやく顔を視認できる距離まで近づいてきた。フードを被った二人組はどちらも取り立て述べるような特徴のない男達だった。近づいてくるクロウを見て、焦ったのか先ほどよりも小さい火の玉をいくつか撃ってきた。しかし、クロウは意に返さず、それをすべて切り裂き、一気に二人組との距離を詰めた。

あと4メートルほどというところまで近づいたところで彼らはクロウに歯が立たないと悟ったのか、背を向けて走り出した。往々にしてだが、魔族は魔法という便利なものがあるゆえに体をあまり鍛えない傾向がある。その例にもれず逃げる2人組の走る速度はとても速いとは言えず、容易に追いつくことができた。クロウは二人組の片方の首筋に手刀を叩き込み、残ったほうは刀の峰で腹をうって昏倒させた。ドサッと二人組が倒れる音と共に、後ろの方からトタトタと走る音が近づいてきた。

振り返るとアリスがこちらへ向かって走ってきていた。彼女も例にもれず体力がないようで、30メートル程度の距離を走っただけにもかかわらず、息が切れていた。ぜぇぜぇと息を乱しながら倒れている二人組を見て

「殺したのかい?」

と聞いた。

「殺しちゃいない、峰打ちだよ。」

彼女は無表情で、そうかと言ったが、どこか安堵の表情を浮かべているようにも見えた。彼女は話題を変えようとしたのか、

「昨日から思っていたんだが、君の刀は普通の剣とは違うんだな。その刀は諸刃じゃないし、形状も刀身が直線じゃなく、反った形状をしている。」

と尋ねてきた。

「あぁ、俺の一族はもともとこの国の人間じゃなくてな、海を渡った島国から来たっぽいぜ。」

「だからそんなに珍しい瞳の色をしているのだね。漆黒の瞳なんて魔族でも見かけないよ。というか、来たっぽいって自分の出自くらい・・・」

とアリスは言いかけて口をつぐんだ。不思議に思ったクロウはアリスにどうかしたのか尋ねようとした。その時にようやく気が付いたのだ、背後で気絶している男の一人がいつの間にか意識を取り戻していたことに。十数年ぶりの対人戦で勘が鈍っていたうえ、あの二人組があまりにも歯ごたえがなさ過ぎたため、クロウは完全に油断してしまっていた。気が付いた時にはもう、二人組の片割れが蒼色の笛を吹き始めていた。周囲に、笛の音が響く。その音色は澄んでおりとてもきれいだったが、なぜだかとても背筋に悪寒がはしり、クロウは直感でその笛がとても危険なものだと解った。アリスも同様の感想を持っているようで、蒼白な顔で、恐怖に満ちた目でその笛を見ていた。そして

「その笛を斬るんだ!」

アリスがそう叫ぶのと、クロウの刀がその笛を斬るのはほぼ同時だった。その笛は真っ二つに両断されると、一瞬淡い蒼色に光り、そして次の瞬間消えてしまった。クロウは二人組を警戒しつつ、アリスのほうを向き、尋ねた。

「何なんだこの笛は?気のせいならいいんだが、すごい嫌な予感がするんだが、、、」

彼女はとても動揺し、焦っているように見えた。

「あぁ、正解だ、正解だとも。紛れもなく最悪の事態だよ。クロウ、今すぐここを離れるぞ!!」

続けて彼女はこう言った。

「蒼龍が来る」

クロウとアリスは風下に向かって平原をひたすらに走っていた。昨日雨が降ったせいだろう呼吸するたび花や草のにおいが肺に入り込み、むせそうになる。少し先を見ると崖になっていて行き止まりのようだ。

「おい、本当に蒼龍なんて来るのか?」

そうアリスに聞くと、彼女は髪を振り乱し死にそうな顔をしながら

「あ、あの笛はだね・・グラキウェスの笛と言って蒼龍を呼び出す笛なんだ。吹いた側も襲われるリスクがある上に、そもそもそんなに数があるはずが―――」

しゃべっている途中で小石につまずき、へぶっという音とともに原っぱにヘッドスライディングをかました。

「お・・おい、大丈夫か?」

 もしかするとアリスは運動能力が低い魔族の中でも飛び切りの運動音痴なのかもしれない。彼女はむくりと顔を上げクロウたちが走ってきたほうの、青く澄み切った空を見上げ

「どうやら、逃げ切れなかったようだね。」

とつぶやいた。空を見上げるが、一面青空で龍の姿は・・・いや、空に一点だけ青空より深い蒼い部分があった。その点は次第に大きくなり、こちらへ向かって一直線に向かってきていた。このまま逃げてもじり貧だと判断し、二人はその場に立ち止まった。先ほどまでの動揺っぷりとは打って変わり、アリスの表情はとても落ち着いているように見えた。

「・・・・クロウ、君は龍との戦闘経験はあるかい?」

「―——あるっちゃあるが、全然全くかなわなかったよ」

きっぱりとクロウはそう言い放った。

「・・・いや、だって君は勇者だろう、全くかなわないってことはないんじゃないか?なにか特殊な力を持っているんだろ?」

「ドラゴンとは魔王討伐の旅で一度だけ出会ったさ。だけど倒すなんてとてもとても、命からがら逃げ延びるだけで精いっぱいだったよ。俺の力は対魔族に関して限定で力を発揮するんだよ。単純にフィジカルの差が圧倒的にあるとどうしようもねぇさ」

「しかし、君はさっき魔法を斬っていただろう。あれみたいになんでも斬れるんじゃないのか?」

「俺の能力は刀で魔法を切り裂いて、魔法を霧散させる能力だ。単純に硬いものはきれやしねぇさ」

使えない能力だなぁとアリスはぼやいた。

「お前こそ何かドラゴンを撃退する魔法を使えないのかよ?」

「私の使える魔法は君にさっき見せたあれだけだが、何か?」

なにか問題でも?といった表情でアリスは答えた。問題しかねぇとクロウは思ったが、口には出さなかった。実際、泣き言を言ってもしょうがないのである、この蒼龍は待ってくれと言って待ってくれる相手ではないのだから。そうこうしているうちに蒼い龍は目前まで迫ってきていた。中途半端な勇者と魔人は目前へと迫る蒼龍の方へと向き直り、覚悟を決めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辺境で静かに暮らしていた俺、実は竜王の末裔だったらしく気づけば国ができていた

平木明日香
ファンタジー
はるか五億四千万年前、この星は六柱の竜王によって治められていた。火・水・風・土・闇・光――それぞれの力が均衡を保ち、世界は一つの大きな生命のように静かに巡っていた。だが星の異変をきっかけに竜の力は揺らぎ、その欠片は“魂”となって新たな生命に宿る。やがて誕生した人類は文明を築き、竜の力を利用し、ついには六大陸そのものを巨大な封印装置へと変えて竜王を眠りにつかせた。 それから幾千年。 現代では六つの大国がそれぞれ封印を管理し、かろうじて世界の均衡を保っている。しかし各地で異常な魔獣が出現し、封印の揺らぎが噂されはじめていた。 そんな世界を気ままに旅する青年がいる。名はブラック・ドラグニル。三年前からハンターとして魔獣を討伐し、その肉を味わいながら各地を渡り歩く放浪者だ。規格外の実力を持ちながら名誉や地位には興味がなく、ただ「世界のうまいものを食べ尽くす」ことを楽しみに生きている。 ある日、光の王国ルミナリア近郊で王女ユリアナが大型魔獣に襲われる事件が起きる。死を覚悟した騎士団の前に現れたブラックは、その怪物をわずか数十秒で討ち倒す。彼にとっては雑魚同然だったが、その圧倒的な強さは王国中に知れ渡る。王女は自由に生きる彼の姿に心を奪われるが、ブラックは次の目的地へ向かう計画を練るばかり。 だが彼自身はまだ知らない。 自らが竜族の末裔であり、世界を再び“統合”へ導く鍵となる存在であることを。 竜の封印が揺らぐとき、自由を愛する青年は世界の命運を左右する選択を迫られる。 これは、竜の記憶と人の魂が交錯する壮大なファンタジー叙事譚である。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...